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オズモンドによる簡単すぎる自己紹介が終わって店の中に入ったエルフリートは、どうやら気にするべきはオズモンドではなく、妹の方だったのだと気がついたところだった。
エルフリーデ扮するエルフリートは、どうしてあんなにも攻撃的なのだろうか。エルフリートは二人の応酬を見守りながら、ひやひやとしていた。
ちらりと他のメンバーを盗み見れば、ロスヴィータとブライスは「あーあ」といった顔をしている。が、レオンハルトはのんびりとしていて、この状況に対して何も感じていなさそうだった。
相変わらずレオンハルトはマイペースな男である。食事が進んでいるのも彼であった。
「オズモンド殿、先ほどから質問攻めにしてしまってすまないね。私の妹はどうにもお転婆で、予想のつかない事ばかりする。こうして新しい出会いを私に報告してくれるのは、とてもありがたいのだけれど」
やんわりとした微笑みをオズモンドに向けるエルフリーデだが、彼女が本物のエルフリーデなのだとは全く考えられないくらい、完璧な“エルフリート”だった。彼女はオズモンドを見極めようとする兄、という姿をうまく演出している。
だが、オズモンドだって負けていない。というか、オズモンドの十八番なんじゃないかな。
オズモンドはエルフリーデに向けて穏やかな表情を作った。彼はどこぞやの貴族かとでも言わんばかりの優雅さで微笑みかける。
うわあ、すごい。すごいよ……。
「エルフリート殿、あなたのご心配はもっともだ。私の身分を証明する肩書きは第七騎士団に所属しているという事実だけ。
そしてあなたの妹君は天真爛漫な上、年頃の女性であるからして、婚約者がいるとは言ってもご心労有り余るところでしょう」
よくもそんなに言葉が出てくるものだ。エルフリートはその、劇場での前口上のように流暢な言葉を聞いて背筋が寒くなった。
普段のオズモンドを知っているからこそ、不気味すぎるんだもん。なんて言うか、寒気が……。
「しかしご安心を。そこにいる同期とは違って、私には彼女ではない想い人がおりますので」
「なるほど……ブライスとは違う、と」
「おい、俺を巻き込むな」
ひそひそとオズモンドに文句を言うブライスは、心なしか顔色が赤い。照れちゃってるのかな。それとも今さら昔の感情を話の種にされて怒ってるのかな。
エルフリートはブライスに向けて「まぁまぁ」と宥めたくなったが、当人がそれをやるべきではない。火に油を注ぐような事になれば、収集がつかなくなる。余計な事をしないよう、エルフリートは開きかけていた口を閉じた。
オズモンドはブライスに向けて小さくにやりと笑み、目を細める。
「我が知人殿は一途だからな……まあ、この前例がいるとエルフリート殿も不安になろう」
「さすが、第七騎士団の騎士。よく分かっておられる」
「ははは」
……こわいし気持ち悪い。
「それにしても、あなた方は本当に仲がおよろしいようで」
――始まった!
エルフリートはオズモンドが何を発言するのか、不自然に思われないように目の前の食事――今は魚料理のタイミングではある――に手を伸ばす。
オズモンドは一同を見回して、演技かかった所作で軽く両腕を広げた。
「その服装、俺の反応が見たくてやったんだろ? 随分と金をかけるものだな……と、関心したよ。そこまでしてどうして知りたいのか気持ちは分からなくもないが、そこまでの価値が俺にあるとも思えなくてなぁ」
そう言うと、彼はぱんっと乾いた音を立てて両手を揃えた。
「調子に乗って、変な茶番をして悪かった」
「……だよなぁ」
突然始まったオズモンドの謝罪に最初に反応したのはブライスだった。彼は大きなため息を吐き、椅子にもたれかかる。
「そもそも、失礼だぞ。オズモンド・オットー。家名も名乗らずに挨拶をしたところから俺は気に食わなかったんだ」
「わざとに決まっているだろう? ブライス・セルラー。俺は状況に合わせて虹のように姿を変える男だぞ」
二人はじっと睨み合うようにして無言で見つめあっていたが、唐突にどちらともなく笑い出した。
「久しぶりだな、はとこ殿。随分とめんどくさい男になったな!」
「お前に言われたかねぇよ。俺は誠心誠意、嘘偽りなく……とまではいかないが、真面目に生きてるんだ」
えっ、なになに? 何が起きてるの!? エルフリートは状況が分からず、目を白黒とさせている。その隣ではレオンハルトが、親戚関係だったのか……どうりで似ていると思った。と呟き、更にロスヴィータは「揉め事にならないなら、私はそれでかまわないよ」と笑っている。
エルフリーデに至っては「あぁ……やられたよ」と苦笑しているではないか。
「安心してくれ。俺はブライスからあんた達の事について、一切話を聞いていない」
「俺が口外するわけないだろ」
「……俺が知っているのは、まあ企業秘密だが……何を知っているのかは口にしないでおくよ」
やっぱりこれはオズモンドに全部バレてるって事だ。エルフリートは背中を汗が伝うのを感じた。
「フリーデ嬢。これでも俺はお前の事を気に入ってるんだ。不安にならなくて良いぞ。悪いようにはしないし、守ってやるからな」
「そこ。私の妹を口説くの禁止」
オズモンドが立ち上がってテーブル越しにエルフリートの髪を軽くいじりながら変な事を言い出した。
すると、エルフリーデの低い声が飛んでくる。その構図の面白さのあまりにみんなで笑ってしまうのだった。




