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7

 無事に式典を終えたエルフリートとロスヴィータは、騎士学校の卒業生と話をしようとし――見事、在学生に囲まれた。最初は、エルフリートたちが面倒をみた事がある少女メアリーだった。昨年の発表会で知り合った、ロスヴィータを消し炭にしそうになったグループの一人である。


 それを何とかまともな方向になるように指導した結果、彼女は絵を描き、それを具現化させるという方法で幻影魔法が使えるようになったのである。その絵が独特すぎて、何を示しているのか誰にも伝わらない機密性が高かったのがとても印象的だった。

 まあ、いかに絵の機密性が高くても本人にしか使えない魔法だから意味がないんだけど。あの絵はあくまでも魔法を使う為の補助でしかないし……。


 手っ取り早く魔法が使えるようにという指導であったが、今はどうなったのだろうか。絵を使わずとも魔法が使えるようになっていたら良いな、とエルフリートは思う。

 実際に戦うような事があれば、媒体を使わなければ魔法を使う事のできない騎士は生き残れない。魔法師団に所属したとしても、かなり厳しいだろう。となると、このまま卒業できない……という可能性が出てくるのだ。


「メアリー、魔法の調子はどう?」

「ボールドウィン副団長、おかげさまで良い感じです! イメージを掴むというのを課題にして、頑張ったんです。そうしたら、頭の中でも絵を思い浮かべられるようになって……」

「うんうん……それで?」


 エルフリートが微笑みながら続きを促せば、彼女はぱあっと表情を輝かせた。


「思い通りの絵が描けるようになったんです!」


 考えていたのと違う。


「……えっと、魔法の方は……?」

「もちろん絵を使って」


自信満々のメアリーに、エルフリートはとりあえず「そっかぁ……」と言って言葉を濁した。ロスヴィータがそんなエルフリートを視線で咎めてくる。うぅ、分かってるよ……ちゃんと指導します。


「メアリー、今度は絵に頼らないで魔法を使う練習してみようか。咄嗟の時に使いたい魔法の絵がないと困っちゃうもんね」

「あっ……!」


 前のメアリーは魔法をイメージする為に絵を描いていたが、今のメアリーは思った通りの絵が描ける事に重きを置いている。いつの間にか、目的がすり変わってしまっていた。

 その事に気がついたのだろう。メアリーは気まずそうに視線を下げてしまった。ロスヴィータの笑顔に凄みが含まれ始めた。

 わ、悪気はないんだって!


「でも、絵は気になるから見せてくれたら嬉しいな」


 エルフリートは屈んで視線を合わせると、メアリーの手をそっと握って微笑んだ。努めてたおやかな笑みを作った甲斐あって、メアリーの表情に笑みが戻ってくる。

 その様子に内心でほっとしていると、メアリーが「あの……」と口元をもじもじとしながら口を開いた。


「あっ、ごめんね。見せてくれるんだよねっ」


 ぱっと手を離す。メアリーはこくこくと頷き、あわただしい様子で鞄を漁る。彼女はすぐに目的の物を取り出し、エルフリートに恭しく差し出した。


「あの、これです……」


 メアリーが見せてくれたのは、昨年のあれとは雲泥の差の傑作だった。色使いはもちろん、線の引き方、色の置き方、何もかもが違う。

 元の絵と比べたら、誰もが同一人物が書いたものだとは思わないだろう。


「わぁ……すごいっ!」


 エルフリートは心の底から感嘆の声を上げた。エルフリートの反応に気をよくしたメアリーが次から次へと絵を見せてくれる。


「えっと、こっちが動物の幻影魔法用で、そっちが火の魔法用、水、風で――」

「本当にすごい」

「傑作じゃないか」


 語彙力のない反応を示すエルフリートに、ロスヴィータが言葉を添える。


「やけに躍動感があるな。写生でもしたのか?」

「いいえ。全部頭の中に入ってる絵です!」


 どうやらメアリーは、本物の画伯のようだ。ロスヴィータが褒め続ける。


「頭の中にあったといって、そう簡単に描けるものではないだろう。ここまでの傑作が魔法を使う事で消えてしまうのは惜しいな……」

「そ、そうですか……?」


 ロスヴィータもエルフリートと同じように屈んでメアリーの視線に合わせる。エルフリートのすぐ隣に彼女が並んだ。


「部屋に飾りたいくらいだ。今度、私の為に絵を描いてはくれないか?」

「えっ!?」

「あなたの絵が、ほしいんだ」


 ロスヴィータ、すごい。エルフリートは小さく口を開けたまま、二人の様子を見守った。


「絵が消えてしまうのは、本当にもったいない。絵が消えないように、魔法も頑張ってくれるか?」

「が、頑張ります!」

「楽しみにしているよ」


 ロスヴィータは爽やかな笑みを以って、メアリーから言質を取るのだった。

2024.11.2 一部加筆修正

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