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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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関わり

 俺とリーナが話していると、タイミングよくヘイルが教室に戻ってきた。自分の席を一瞥するついでに俺の方を見てきた気がする。ヘイルからすればほぼ初めて後ろの席に居る俺とリーナを確りと確認した程度のことだろう。


「丁度いい。今教室に入ってきたのがヘイルだ」


「見た目は知ってる」


「態々紹介するまでもないか」


「今、こっち見たけど」


「いや、俺は何もしてない。自分の席を確認しただけだろ」


「あの子、アーティファクトだけど」


「は?」


 リーナの発言に驚き、思わず椅子を倒して立ち上がってしまう。その音にクラスの中にいた生徒はこちらを怪訝な目で見てくる。ただでさえ悪目立ちしているのだからなるべく静かな生活をしていきたいのに。

 倒れた椅子を下に戻して、リーナの耳元に顔を近づけてから小声で話しかける。


「んっ……」


 俺が声を発しようと少し呼吸をした瞬間、リーナから艶めかしい声が聞こえる。幸いにも小さな声だったため他の人には聞こえていないとは思うが、俺も驚いて思わずリーナから距離を取ってしまった。

 声を出したリーナはこちらを向くことはなかった。その代わりに、いつものリーナからは想像できないほどに耳が赤くなっている。白い肌のため、少し赤くなるだけでも目立ってしまう。


「なんか、悪い」


「なんか擽ったかった。変な感じ」


「気をつけるよ」


 本人は分かっていないようだが、恐らくリーナは耳が弱い。これまでも耳打ちしたことはあったような気がするが今みたいな反応は初めてだった。

 リーナの人間らしい反応を見る度にアーティファクトとはなんなのかという疑問が芽生える。武器化出来る存在ということは間違いないのだがどのようにして産まれるのかも分かっていない。アーティファクトはある時その場に産まれ落ちると言われており、アーティファクト本人に聞いても「気が付いたらそこにいた」としか言わない。何故言語が話せるのか、何故人の世の過ごし方を知っているのか謎が多い存在なのだ。


「いや、それよりもヘイルがアーティファクトって本当なのか?」


「実際に見た訳じゃないけどアーティファクト同士は分かる」


「それは知ってるけどよ」


「私には分かる。それに――」


「先程ぶりですねロージスさん」


 リーナが何かを言おうとした時、俺達2人以外の声が会話を遮った。会話に集中しすぎてヘイルが席に戻ってくることに気がついていなかった。

 このクラスでヘイルが誰かと話しているのは初めてのことだったのか、クラスの人達がこちらを一斉に見てくる。普段感じている視線とは別の視線を感じて恥ずかしい。


「おう。さっきは助かった」


「お互い様です」


 授業が終わってまで話しかけてもらえるとは思ってもみなかった。それも沢山の人の目がある中で。ヘイルは本当にリーナの事を気にしていないみたいだ。

 俺の服を何度も引っ張ってくるリーナの方を見ると俺の方を見ておらず、ヘイルの方を見ていた。普段なら俺の方を見て何かを言いたげな目で見つめて来たりするのだが、珍しくヘイルの方に興味が向いたみたいだ。

 リーナが他の人に興味が湧いている今がチャンスと思い、友達作りに協力する。


「ヘイル、紹介するよ。この子が俺が契約しているアーティファクトのリーナ・ローグ。んで、リーナ。こっちが俺が今日剣術の授業で世話になったヘイル」


「ヘイル・リズレットです。よろしくお願いします。リーナさん」


 ヘイルからの自己紹介を経ても何も語らず見つめているリーナ。自己紹介というものを知らない可能性も無いとは言えないのでリーナの耳から少し離れた場所から小声で教えて上げる。


「相手が自己紹介したらリーナも自己紹介するのがマナーだぞ」


「違う」


「いや、違わないって」


 自己紹介し合うことに違うことはない。やっぱりリーナは俺と女性が仲良くすることに対して良い感情を抱いていないのではないだろうか。そうなってくると放課後の練習にも差し障ってくる。なんとかリーナにはヘイルのことを好意的に思ってもらいたい。リーナの事を悪く思わない人と関わって欲しいのだ。


「リーナ、ヘイルはお前の事を悪く思ってない人なんだ。悪魔の子とかそう言う悪感情を持ってない。だから仲良くして欲しい」


「ロージスそうじゃない」


 何を言えど頑ななリーナはヘイルから目線を逸らさない。その目線に真っ向からぶつかる様にヘイルもリーナを見続けていた。


「ヘイル・リズレット」


「なんですか?」


「貴方、だれ?」


「……ふふ。その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


 2人とも俺の自己紹介を聞いていなかったのだろうか、という馬鹿な思考はすぐに切り捨てる。冗談を言っているような雰囲気ではなかった。

 互いに相手の名前は認識しているのにも関わらず、何かが分からない様子。


「いや、どういうことだよ」


 俺を挟んで行われるその会話と空気感に耐えきれず俺は2人の視線を裂くように声を発した。2人の視線が俺の方へと急に向く。


「分からない。多分アーティファクト同士だから相手の名前に違和感があるのかも」


「バレットの時も感じてたのか?」


「そう言えば感じてない」


「あの、少しいいですか?」


 ヘイルを差し置いて俺達2人で会話をしてしまっていた。普段から誰かが会話に入ってくることは無いため、ついつい2人で話し込んでしまう。

 少しだけ申し訳なさそうに声を掛けるヘイルに対して申し訳なく思う俺と何事もなくヘイルに向き合うリーナ。


「悪い。なんだ?」


「私がアーティファクトということを今日の授業の前からロージスさんは知っていたのですか?」


 剣術の授業でヘイルとペアになったのは教師の采配によるもので全くの偶然だった。ヘイルの名前もその時知ったくらいなのでアーティファクトということは全く知らなかった。

 仮にヘイルがアーティファクトだと知っていたとしてもリーナと契約している俺には特に意味がない。アーティファクトとは1人に対して1つの武器としか契約できない。


「いや知らなかった。なんなら今知った」


「リーナさんは当然分かっていましたよね」


「私がアーティファクトだからアーティファクトの事は分かる。何となく雰囲気とか気配で」


「それは私も同じなので」


 会話が止まってしまう。俺たち3人とも人と話すことには余り慣れていないのだ。昔の俺なら考えなしに突っ込んでいけたかも知れないが、リーナと生きていくと決めた以上考えなしの行動は取れない。リーナの印象を良くしたい。


「ロージス」


 再び俺の服を引っ張るリーナ。リーナは俺の服を引っ張って呼びかけてくることが多いが、近くにいる時には大体俺の服の裾を掴んでいるので行動に起こしやすいのだ。家の呼び鈴みたいにされても困るのだが分かりやすいので何も言わない。


「なんだ?」


「ヘイルから剣術教わるんでしょ?」


「そのつもりだが……。な?」


 何となくヘイルに同意を求める。リーナを説得するのに協力をして欲しいと目線で訴えかけると軽く頷いて了承をしてくれた。

 リーナが反対することは考えていたので、これからどう説得するかが俺の契約者としての腕の見せ所だろう。


「はい。私が教えるという約束をしました。何か問題がありますか?」


「勿論リーナも付いてきてくれ」


「ヘイルならいいよ」


「ん?」


「ヘイルならロージスと関わってもいいよ」

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