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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛や恋や血の繋がりについての考察(短編集)

燃えるような恋じゃないからって好きじゃない訳じゃない。

作者: だぶちー

私はテトラ。伯爵令嬢だ。

自分で言うのもなんだけど穏やかな性格をしている。

高位貴族の御多分に洩れず産まれる前から婚約者がいる。

アイリック・パウワー様侯爵家の次男だ。

彼はとても若い。なんにでも驚き感動し、まるで芽吹いたばかりの若葉の様。


そのキラキラ光る様を微笑ましく眺めていた。

そんな彼が初恋をした。


相手も若い御令嬢だ。シエン・ルフォウ子爵の御令嬢だった。

きっと同じように驚き、同じように瞬く間を分かち合えるのだろう。

私のような老婆のような見方でなく、感動をそのまま共感できる素敵な方だ。


「いつ、婚約を解消するのです?」


婚約者は目を見開いて驚いていた。

「え、テトラ。なんの」

皆まで言わせず私は言った。

「ルフォウ子爵令嬢の事ですわ。

お遊びではないのでしょう? そろそろ動きませんと手遅れになりますわよ。」

小首を傾げて微笑んだ。


真っ赤に染まり、呆気に取られたあなたを置いて私は続ける。

「今ならまだ間に合いますわ。私との婚約はなかったことに致しましょう。」

 

あら、婚約者様は反応できず、まだ固まっていますわ。

しょうが無いわね。本当に可愛いひと。

「こちらから両親には説明致しますね。円満な解消に致しましょうね。」


少し寂しいけれどにっこり微笑んで終わりにしたわ。

どうしたって私たちの関係(せいりゃく)は恋には勝てはしないのですもの。




 木漏れ日の中とりは舞う

 まるで春の野花のように

 風が吹き黄色の蝶は舞う

 これが最後とやわらかに


中庭で歌を歌っていると幾分か気持ちが紛れた。

私に甘い両親はすぐに婚約を解消してくれたのだ。


「新しい婚約者を探さないといけないわねぇ。」


これまで他の方って考えたこともなかったのよね。

産まれた時から決まっていたし、ほかに目を向けることは誠実じゃないじゃない。


とりあえず夜会に赴くべきかしら、エスコートなしでも参加は出来るものかしら?

婚約者が贈ってくれたドレスは着てはいけないから

新調しないとならないわね。

公然に彼の色を纏っていたから、何色のドレスを頼めばいいかもわからない。

あら、私の好きな色って何色かしら。




「お嬢様。お綺麗です。」


とりあえず、侍女に似合う色を見繕ってもらって、

父のエスコートで夜会に出ることにした。


私の家に来てくれる婿を探さないとならない。

のだが、疲れてテラスに出た私を待っていたのは元婚約者のアイリックだった。


「え、まだ動いてなかった、の?」


赤い顔をして、幼馴染は告白ができていないことを相談してきた。


「私はあなたに幸せになって欲しいわ。

この人生は一度しかないのよ。後悔してほしく無い。

失敗したらまた戻ってくればいいじゃない?

慰めてあげるわよ。私と貴方の仲じゃない。」


冗談めかして言った。頑張れと背中を押せる自分が嬉しい。


「ありがとう」


彼は礼を言って去っていった。


庭で遊ぶ時、木漏れ日に細める眼差しが

私といる時の好意がやわくほどけるような綿菓子みたいな雰囲気が

大好きだった。


「それでいいのか?」

それで良い。

「お前は後悔しないのか?」

私は後悔なんて


——不躾に重い氷みたいな声だ

「婚約者だったんだろう? 復縁を望むのなら何故行かせた?」


ええっと。

どちら様でしょうか?

他人に見られていたなんて知らなかった。

こんな時正直に答えた方がいいの?

とりあえず、後ろから聞こえた声に振り返る。



黒い。なんだか凄く黒い人がいた。

全身黒尽くめって、いえ、似合ってはいる。なんせ整った容貌である。

何着てもまぁ似合うわね。この顔なら。

凍える様な声に対し、物語に出てくる王子様のような少し下がり気味の眦に驚いている私がいる。


いけない。変な顔をしてるわ。慌てて微笑んでゆっくり礼をする。


「ご機嫌よう。見苦しいところをお見せしてしまったかしら。恥ずかしいですわ。」


(盗み聞きですか?恥ずかしいですよ)


貴族特有の言い回し、自分の事を言ってるようで、相手の不躾な態度を責める。

元婚約者は、最後までわからなかった会話。


「此処は疲れた羽を休める気持ちのいい場所ですから、誰が休んでいても咎められる事はないでしょう。」


(お前も俺もな)


確かに開かれた場所だけれど、人がいれば避けるでしょうに。


「それで質問に答えはくれないのか?」


「後悔でしたかしら。致しませんわ。

彼の仕合わせを幼馴染として願っておりますから。」


「好いていた様に思えたが?何故手放す必要が?」


「そうですね。どうしてでしょうか。」


確かに、彼が解消を言い出した訳ではない。

このまま婚約を続けていれば、婚姻は成った可能性は高い。

他の人に心があると知っているのに?

それでも自分と居て欲しいとは私には思えなかった。それが答えなんだろう。


「いえ。きっと。私の我儘ですわ。」


私の気持ちが弱かった。誰かと争ってでも手に入れたいと思えなかった。

彼を其れほど愛していなかった?


「……愛していなかった訳ではないわ」


「そうだな。側から少々見ていただけだが激しくは無くとも、深い愛情を感じた。」


それなら


「ただ、私がそういう性分だっただけ」


「成る程。そうか。なら、俺と婚約しないか?」


どのようにして、ならと繋がるのか、思考が追いつかない。


「わたくしあなたのお名前さえご紹介いただいていないのですけれど……」


「都合が良いんだ。お前は理性的で、恋に溺れない。醜聞を起こしたりしないだろう。

愛情は深くとも、譲れぬものではない。それは、中々得難きことだ。」


話を聞くと、先日、前当主が愛人に刺されて亡くなるというとんでもない醜聞を撒いた家の現御当主だった。

黒は喪に服していた故だった。

今日はどうしてもと主催者に請われ出席したが、居た堪れなく、テラスに避難して来ていたらしい。

家督は継いでいた為、領地経営に問題はないそうだが、社交界での醜聞は酷く。

公爵位という最高位の貴族であるにも関わらず、婚約者を決めかねていたそう。


「わたくしで宜しいのですか?」


「お前しかいない。母の様に愛情に縋ることをしない。愛人の様に金銭とプライドを第一とし浅慮な行動をとらない。父の様に自己に重きを置いて、周囲に要らぬ苦労を掛けない。理想を絵に描いたような人物だと判断した。」


「悪いが婿には入ってやれない。お前はきっと領主に向いている。後押しをするから、女伯爵として立ってくれ。子供が出来ずとも、其々(それぞれ)の分家から養子を取れば良いし、運良く2人以上授かれたならば、適性をみて其々を継がせよう。」


「ご家族は?」


「私の母は割って入った自分の所為だと己を責めていたが、最近やっと慈善活動に前向きになった。孤児の親として代わりがいないことを認識した様だ。愛人は放り出す訳にもいかず、痴情の縺れとはいえ貴人の殺人だ。処罰を与えない訳にもいかず、領地の端に軟禁し、労働を科している。知っての通り、一番厄介だった父はもう()い。」


断る理由は無かった。彼に付き合い、慌ただしい日々を過ごす中で、いつの間にか幼馴染の事は考えられなくなっていた。

社交界では醜聞を払拭すべく、仲睦まじくし何も問題などないと見せつけ、挨拶回りでは女伯爵となるべく根回しをし、これまで補助としてしか学んでこなかった領地の事を父と彼と共に学び直した。一年の婚約期間はあっという間に過ぎ去っていった。歌を歌う暇もなく、空を見上げて過去を憂う隙間さえない。勿論、幼馴染と会うこともなく。その後、片想いの彼女とどうなったのかさえわからず仕舞い。


「貴方に会ってから毎日時間が足りないわ。」


「そうだろう。俺は物心ついた頃からクズの尻拭いばかりで、自分の時間なんて無いに等しかった。お前に大した事はしてやれないが、こんな毎日が時間薬となる事を願っていたよ。想定通り効いている様で何よりだ。」


垂れ目のくせに眉間の皺がとれない彼の一生が、このまま尻拭いだけで終わるのは不憫過ぎる。

縁あって伴侶となったのだから、眉間の皺を伸ばして、たまには甘く微笑んで欲しいと思う私はすっかり絆されてしまっているのだろう。


願わくば、穏やかで平穏な愛情溢れる毎日を貴方と。



恋と愛と以前書いたクズ、を親に持つ苦労性の息子の話。本人よくても家族が大変だよって話でした。

尚、元婚約者が両想いとは言っていない。復縁も勿論ありえない。


御読み下さりありがとうございます。どこに書いたらいいのかわからないのでこちらに。ログイン面倒なのにいいねや評価お気に入り入れて下さった方々へ重ねての感謝を。ありがとうございました。

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