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第94話 恐ろしい紙切れ


「どういう事だ」


俺は目の前の紙面を見て、震えていた。


「あら、どうしたの?グレイ」


そう言ってアリシアが話しかけてくる。


「分からない。だが、とんでもない事になった」


俺は答える。


「・・・とんでもない事?何よ、それ」


俺は黙って手元の紙面をアリシアに見せる。



アリシアはそれを受け取り、

紙面に目を通す。


そして見る見る表情を変えていった。



「な、なによ・・・これ」


「知らん」


「なんでこんな事になってるの?あんた何したのよ?」


「知らん」


俺は答えた。




「とにかく、ここに行ってくる」


俺は身支度を整え、街に出る準備をした。


「ま、待って・・・私も行くわ」


アリシアが慌てて着いてくる。

俺たちは駆け足でブルゴーの街へと向かうのであった。





・・・

・・





「な、なんだこれは・・・」


現場に到着した俺たちは、

目の前の光景に驚く。


「ここって、確か・・・」


アリシアが呟く。

俺たちが辿りついたのは先日、

俺とアリシアが限界まで酒を飲んだ酒場であった。


何やら店の外装を改築中らしく、

工事用の幕が掛かっている。




「おお!待ってたぜ!」



そう言って俺たちに話しかけてきたのは、

見覚えのある男性。

たしか彼は、この店の店主だ。


「ちょうど今日、完成したところだったんだ。タイミングが良いな!」


店主は満面の笑みで言う。

どういうことだろうか。


「ちょっと待ってくれ・・・俺にはよく状況が掴めていないんだ」


俺は答える。



「状況?状況も何も・・・手紙は送っただろ?」


店主は答える。

俺は先ほど見ていた紙面を鞄から取り出す。


「・・・手紙って、これの事か?」


「おお、それだそれだ。いや、嬉しいぜ。俺も色々と入り用なタイミングだったんでな!」


店主が笑う。



「ちょっと待ってくれ・・・すまんが全く覚えていないんだ」


俺は言う。



「覚えてないってあんた・・・こんなにしっかりとサインしてるじゃないか。しかもあの夜は常連も多かったし、皆があんたの言葉を聞いてたぜ?」


店主が言う。


「・・・私、なんか少しずつ思い出してきたわ・・・グレイ、貴方・・・」



アリシアが隣で呟く。

うん、俺もうっすらと思い出してきた。

確かにそんな事があった気がする。


「契約だからな、今更取り消しは無理だぜ。まぁ、あまり心配するな!しばらくは俺が雇われ店長として切り盛りしていくからよ!」


そう言って店長が笑う。


俺は手元の紙面にもう一度視線を落とした。

その紙面には、

『権利書』と書かれていた。


俺はあの夜の自分の言葉を思い出す。




「おーい!新オーナーに見せてやってくれ!」


そう言って店主が職人たちに声を掛ける。


「あいよー」


どこかから声が返ってきて、

店に掛かっていた工事用の幕が取り外される。



「なっ・・・」


俺は思わず絶句する。


「この店名は正直、どうかと思ったけどよ。オーナーが言うなら仕方ねえよな。まぁ、ある意味前衛的かもな」


店主が苦笑いする。

幕の下から現れたのは出来たばかりの店の看板。


そこに書かれていたのは、





『灰色のゴブリン亭』



と言う文字であった。





「ハハ!おめでとう!これであんたも一国一城の主ってわけだ!」


そう言って店主が俺の背中をバシバシと叩く。


俺は酔った勢いで、

飲食店のオーナーになっていた。


「おっと。それからこれ、忘れんなよ?」


そう言って店主は、俺にもう一枚紙面を渡す。


「これ、は・・・」


俺はその紙面に目を通す。

そこには『請求書』と書かれていた。




「い、1500万ゴールド・・・?」


「聖都の店を買い取ったんだ。それにしては安い方だぜ!」


「グ、グレイ・・・あんた・・・」



俺は堪らずアリシアの方を見る。


「・・・アリシア、た、助けてくれ・・・俺、俺・・・」


懇願するように救いを求める俺。

だがアリシアは悲しそうな顔で俺を見つめ、

そしてそっと視線を逸らした。


「・・・諦めなさい」


アリシアの言葉を聞いて、

俺は全てが手遅れなのだと言うことに気が付く。


俺は膝から崩れ落ちた。


どうしよう。

とんでもない額の借金を背負ってしまった。



「良い店にしてくれよな!」


元店主がガッハッハと大笑いしている。


俺はそれを見て、

二度と酒を飲むのは止めよう、

と心に誓った。



俺は自分の全身から魂が抜けていくのを感じた。



・・・

・・





「お待たせ」


アリシアが言う。


「いえ、私も今着いたところです」


そう答えたのはシオンだ。


聖都に戻ってきてから、

アリシアとシオンは合流を果たしていた。


「・・・どうしたんです?」


シオンが尋ねる。


「ん?いや、何でもないわ。私もお酒の失敗はあるけど、ホントに気を付けようと思っただけよ・・・」


「なにか失敗が?」


「・・・私じゃないわ。ただ人の人生が目の前で崩れる様を見たからそうそう思っただけよ」


アリシアは言う。

だがシオンにはそれがどういう事が皆目検討もつかなかった。




「それで、どうだった?」


アリシアが尋ねる。


「ええ。北に動きがあります。近いうちには恐らく・・・」


「そう」


アリシアは答えた。


「既にいくつか依頼は入っていますが・・・どうしますか?」


シオンは尋ねる。


アリシアはSクラス魔導士。

世界中から寄せられる依頼が、

後を絶たない。


「そう、よね。でも今は・・・」


アリシアは暗い顔をする。

その脳裏にはグレイの顔が浮かんでいた。


「アリシア様?」


シオンはアリシアの異変を感じ、尋ねる。


「ん、ごめん。なんでもないわ。依頼ね、後で見せて頂戴」


アリシアは答えた。

彼女は自分の立場をよく理解していた。


ただ好きな人と一緒に居たい。

そんな想いは当然に叶わないことを。



「・・・そうですか。ですが恐らく中身を確認する依頼は一つでよいかと。貴女はおそらくそれを引き受けるでしょうから」


シオンが言う。


「どういうこと?」


アリシアは尋ねた。


「『白蝶』です。アリシア様。」


その言葉にアリシアの表情が固くなる。

東の大陸での苦い経験をアリシアは忘れていなかった。


「・・・場所は?」


「次は南の大陸。エルフの里からの依頼です、アリシア様」


シオンは答えた。


「南・・・」


アリシアは呟く。


東の大陸と南の大陸は、

東西の大陸同士の距離よりも離れている。

そのことがアリシアの決断を躊躇させた。



「アリシア様・・・?」


シオンはそんなアリシアの変化に気が付いた。


「少し、考えさせて・・・」


アリシアはシオンにそう答えた。


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