40 生き残らないと出られない部屋
今度は私がミカゲの手を引っ張り上げて、扉の前まで連れ立った。
「さ、スズワさんの無事を確かめに行こう」
金色のノブを掴んで、扉を押す。
次の瞬間には二人ともいつもの眩い光に包まれて——祭壇の前で再び目を覚ますもんだとばかり、思っていた。
——それなのに。
「……は……?」
「ど……どこ、ここ……」
扉の向こうに繋がっていたのは、青く澄み渡った広い空に若葉の茂る原っぱという……清々しい自然の景色だった。
「あったかい……」
さっきまでいた麓の集落よりもずっと。けれど日差しは厳しいわけでもなく、ほどよくまろい温度で降り注いでいる。
「なんで元の場所に戻れてねーんだ……」
振り返ったところで白い部屋には何もない。意味は分からないけど進むしかないかと、慎重に外に一歩踏み出して、若葉のしなりを踏みしめた。
(なに? これもまた幻覚なの?)
この部屋の見せるそれは、現実との区別が一切つかない。
さらに一歩、一歩と進んで、深く息を吸った。
「なんて気持ちのいい空気……」
これが異常事態であることを忘れてしまいそうなほど、爽やかでのどかな空間。
ついつい少しまどろんでいると「おい」とミカゲの声がかかった。
「後ろ見てみろ」
「?」
背後には当然、私達が出てきた扉がある。
そしてその上に、パネルがあった。
いつも部屋の中で見ていた、淡々と無機質にとんでもない指示を繰り出してきたあいつだ。
しかもさっきまで部屋の中で見ていた『どちらが先に死ぬかを決めないと出られない部屋』の文字とは明らかに字面が変わっている。
「な、なに? なに書いてるの?」
ミカゲがスーッと静かに息を吸う。そして忌々しげに言った。
「〝生き残らないと出られない部屋〟」
ミカゲの言葉の直後、パネルと扉は共にその姿を消した。
「えっ、ちょ——!」
慌てて駆け寄ってももうそこには何もなかった。
ただただ同じ、緑の原っぱが続いている。
「これが……部屋? どういうこと? というかなんで帰してくれなかったの?」
のどかな景色につい騙されていたけど、状況を理解した途端絶望感に襲われた。
元の場所に戻ることなく二連続で次の部屋へ放り込まれた。しかもいつもの部屋でもない。
というか〝生き残らないと出られない〟……って、
(命の危険が伴う場所だってこと?)
こんなにきれいな空なのに。
遮るものが何もない広い空だ。何が起きるのかなんて想像もつかない。
「ミカゲ……」
「……大丈夫だろ、今までと同じだ。指示をクリアすれば出られる」
ミカゲもまた遠くの景色を眺めていた。
近づいて、その横顔を見つめる。
「……知ってる場所なの?」
なんとなくそういう顔をしている気がした。
ミカゲは静かに答えた。
「……故郷の景色によく似てる」
「東の島国に?」
「ああ……けど今あそこは魔王軍の支配下だ。こんなきれいな空じゃあるまいよ」
「そう……」
行くぞ、とミカゲは歩き始めた。どこに行けばいいとかも何もわからないのに。
慌ててその背中を追いかける。初めての二人旅が始まったみたいだった。
◇
「よかった、人の道があって。村か何かに続いてそう。話が聞けそうな人がいればいいけど……」
私たちが降り立ったのは山の中腹にある草原だった。獣道を下るしかないかと思ったけど、ミカゲがすぐに人の手で整備された道を見つけてきてくれた。
今のところ人に出会ってはいないけど、そう遠くないところにいるはずだ。
(にしてもこんなに平和そうな場所で生き残れって……本当にどういうこと? 田畑を耕して子どもをこさえて大往生……とかの手前までの話だったらどうしよう)
今のところ別に何もせずとも生きられそうな場所なので、どこが終わりになるのかわからないところが難しい。
「……なぁ、見えるか?」
黙々と歩いていたミカゲが突然立ち止まった。
「なに?」
視線の先を追う。
そこには薄紅色の花を枝いっぱいにつけた、大きな木があった。あれは……
「サクラだ……!」
満開の花びらが風に揺れ、はらはらと花弁を散らしている。
「わぁ、きれい……! ここは暖かいからもう咲いてるんだね。たまたまミカゲの故郷の花と同じ花があるなんて――」
すごいね、と続ける前にミカゲが駆け出した。
「え? ちょっと、ミカゲ!」
追いかけながら舞い散るサクラの花道を抜けて、小川を越えたところで、遠くにぽつぽつと並び立つ建物が見えだした。
「やったー、村がある!」
そのあたりからミカゲの歩幅が少しずつ小さくなって、そのうち再び止まった。
追いついた頃にはすっかり息が上がっていた私とは違って、息一つ乱すことなく真っ直ぐに村の風景を眺めている。
「ミカゲ……?」
「やっぱり……俺の故郷だ」
「えっ」
「間違いない。この道も、あの村の風景も……俺が子どもの頃と、同じ」
「子どもの頃と……同じ……」
「……魔王軍の侵略で、何もかもめちゃくちゃになったはずなんだが……」
複雑な表情で目を細めるミカゲ。
勘違いじゃない? なんて気安くは言えないほど、その瞳が『懐かしい』と言っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
中途半端なところではありますが、寝込んでいた時期等があったせいでお話のストックが尽きてしまいました。
なので少しの間更新お休みしてストックを作る期間にしたいと思います。
この機会にぜひブクマをしてお待ちいただけたらありがたいです。
評価の★★★★★を送ってもらえたりしたらさらに嬉しいです☆
ではまた次話でお会い出来ることを願っています!




