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形が決まれば後は簡単。カルケレニクス領民と連携して頑丈な組み方を勉強した親方たちによって、どんどん安全柵が作られていく。同時進行で道幅の工事も進んでいくのだから驚きだ。エルフリートは期間中に“無能”という汚名を返上して作業の手伝いに加わりながら、その姿を目の当たりにしていた。
全員がプロというわけではないのに、順調に作業が進んでいくのだ。それを実現させているのは、親方の采配と作業員たちの指導である。
エルフリートは、彼らの思考や指導方法を参考にすれば、騎士の教育にも活かす事ができるのではないだろうかと考えていた。
もう少しで工事も落ち着く。そろそろコツを教えてくれと頼みこんでも迷惑ではないだろう。そんな事を考えながら今日も割り振られた作業を行うのだった。
「ぜんっぜん聞いている暇ない!」
どうしてだろうか。心当たりは――ある。安全柵という余計な仕事を増やしたからだ。今回の工事は持ち込むような材料はほとんどなかった。それが、である。安全柵を作る為に丸太を用意しなければならなくなったのだ。
丸太の調達自体は難しくはない。だが運ぶのに人手が必要だ。エルフリートがお試しで持ち込んだ丸太は数メートル分くらいにしかならなかった。つまり、大量の丸太を移動させる作業が新たに発生したのである。
往復で数時間はかかる道のりだ。だが、ここに人手を割きすぎるわけにはいかない。ここで活躍の場ができたのがエルフリートである。
「そりゃ、補助魔法もあの場所だとブーストがかかるみたいでいつもより調子が良いけどぉ……っ!」
「フリーデ。自分が蒔いた種だろう? ほら、頑張って」
「あーん!」
――そう。エルフリートは三人分くらいの活動ができるという理由で、この担当にさせられていたのだ。相方として抜擢されたのはレオンハルト。彼の方は、補助魔法を使わずに作業をしていた事がばれ、そんなに体力が有り余っているのならば、とこちらの作業へと回されてしまったようだ。
自業自得同士、地道に頑張るしかない。
「それにしても、よくそんなに持てるよね」
「レオだって。補助魔法かける前の時点ですごかったのに、今なんかもっとすごいじゃない」
頑丈な荷車を作ってもらったレオンハルト――もちろん、エルフリートの分も同時に作られた――は、エルフリートよりも五割ほど多く丸太を運んでいる。しっかりと積載できるようになった分、括りつける作業の方が大変なくらいだ。
「レオって、意外って言ったら失礼かもだけど、本当に力持ちだよね」
「まあ、俺の方が体格良いし……」
「ブライスやオズモンドだって体格良いよ?」
「できるけどやってないだけか、コツを知らないだけじゃないかな」
確かに、レオンハルトからコツを教えてもらってから、かなり重たい荷物まで運べるようになった。という事は、誰にだって――エルフリートよりも力のない人間だって――重たい荷物が運べるようになる可能性があるという事だ。
でも、別に必要ない能力と言えば、そうなのかも。
「どのくらい重いものが持てるのか、調べてみたい気がする!」
「そんな事してる時間なんかないくせに」
「えへへ」
エルフリートはレオンハルトの指摘を笑ってごまかした。言われてみればそうなんだよね。遊んでる時間なんてない。隙間時間には編み物の練習をしなければいけないし、日中はこうして輸送作業を繰り返さないといけない。みんなの作業が早いから、材料のストックを作っておきたいなと思っても、なかなかそうはいかないのだ。
往復している間に、どんどん丸太は使われていく。のんびりしてると足りないって言われてしまいそうなくらいの作業ペースだ。
こんなに重たいのに!
突然、エルフリートは移動する速度を上げた。丸太のストックを増やして「早すぎるよ!」と言わせてみたくなったのだ。
「レオ、頑張ろ! からかい半分の配置を決めた人たちに良い意味で一泡吹かせたくなっちゃった!」
「は? 急ぐのは良いけど、転ぶなよ?」
「分かってるって! ひっくり返したら、積み直せないもんっ」
エルフリートはしっかりと地面を踏みながら進む。丸太を乗せている時はあまり飛び跳ねる事はないが、重心が傾いたりするとまずい。一気に横転だ。
荷台を引く部分にいるエルフリートもろとも転倒する事になりかねない危険な状態となる。これは絶対に避けたい。エルフリートは自分の重さなどほとんど意味をなさないだろうなと思いながら、可能な限り重心を下げる。
「次の往路はもっと飛ばすよ!」
「えっ、もうそれ担いで走った方が良いんじゃない?」
さっすが! エルフリートは思わず口笛を吹きそうになった。
「レオ、頭良い! 採用しちゃう」
「うわあ、またフリーデのお転婆伝説が増えていく……」
レオンハルトの嘆きが聞こえてきたけれど、これは必要な事だから。本物には悪いけど……仕事だし。それにこの姿はこの場所限定だし……大丈夫でしょ。
エルフリートはあえて聞こえないふりをしてひたすら作業場へと急ぐのだった。




