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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
何だかんだで絶好調!

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6

 エルフリートがロスヴィータと共に会場へ踏み込んだ瞬間、空気が変わるのが分かった。一瞬空気が固まり、それからざわつきが広がっていく。まるで、水面に滴が落下したかのようだ。波紋のように広がっていくそれに、エルフリートは体を強張らせた。

 彼らの反応がどんな意味のものなのかが分からず、エルフリートの中に恐怖が湧き上がる。嫌な緊張の仕方だ。背中を悪寒が走った。


「フリーデ、大丈夫だ。みんな、あなたの可憐さに驚いているだけだから」


 エルフリートの状態に気がついたロスヴィータがそっと耳打ちしてくる。ハッとして近くの騎士候補生に視線を向けると、彼はあからさまに顔を紅潮させてがばりと頭を下げた。


「ほら、ね? あなたの魅力に動揺しているぞ。はは、素晴らしい。さすがは私の妖精さんだ」

「ロスったら、もう……っ」


 あまりの軽口に、エルフリートも緊張がほぐれてくる。彼女の気遣いをありがたく思いながら、エルフリートはゆっくりと深呼吸をした。もう大丈夫。堂々としていなきゃ。

 すうっと姿勢を整え、ロスヴィータに向けて自分が思う最高に妖精さんらしい笑みを送る。


「それでこそ私の妖精さん。さあ、私と共に女性騎士団のすごさを見せつけてやろう」

「私だけの王子様。ずっとついていくね……」


 わざと挑戦的な言い方をしてきたロスヴィータが不敵な笑みを正面へ向ける。エルフリートは熱に浮かされたかのようにそれを眺めながらうわごとを呟いた。しっかりと彼女の耳には届いていたらしい。ロスヴィータがくすりと笑い、くいっと腕を動かした。もう歩くよ、の合図である。

 そこで我に返ったエルフリートは、そのままヒールの音を立てながらロスヴィータの隣を歩き始めた。エルフリートが近づくと、さざ波のようにざわめきが起きる。だが、もう怖くはなかった。


「うわ、お姫様みたいだ」

「妖精さんって呼んだ方が良いぞ。女性騎士団の副団長って言ったら、マディソン団長から『私の妖精さん』って呼ばれているって有名じゃないか」


 えっ、そんな話が流れているの? たまたま耳に入ってきた言葉にエルフリートは思わず駆け寄りたい気持ちに駆られた。


「私から離れないでおくれ」


 ぽそっと耳元にロスヴィータが呟いた。さすがである。エルフリートは再び己の役割を思い出す。

 来賓として、席に着く。女性騎士団は自分らしさを大切にする事を否定しないのだとみんなに知ってもらう。よし。

 エルフリートは周囲の言葉に惑わされるわけにはいかないと、頭の中でその言葉を繰り返した。そうしている内に目的地へと辿り着く。


「さて、式典が始まるまであと少しか」

「うん。楽しみだね」

「そうだな。一期生の晴れ舞台、しっかりと見届けよう」


 無事に着席する事ができた二人は、式典までの時間を周囲の人間からの視線を受けながら堂々とした姿で過ごすのだった。




 今回の卒業生は三人。残念ながら、全員男性である。三人の内二人は身内に騎士のいる貴族で、一人は商家の次男である。商売人の一族がどうしてと思わなくもないが、職業を選ぶ権利は誰にだってある。

 商売に向いていなかったのか、騎士になりたい理由でもあったのだろう。エルフリートはその次男坊をじっと見つめた。どこかで見かけた気がするんだよねぇ……。

 あまりにエルフリートが熱心に見つめていたからか、彼がふいにエルフリートへ視線を向けてきた。


「……あ、思い出した」

「どうした?」

「えっと、商家の次男だっていう彼……」


 思わず漏らした声に、ロスヴィータが反応する。エルフリートはこっそりとロスヴィータに話しかける。


「ソルシエールに出入りしている商人の息子さんだったんだよね」

「……なるほど?」


 エルフリートは流行に乗りつつ、いつ騎士としての活動が必要になっても大丈夫なように特殊な加工を施した服をソルシエールという店に仕立ててもらっている。

 少し前までは身動きのとりにくい格好が流行であり、騎士としての機動力を求めるエルフリートからすると真逆の性質を持つ服の作りをしていた。

 通常時は他の人と同じく流行に則った意匠だが、非常時には騎士として動けるだけのゆとりのある服へ変形する――そんな服を仕立ててもらっているのである。

 上流階級向けのブランドであるからして、基本的にはエルフリートが来店する時に他の客はいない。だが、稀に商人が突然やってくる事があった。その商人についてきていたのが彼だったのだ。


「名前は分からないんだけど、そう言えば見た事があったなぁって」

「少し気になるな」

「え?」

「いや、何でもない。大丈夫だ」


 一瞬、ロスヴィータの視線が厳しいものになったような気がした。が、彼女が大丈夫だと言うのならば大丈夫なのだろう。エルフリートはロスヴィータの発言を聞かなかった事にした。

 話す必要があると思ったら、教えてくれるはずだもんね。

 エルフリートはそう結論づけた。

 そして式典が進んでいく内に、このやり取りの事をすっかり忘れてしまうのだった。

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