表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/213

第59話 竜の炎



デビルゴブリンを包んだ炎は、

そのまま上空まで伸びる強大な炎の柱となった。


離れていても顔を焼くような超高熱の炎は、

いつか見た炎龍の炎と同じくらいの魔力を感じた。




「グキャアアアアアアアアァァァァァァァア!!!!!」



デビルゴブリンは断末魔の叫びを上げる。



幾度も幾度も身体を焼かれては、再生し、また焼かれる。

魔力耐性が高いためすぐに絶命することが出来ず、

デビルゴブリンはいつまでも悲鳴を上げ続けた。

豪火はそんなデビルゴブリンを弄ぶかのように、

色を変え形を変え、燃え続ける。




やがてその悲鳴も少しずつ消えていく。

デビルゴブリンだったものはただの黒炭となり、

最後には塵も残らず燃やし尽くされた。


標的を失った炎の柱は、

更に上空へと伸び、

そしてそのまま消えていった。



辺りには静寂が満ち、

キリカや騎士達はおろか、

ゴブリンまでもがその様子を唖然と言った表情で見ていた。



親玉を失ったゴブリンたちは、

キィキィと弱々しい鳴き声を上げると、

フラフラと森の中へと逃げ出していく。


あたりには俺たちと、

大量のゴブリンの亡骸。

それからアリシアの魔法により焼けこげた大地だけが残った。



俺が動けないでいると、

魔法を放ったアリシアが、

肩で息をしながら近付いてきた。


「ど、どんなもんよ・・・」


アリシアがこちらを見て胸を張る。

かなり辛そうだが得意気な顔をしている。


化け物はデビルゴブリンなんかよりも、

アリシアの方だな。

なんて言葉は間違っても口にしない様に、

俺は心に誓った。



「さすが」


俺はアリシアにそう声を掛ける。

アリシアは満面の笑みでそれに答えた。



・・・

・・



ゴブリン討伐を成功させ、俺たちは村に帰還した。

デビルゴブリンとの戦いですっかり疲労した俺とアリシアは、

泥の様に眠った。


特に大魔法を放ったアリシアの消費は激しく、

翌朝まで一切目を覚まさなかった。


キリカ達は事後処理に追われることになったが、

任務を無事に達成出来たことを喜び、

どこか浮かれた雰囲気を醸し出していた。


それも当然だろう。

彼女たちにとっては大きな任務に成功したことになる。

俺とアリシアは、幾度も感謝の言葉を受けることになった。



だがさすがは質素倹約を常とする東の大陸と言うべきか、

任務達成の祝宴などは無く、アリシアは非常に残念そうにしていた。



「退屈ね、任務が終わった時くらい楽しめばいいのに」



俺はそう言って文句を言うアリシアに捕まり、

一晩中祝杯に付き合わされることになった。

アリシアは珍しく酒が入っても愚痴を漏らさず、

終始上機嫌だった。



「そういえば・・・」


俺は飲みながら彼女の使った魔法について尋ねる。


「あぁ、あれはね」


アリシアは魔法について答えてくれた。


アリシアが使用したのは、

龍の炎(ドラゴフレイム)>と呼ばれる火属性の最上級魔法だと言う。


俺も本の中でだけ、その名を聞いたことがあった。

最強種「龍」の名前を冠する、破壊の力。

高度過ぎて、教科書にも載らないような大魔法だ。



「・・・詠唱が長すぎて、たまにしか使いたくないけどね」



アリシアがそう呟いた。


だが彼女の掌には小難しい字で、

魔法の詠唱方法が書かれているのが見えてしまった。


カンペありじゃないと撃てないのかよ。

そりゃ3分もかかるわけだ。

と、俺は心の中でツッコんだ。


「ん?何見てるのよ」


「なんでもない」


相変わらずカッコ付け切れないSクラス魔導士だ、

と俺は思った。






翌日は相変わらずと言うか、

案の定、アリシアが二日酔いになり、

動くことが出来なかった。


俺はアリシアに回復魔法を掛けるが、

その代償は大きく、

結局俺たちはもう一日出発を遅らせることになった。


「ごべん・・・本当に無理」


今にも吐きそうな顔をしながら俺に謝罪するありアリシア。

俺はもうその姿を見ても、何も言わなかった。



・・・

・・


村の入り口。

俺とアリシア、それからシルバの出発を、

騎士達が見送ってくれている。


「グレイ殿、アリシア殿。本当にありがとうございました」


戦闘に居るキリカが言う。

俺とアリシアはそれぞれキリカと握手した。


「お二人の活躍は既に聖地の聖魔騎士団本部に伝えております。」


「予定より到着が遅れそうだったから助かるわ」


アリシアが言う。

そう言えばアリシアは聖地ブルゴーで別の依頼を受けると言っていたな。


「アリシア様、またお会いできるのを楽しみにしていますね。一緒に戦えて本当に光栄でした」


「次はアリシア様の前衛を務められるよう、更に鍛えておきます。いつかアリシア様の盾として使ってください」


アンとダリルはいつも通りであった。

アリシアはそれに慣れたのか、

二人に激励の言葉を送っていた。


そして、その隣には――――


「・・・主、たとえ離れてもいつも主の事を考えております。我が力が必要な時はいつでもお呼びください」


バロンがその目に涙を浮かべていた。

意外とウェットなやつだな。

俺はため息をついて、バロンに手を振った。

不思議なやつだったが、悪い奴ではなかった。



「では出発いたします」


シルバが馬を動かす。

こうして俺たちはゴブリン討伐を終え、

再び聖地ブルゴーへ向けて旅を進めるのであった。




・・・

・・



聖地ブルゴー。


神の降り立った地として、

魔力の神信仰の中心地となっている。


その歴史は古く、

もっとも古い魔導書にもその名が登場する。


古来より教皇が街を統治しており、

聖魔騎士団もこの街の護り手として生まれてきた背景がある。



「すご・・・」


俺は初めて訪れるブルゴーの街に、

驚きを隠せなかった。


街の中央に聳えるのは、

岩山を切り出して作ったと思われる大聖堂。

特殊な鉱石が含まれているのかわずかに青色に見える。


エルフの職人により施されたと言う芸術的な装飾に、

山から流れ出る水が滝となり降り注いでいた。

太陽の光が差し込みキラキラと輝いている。


その麓に広がるのは、薄い青色の壁で統一された建物たち。

どれも歴史があるように見えるが、整備が行き届いている。

山頂から流れる水の流れが市街まで続き、

いくつもの水路を生み出している。



「いつ来ても綺麗ね」



俺の隣で、アリシアもこの光景に見とれている。


「お褒めいただきありがとうございます。水と芸術と信仰の街ブルゴーにようこそお越しくださいました」


後ろでシルバが満足そうに俺たちを眺めていた。





「さて、お二方はこれからどちらに?良ければご案内しますよ」


シルバが言う。


「いいんですか?」


俺は尋ねる。

シルバの仕事はこの街に俺たちを送り届けるまで、だ。

すでにアリシアは報酬をシルバに渡し終えている。


「当然です。道中は色々お世話になりましたから」


シルバが言う。

色々お世話なったのはこちらの方のような気もするが、

シルバの気持ちが嬉しかった。


「ギルドに行ってもいいかしら?到着が遅れたし、早目に連絡をしたいわ。」


アリシアが言う。

彼女は依頼を受けてこの街に来たのだ。


「構わないぞ」


俺は言う。


「ではギルドへ。知り合いがおりますので、お二人にご紹介いたしますよ」


俺たちはシルバの案内で、ブルゴーのギルドへと向かうことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ