第16話「それぞれの魔法」
三年生になりたての授業で、担任教師が言った。
「今年は進路を決める年だ。高等魔法学院を目指す者は、大会での実績が必要になる。早めに準備しろ」
俺とトモタニは顔を見合わせた。特に驚きはなかった。二人とも、最初からそのつもりだった。
三年生になって間もない頃、ボタ→マリが荷物を持って下宿の玄関に現れた。
「泊まっていいか」
「理由は」俺は聞いた。
「飯が食いたい」
ドナ=ヘッドは何も言わずに部屋を用意した。それだけだった。
その日の夜、ボタ→マリは夕飯を食べながら「やっぱりここにして正解だった」と言った。
次の日の帰り道、三人で話した。
「問題はアピールする内容だな」トモタニが言った。
「お前は問題ないだろ」俺は言った。「あの炎を見せれば十分だ」
「ドバこそ、あの水はなんだ」ボタ→マリが言った。「最近変なことやってるのは知ってるぞ」
俺は少し笑った。
水の魔法大会は、今年も王都の闘技場で行われた。
二年生の時は出るので必死だった。今年は違う。
ボタ→マリが先に舞台に立った。
特に構えるでもなく、両手を広げた。次の瞬間、観客席がざわめいた。
水が、一気に増えていた。
闘技場の上空に、巨大な水の塊が形成されていく。最初は水球だったものが、みるみるうちに広がって、ついには闘技場全体を覆うほどの大きさになった。
観客が息を呑んだ。
その瞬間、審査員席から「信じられない魔力量だ」という声が聞こえた。
ボタ→マリは水を消して、何事もなかったように舞台を降りた。
俺の番が来た。
目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。
水と風。二つの属性を同時に操る。圧力をかけた水を、極限まで細く絞る。糸より細く、針より鋭く。
指先から、透明な線が伸びた。
闘技場の石床に向けて、ゆっくりと動かした。石床になめらかな曲線が刻まれていく。硬い石が、まるでバターを切るように滑らかに削れていった。
会場が静まり返った。
曲線は弧を描いて、最後に一筆書きのように綺麗に終わった。
審査員の一人が立ち上がった。
「水圧で石床を……しかもあの精度と滑らかさは」
ヤス=スギが観客席の端で腕を組んでいた。いつも通り無表情だったが、その目が細くなっていた。
舞台を降りると、ボタ→マリが待っていた。
「お前、いつの間にあんなことができるようになったんだ」
「基礎の積み重ねだ」
「それだけで石が切れるか」ボタ→マリは呆れた顔をした。「普通じゃないぞ」
火の大会は別会場で行われた。
トモタニが舞台に立った瞬間から、空気が変わった。
炎が広がり始めると、トモタニの足元の砂がじわじわと溶け出した。持参した鉄の刀を舞台に置いた瞬間、刀は跡形もなく溶けた。
会場が騒然となった。審査員たちが立ち上がり、顔を見合わせた。
トモタニは炎を収めて、淡々と舞台を降りた。舞台に残った砂は、冷えてガラスになっていた。
「鉄が溶けたな」俺は言った。
「嘘じゃなかった」トモタニは少し誇らしそうに笑った。
大会から数週間後、三人のもとに結果が届いた。
高等魔法学院への推薦状だった。
三人とも、同じ封筒を持って下宿の食卓を囲んでいた。
「開けるか」トモタニが言った。
「開けよう」俺は言った。
三人同時に封を切った。
全員、合格だった。
しばらく誰も喋らなかった。ドナ=ヘッドは黙って立ち上がり、台所へ向かった。しばらくして、いつもより少し豪華な夕飯が並んだ。
それがドナ=ヘッドなりの祝福だと、全員わかった。
ボタ→マリが箸を止めずに言った。
「高等魔法学院でも、お前の飯が食えるといいな」
トモタニが笑った。
俺はスキルツリーを確認した。
全ての項目の矢印が、力強く上を向いていた。
地図は、まだまだ続いていた。




