ヨ、座敷わらし忘れられた孤児院
倒れていた子供をルールルさんが、お姫様抱っこで急いで近くの兵士の詰め所に担ぎ込む。
話を聞きつけやって来たゲルニアさんにフェルが、何処の子か訪ねている。
「ボロボロだね」
服装もボロボロなら、靴もボロボロだ。
「困ったわ、この子が何処の子か分からないの」
フェルの言葉にゲルニアさんも頷いている。
「これだけ服装などからして密輸される奴隷とも考えられますが、門の所で検査していますし入り込めないと思うのですが」
カシムに人の流れが戻って来て、人手は足りてはいないが、だからこそ検問は力を入れているらしい。
検問で問題ある人物を村に入れなければ、治安は良いと考えてのようだ。
確かに、でも、それならこの子は何処から来たと言うのだろう?
記憶を探ってもいいけれど。
「最後の手段かな?」
「何が最後の手段なの?」
「ん、何でもないよ。それよりもどうするの?」
私の質問にフェルはゲルニアさんを見る。
「後で、この子が起きたら連絡を貰う事にしたわ。無理に起こすのも可哀想でしょう」
フェルの判断に従って、私とフェルは買い物の続きをする気にもなれずに屋敷へと戻った。
子供の詳細を聴いたのは夕食時で、夕方には目覚めて何か取り乱していたようだが、ゲルニアさんが食事を食べさせ今日はもう一度眠らせて明日連れて来るという話だったのだけれど。
「お願いします!シスターを救けて!」
おぉう。
突然の第一声に、ビックて引いてしまった。
「シスターを救ける?」
フェルが詳しく話すように促すと、その子はこのカシム領の端。地竜ズムのテリトリーから少し離れた場所にある小さな孤児院から来たと言った。
そんな場所があるのかと、ゲルニアさんまで驚いている。
「知らなかったのですか?」
「そう言われても地竜ズムの奴がいるのに、領地をウロウロとは出来ないですよ」
それもそうか。
「それなら行ってみるしかないよね」
「そうね、確認も必要だし。ゲルニアさん、お願いしますね」
フェルは、私が行きたそうにしている事を流して、ゲルニアさんに仕事を振る。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
折角、街から出る機会を見す見す逃すものか!
「私が行くよ!今は教師さんたちもお休みだし。ね、ね」
フェルはこれみよがしに溜息をついてみせるが、フェルだってゲルニアさんたちの人手不足は分かっているはずだ。
「いいわ、正し冒険者ギルドに緊急依頼をして、薬も揃えるだけ持って行くのよ」
フェルから了承を得たというのに、助けを求めて来た筈の子供は戸惑っている。
当然だね。
大人に助けを求めて、向かうのが同じ様な子供だからね。
「大丈夫だよ、彼女も行くから」
と、早めに戻って来ていたルールルさんを指す。
ルールルさんを見て、戸惑っていた子供は安堵したようだ。
「それでコッチに話が飛んで来たのか」
ジーラスさんは苦笑いしながら、私と子供の警護に付く事を了承してくれた。
ジーラスさん達は、昨夜、カシムに丁度戻って来た処だったらしい。
「やれやれ、数日はノンビリする気だったんだが、運が悪い」
ジーラスさんは運が悪いと言っているけれど。
「私的には、運は良いんだよね」
私の言葉に、ジーラスさんは溜息をつき。キルキスさん達は笑っていた。
その後は、急いで薬を集めカシムを出る。
入り口の門には大勢の商人さんや冒険者で溢れ、確かにコレでは子供一人くらい見逃しそうだ。
「カシムはもう街だよな」
ジーラスさんの言葉に頷く。
元々の建物が残っていたと言っても、放棄されていた建物を住めるようするにはそれなりに金もかかるし人手もいる。それでも、人は確実に増えている。
「もう少ししたら国の方に、村から街への申請をするとフェルは言っていたけど」
いちいち申告しないといけないなんて、不便だよね。
向こうでも人間はそうだったね。人間に紛れて暮らす妖怪たちは、不便そうだった・・・。
ん〜。
それって今の私だよね。
座敷わらしは、祀ってくれる家に着く妖怪だけれど、今の私は、どちらかといえばフェル個人に着いている。
だから、人間の面倒に巻き込まれるのだけれどさ。
それも良いかなと思ったりもする。
カシムを離れ子どもと、領地の端にある孤児院へと向かいながら変わらない荒れた土地を見る。
「地竜ズムが居なくなっても変化がないね」
「そうだな、奴の体重で踏み固めれ荒れた状態だ。早々、過去の姿には戻らんよ」
人間の自然破壊に妖怪達が怒ることがあったけれど、竜も中々に破壊する。
そう言えば、向こうの龍も気相は荒かったよ。
その上、酒好き。
うん、碌なものじゃないね。
あ、女の人も好きだったけ。屑だね。
「それにしても、中々の勇気だな」
「何が?」
「あの、ボウズだよ。地竜ズムが居なくなったとはいえ、一人でこの荒野を抜けて来たのは凄いぞ」
確かにそうです。だから、あれだけボロボロになっていたのでしょう。
その荒野を進んでいく。
一日たって、お昼頃。荒野の先に草原が見えて来る。
こちらに来てまともに見る緑に感動していると、小さな谷が荒野と草原を隔てている場所に着いた。
「ここが地竜ズムのテリトリーの端だったんだな」
ジーラスさんの言葉に、そうかと頷く。
「でも、ここって川だったんじゃないの?」
幅は五メートルほど、地竜ズムだったらひと跨ぎだろうが、水がない。
「そうみたいだが、枯れてしまっているな。雨が降ると川になるのか?」
子供に聞いてみますと、地竜ズムが現れ土地を荒らしだしたくらいから水は枯れ始めたと聞いているそうです。
「枯れた川か、ここに水が戻らないとカシムの本当の再生は難しいか?」
今のカシムは井戸頼みですから、豊富な水源は喉から手が出る程欲しいのです。
水か。
そうです、いいモノがありました。
「大丈夫じゃないかな?」
そう言いながら、そっと枯れた川底に一つの欠片を埋め込みます。
私って何て運がいいのでしょう。
あ、座敷わらしでした。
「何でそう言えるの?」
キルキスさんが不思議そうに見ていますが、私は今抜けてきた川底を見ます。
「川底、濡れているよ」
私が川底を指差すと、そこは土の色が変わり。それは川底に見る間に広がっていき。じんわりと水が湧き始めました。
「な、何をした?!」
「昔、ある人から貰ったお守りを使ったんだ」
隠す程でもないので、詳しく話はしませんが説明だけしておきます。
「お守りだと?」
「うん、水を呼ぶお守り」
「魔道具か何かか?」
そんな所です。
それ以上の説明はしないとばかりにニッコリと笑い。ジーラスさんは苦い顔で口を閉じましたが、騒いでいるのは子供でした。
「お姉ちゃん凄い!どうやったの?ね、ね」
「秘密です、それよりも急がなくて良いの?」
私の指摘に、子供は慌てて案内に戻ります。
しばらく草原を進むと、小さな畑に囲まれた。古びた建物が見えてきます。
その周囲には、子供より小さな子供が二人。
その二人の子が、私達を見つけて駆け寄って着ました。
何でしょう?泣いていますか?
「ベルお姉ちゃん!」
二人の子供が声を上げ、案内の子供に抱きつきました。
そう言えば、私、子供の名前聞いていませんでした。
何か忘れているとは思っていたのですけれどね。
しかも、女の子でした。あれ〜ぇ?
オチに子供の名前と考えたのが纏まらないミス。