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誰も欠ける事なく、屋敷に戻ってこれた。殿を務めてくれたマロリーの姿を認めた瞬間、エルフリートは今までの緊張が安堵に押し流されていくのを感じた。
「マリン!」
「先導者、お疲れさま。フリーデ」
息を弾ませてはいるものの、マロリーは比較的元気そうだ。一番外にいた時間が長いというのに、余裕を感じさせる。
「最後尾は気が楽ね。ただ、あなたを信じれば良いんだもの」
「マリン……」
エルフリートは腰にくくりつけたロープを解きながら笑うマロリーに、何て答えれば良いのか分からなかった。途中でロープが切れたらどうしようとか、そういうのは考えなかったのだろうか。
エルフリートはそういう事を考えてしまい、何度も無駄だと分かっておきながら振り返ってしまったし、何度も逆走して全員の安否を確かめたい気持ちに駆られた。マロリーは、そうではなかったという事なのだろうか。
「フリーデ、まずは休もう」
「あ……」
ぽん、とアーノルドに肩をたたかれ、エルフリートは我に返る。既にマロリーはホールに向けて歩き出している。
「フリーデもホールに行くか? それとも部屋に行くか?」
「ホールへ行きます。全員に今日は休むように伝えなきゃ」
「そうだな、それが良い」
アーノルドはエルフリートが出す答えを待ち、そっと頷いた。ホワイトアウトから戻ってこれて、ようやく安心して力が抜けてしまった。肩の荷が下りたとでも言えば良いのだろう。
エルフリートは深呼吸してアルバートを見つめれば、微笑みが返ってくる。
「調査団のトップ殿、お疲れさま」
「ありがとうございます」
改めて言われると、むず痒い。エルフリートは小さく微笑み、全員の待つホールに向けて一歩踏み出した。
「今日は、すべての予定を取りやめ休息日とする。全員、体を休めるように」
エルフリートはホールに入るなり、そう高らかに宣言した。暖かな部屋で、人心地ついている最中だった全員がエルフリートに視線を向ける。
「細かな説明をしていなかったけど、何人かは気付いていたと思う。屋敷へ戻る最中、私たちは遭難しかけてたんだ」
顔を見合わせる技師たちに、エルフリートは小さく微笑んだ。それから、どういう状況だったのか、全員にも分かるように説明していく。そして、一通りの説明をし終えると、こう締めた。
「視界が封じられた中、先頭を歩く私を信じ、パニックにならずについてきてくれてありがとう。誰かがパニックになっていたら、今頃ここに全員がたどり着く事はできなかったと思う」
魔法で強化されているロープとはいえ、限界はある。強化魔法のかけ直しができない状態でどれくらい持ちこたえられるかなど、エルフリートにだって分からなかった。
だが、今。ここに全員が揃っている。
「みんなが無事で良かった。無理な移動をして、みんなは自覚している以上に疲れていると思う。だから、今日はゆっくり休んでほしい」
全員の命がさらされていたと知ったアイザックの表情が心なしか悪い。だが、エルフリートは責める気も、慰める気もなかった。知らぬ内に疲労している彼に、今言葉を重ねたとして、正しく伝わらない可能性があるからだ。
「さ、今日は自由行動。ただし、この屋敷の中でゆっくり過ごす事!」
お酒の飲み過ぎだけは駄目だよ、と付け足せば、騎士の笑い声がホールに響いた。
「フリーデ、俺たちを何だと思ってるんだよ」
「うーん、無茶しがちな若者?」
「俺より若いくせに、ばばくさい事言うよな」
茶々を入れてくるオズモンドがありがたい。彼のおかげで空気が柔らかくなった。エルフリートは彼と軽口をたたきあいながら笑った。
オズモンドって、やっぱり不思議。王都に戻ったら、彼の上司――確か、ブライスと同い年のエインズリーだったよね――に聞いてみよ。
今回はブライスの隊やアントニオの隊だけではなく、あちこちの隊から雪山でも活動できる騎士を募ってレオンハルトの隊を編成している。その為、少々ややこしいのだった。
さすがに、騎士全員の所属を覚えるのは簡単ではない。女性騎士団と違って通常の騎士団は意外と編成が変わる。変わらないのは、上官候補くらいではないだろうか。
いや、上官候補は上官候補で特殊な配属変更があるから、配置換えの影響がないとは言えないか。
「私もちゃんと休むから、みんなもしっかりね」
「フリーデ」
「うん?」
自室で軽く食事をして眠ろう。
さすがにちょっと、睡眠不足からの食事抜きで遭難未遂はきつい。エルフリートがさっさとホールを出ようとしたら、オズモンドに呼び止められた。
オズモンドはエルフリートを見下ろし、何かを探るように見つめてくる。
「……体調、悪くないか? 無理するなよ」
「えっ? うん。ありがとう」
「まあ、婚約者殿がいるから、無茶しないとは思うけどよ。俺や別の奴らでもできる事があれば、何でも言ってくれ。俺たちはその為にここに来たんだから」
意外な言葉が続き、エルフリートは瞬いた。
「今日の事だって、もう少し俺たちを頼ってもよかったんだぜ。でも、ありがとうな」
「う、うん……こちらこそ、ありがとう」
オズモンドって、本当に……不思議。エルフリートはしっかり者の面を見せてきた彼に、半ばぼうっとしながら頷き返したのだった。
2025.12.19 一部加筆修正




