14
エルフリートが駆け寄るなり、ドニがリカルドは大丈夫だったと報告してくれた。ドニに迷惑をかけずに済んだ事に安心したエルフリートは、追って到着したオズモンドと丸太に向き合った。
「オズモンド、ありがとう」
「どういたしまして。これが安全柵になるのか?」
「うん」
オズモンドがちらりとリカルドを見た。ああ、やっぱりリカルドの事が心配だったんだ。オズモンドって本当に面倒見が良い。そういうとこもブライスと似てる。
――って、あんまり比較しすぎると二人に失礼だから、やめなきゃね。
「このままの方がいいか? それとも何か手伝おうか」
「オズモンド、自分の作業は?」
手伝ってくれるのはとても助かるけど、作業が遅延しちゃうのは困る。そんな事を考えていると、彼はにやりと笑んだ。
あ、何その企み顔ー!?
「マリンがやってくれてる。ああ、いや。最低限のやる事はやったぞ。その上で、フリーデの手伝いに行って良いか確認したんだ」
「作業的には問題がないから大丈夫って事?」
「そういう事」
なるほど! 最初からこっちの手伝いをする気満々だったんだね。という事は、丸太を取りに姿を消していた間、もしかしたら探し回ってくれていたかもしれない。
それは悪い事しちゃったなぁ。
「オズモンド」
「うん?」
「ありがと」
「いいって。これが俺の役割だしな」
エルフリートは申し訳ない気持ちを込めて、お礼の言葉を紡ぐ。
そんなエルフリートに対してオズワルドは軽い感じで「それで、これはどうすれば良いんだ」と聞いてくる。一緒に丸太を運ぶしかないのだ。この丸太、太さは普通なんだけど長いんだよね。だから一人で持とうとすると難しい。
二人で息を合わせて路面に置くと、ドニが鋸を持って近づいてきた。
「どれ、適当な長さに切るかの」
彼は己に補助魔法をかけて、鋸を引く。あっという間に丸太が三等分された。
「今回はお試しだから、本番とは多少違うが」
エルフリートとオズモンドはドニの指示通りに丸太を組み合わせていく。技術的な問題はさておき、形はできた。杭のように端を尖らせて斜めに差す。それを途中で交差させていく。
実際に採用する時には、交差させた丸太をしっかりと固定するみたい。彼の説明を聞きながら組み立てた柵は、どこからどう見ても僻地の要塞を守る防護柵だった。
すっごく見覚えがあるぅ……。
「フリーデ嬢、頼む」
「はぁい!」
エルフリートはこれまでの検証と同じ規模の吹雪を思い浮かべ、雪を降らせる。エルフリートが生み出した即席吹雪は、今回もまた無事に柵へと猛威を振るっている。
エルフリートとドニがにこにことその吹雪を見ている隣で、オズモンドが感激していた。
「うわ、すごいなこれ。相変わらず規格外」
「えへへ……」
褒められちゃった。エルフリートは頬をかく。
「一人で何人分の戦力になるんだ。本当に規格外」
あれ、思ってたのと違うかも。オズモンドの言葉を聞いて片眉を上げた。
オズモンドはエルフリートの事を戦力として見ているらしい。戦力、かあ。そりゃそうだよね、だって第七騎士団の人だもの。
第七騎士団の騎士は、個人的な感情に振り回されずに公平な判断を下さなければならないのだ。国の為に必要な事だが、だからといって簡単にできる事ではない。
それを理解しているエルフリートは、意外だなとは思うものの不思議と変だとは思わなかった。
「規格外なのは、危険?」
「いや。フリーデ嬢は大丈夫だ。変わらなければ、な」
「え?」
「だって、この領地を大切に思っているじゃないか。冷酷な決断をしたが、それはこの国を愛しているから。国を守るという重責を理解しているから。利己的な活動をしていないとは言わないが、それも可愛いものだ。
最終的には国の利益にしかなっていない。だから、このままでいてくれるのなら大丈夫」
オズモンドの評価にぽかんとしてしまった。なんか、今、さらっと正体を知っているみたいな……感じの、え。気のせい?
気づいているのかなどと聞けるわけもなく。もしかして、指摘されていないだけで、あちこちに気づいている人がいたりするの?
「フリーデ? 素直に答えすぎて不安にさせたか?」
「あっ、ううん。違うの。そんな風に評価してくれてるなんて思わなかったからびっくりしちゃった」
「ふーん?」
オズモンドが疑うような視線を向けてくる。うう、気になるけど口にしたら私の勘違いだった時に墓穴掘った感じになっちゃう。それに、今は何の事情も知らないドニがいるし……。
「えへへ、ありがとう。オズモンドに太鼓判押してもらえると嬉しい」
エルフリートはあらゆる感情をごちゃ混ぜにしたやけっぱちで渾身の笑みを作った。
「あー……うん。その笑顔に騙されておくわ」
「二人とも、遊んでないでこっちを見なさい!」
「ごめんなさぁい!」
怪訝そうな顔でこちらを見つめるドニに、慌てて返事をする。彼越しに見える柵は雪が積もっているものの、雪の壁にはなっていなかった。これ、成功かも!
「親方、いい感じだよね!?」
「うむ……あとは、しっかりと固定できれば、かね」
ドニが頷く姿を見たエルフリートは思わず「やったぁ!」と飛び跳ねるのだった。




