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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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分岐点

 汗1つかかずに木剣を持ったまま地面に蹲る俺を見下ろすヘイル。それとは対照的に地面へと汗を垂らして痕を作り出す俺。

 

「あの」


「いや、分かってる」


「分かっているのならば敢えて口にはしませんが」


 流石のヘイルも動揺しているようだ。俺だって自分がここまでだとは思っては居なかった。昨日の授業でもヘイルと剣を合わせたのは2.3回だけだった。今日初めて剣をしっかりと合わせたと言っても過言ではない。

 これ以上続けても体を壊すだけと判断されて今日の修行は終わりとなった。明日以降もやるのならば1日に無理をせずにコツコツとやるのが大切らしい。


 蹲って息を整えている俺の元へと血がづいてくる土をふむ音。蹲っている態勢では話も禄に出来ないので地面に座り込む。息を整えようにも呼吸が浅くなっており時間がかかりそうだ。

 リーナの足音は俺の近くで止まった。俺のそばにいるわけではなくヘイルの近くにおり、2人とも立って俺を見下ろしている。


「ロージス。弱すぎる」


「分かってるって」


 時間にしたら30分も経っていないだろう。授業の時間でさえこれよりは長い。

 守りの固い相手にがむしゃらに攻め続けても、その牙城を崩すことは出来ずに此方のスタミナが無くなるのが先だった。グレンバード家で習ったことは構え方と基本的な型のみ。攻撃と言っても止まっている相手に打ち込むことしか無かった。

 木偶相手も昨日の授業も相手は止まっていた所に攻撃を繰り出していたことで忘れていたのかもしれない。相手も反撃をしてくるし此方の攻撃を避けてくる。


「ロージスさんの攻撃は分かり易すぎます」


「アレだけ捌かれれば嫌でも分かる」


「ロージスは攻撃をする時にその場所を見すぎ」


「見ないと攻撃できないだろうが」


「目線が1点に集中しすぎという話です。もっと全体を見て効率的に攻撃しないといけません。私の技を使うのならば尚更です。相手を観察して適切に対処をする事が大切なのです。それは守りに限った話ではなく攻めの場合も変わりません。相手の隙を付いて一撃で決める、それはリーナさんを使って攻撃をする時にも使えるでしょう」


 アーティファクトを使っての戦闘に関してはアーティファクトの意見に間違いはないだろう。ヘイルも自分の技で戦ってはいるがアーティファクトだ。それ相応の戦い方を分かっているのだろう。


「そう言えばヘイルって契約者は学園にいるのか?」


「いませんよ。生まれてこの方、誰とも契約をしていません」


「じゃあ完全自力ってことか」


「くれぐれも私が契約していないことは内密にお願いします。私がアーティファクトと知られるのは時間の問題だとは思いますが……」


「なんか問題あるのか?契約者が見つかるかもしれないだろ」


「ロージス。そんな簡単な話じゃない。人生を共にする相手」


 それは俺も分かっている。アーティファクトとしては誰かと契約し、武器として使われることも存在意義に感じるとリーナも言っていたので共通認識かと思っていた。

 決して誰彼構わず契約をすればいいと思っているわけではない。


「私が契約していないアーティファクトと知れば声をかけてくる人が来るでしょう。私は自分の決めた相手しか認めたくはないので最初から人と関わらないことが自衛にもなっているのです」


 普段から人と話さず外を見ている事には他人を拒絶する壁という意味合いがあった。


「俺たちと関わるのは良いのか?もしヘイルが嫌なら俺は無理に頼むつもりはないぞ」


「ロージスさんは既にリーナさんと契約しているではありませんか。アーティファクトは1人につき1人としか契約できません。その点ロージスさんはリーナさんを大切に思っている点も加味して私に契約を迫ってくる可能性は無いと思っていますので」


 大切に思っているのは確かだが声に出して言われると照れくさい。リーナの方を見ると誇らしげに俺の方を見ている。他人からでも俺がリーナを思っていることがバレバレに感じられていることに嬉しくなっているみたいだ。


「やっぱりリーナも俺がヘイルと契約できないから練習許可してるのか?」


「昨日も言ったけどそういうのじゃないよ。ヘイルの中身に感じるものがあっただけ」


「話したのは昨日が初めてだった筈ですが……」


 リーナはヘイルの方に身体を向ける。それに気圧されるように少しだけ体勢を逸らすヘイル。


「リーナさん、急にどうしたんですか?」


「ヘイルは私に何か感じることない?」


「感じることですか?特にはありませんが」


「そう」


 感覚的なことを言語化するのは難しいと言うが、リーナの行動は俺からしても意味が分からない。昔何処かで出会ったことがあってリーナが一方的に覚えている可能性もある。アーティファクト同士で何かを感じあう共鳴のようなものがあるのかも知れない。

 アーティファクトのことはアーティファクト同士じゃないと分からないこともあるのだろう。


「それよりもロージスさん」


「ん?なんだ?」


「そろそろ立ち上がったらどうですか?一応保健室に行ったほうが良いかと」


 喋っている内に呼吸も安定し、ただ地面に座って寛いでいるだけになっていた俺に右手が差し伸べられる。

 本当にリーナとヘイルの関係性が気になる。他の女性と話すだけで嫉妬してくるリーナが触れ合うことに何も言わないというのは疑問を通り越して興味すら湧いて来る。

 ヘイルの手はしっかりと剣を握って鍛えていたことが分かる手だったが、しっかりと女性らしさを備えた細長い指が俺の手との違いを物語っている。

 俺ももっと剣を握って鍛えなければと再度気合を入れ、ヘイルの手を取った。


「は?」


「え?」


「2人ともどうしたの?」


 俺の手とヘイルの手が触れた瞬間、感じたのは互いの身体を魔力が流れていく感覚。初めてリーナと契約した時に感じた繋がる感覚は魔力が互いの身体に流れる感覚だったのだと理解する一方でヘイルに触れた瞬間それが起こったことに対して戸惑いが産まれる。

 勿論その感覚を得たのは俺だけではなくヘイルも同じだったようだ。


「いえ、何でもありません。思ったよりも素直に手に触れられて驚いただけです」


「そう」


 ヘイルは空いている左手の人差し指を一本だけ立て、口元に持っていく。その動作だけで何も言わないで欲しいという事だけは分かった。

 ヘイルの言うことも勿論わかる。何が起こったのか分からない現状、予測だけで何かを言うことは変な先入観を持つだろう。ただ俺はリーナに相談したい、今感じたものは普通ではありえないことなのだ。


「ちょっと待ってくれヘイル」


「はい。何でしょう?」


「ヘイルの考えも分かる。でもこの感覚は俺とヘイルだけで収めてちゃだめな気がすんだよ。リーナにも相談したい」


「なんのこと?」


 顎に手を当てて考え込む。どうしてリーナと契約している筈の俺がヘイルと魔力で繋がることが出来たのか、考えても答えが出ない問題。今大事なのはそれを共有することで生じるリスクだろう。

 俺の頭では特にリスクがあるとは思えないが、アーティファクトとしては何か問題があるのかも知れない。俺達2人のやり取りに首を傾げて俺とヘイルを交互に見ているリーナを一旦落ち着かせ、ヘイルの返答を待つ。


「そうですね。これは私と貴方の問題ではなく私と貴方達の問題になるかも知れません。私が早計でした」


「こっちこそ良くわからないことになってすまん」


「ねえ、だからどういうこと?」

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