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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
二手に分かれた女性騎士団

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 ほとんど視界のない中、エルフリートは魔法具の案内を頼りに黙々と進む。が、あまりの視界のなさに不安になってくる。後ろのみんなはちゃんとついてきているだろうか。

 途中でロープがほどけて散り散りになっていたりしないだろうか。今のところ、合図は来ていないのだから、不安になる必要はない。

 ……だが、それはロープが切れていて連絡する手段が絶たれているからだとしたら。


 ホワイトアウトという現象は、暗黒期の真っ暗闇と同じで、人を狂わせようとしてくる。


 エルフリートは目を閉じているのか、目を開けているのか自分でも分からなくなってきていた。がんばって。後少しだから。エルフリートは自分にそう言い聞かせるのだった。


 実はこのエルフリート、雪山で遭難した事が一度だけある。当時のエルフリートはまだ幼い子供だった。天候を読み間違い、道に迷ってしまったのだ。

 その時はどうして良いか分からず、近くにあった岩の陰に潜んで暖を取り続けたものだ。

 幸いにして、エルフリートには豊富な魔力があった。エルフリートは自分の体温が奪われないように二重に結界を張り、炎の魔法を使って凌いだ。

 あれ以来、天候を読む事に対しては殊更気をつけるようになった。


 懐かしい記憶と同時に、当時の恐怖を思い出す。あの凍える時間を再び経験する事になるのは嫌だ。エルフリートは頭を振ってそれを無理矢理追い出し、前を向く。白い世界が続いている。

 まだ視界は封じられたままだった。


 はあ、と小さく呼気を乱し、エルフリートは足下を踏み固める。ぎゅ、と雪が鳴く音がエルフリートの耳に届いた。

 時間の経過のせいだろう。ラッセルを必要とする深さはないが、着実に雪が積もっている。行きの名残を頼りにしていたが、もはやそれは消え去り、足下の感覚は信用できなくなっていた。

 誰でも分かるようなトレースを作る為、摺り足で移動する。最悪な移動である。魔法具の光を頼りに、エルフリートはひたすら歩き続けた。




 いつの間にか吹雪はやみ、歩きやすくなった。無風だが、まだ雪の破片が空中を漂っているのだろう。それらの乱反射のせいで薄らと樹木の影を感じる程度しか見えず、相変わらず視界は奪われたままだ。

 しん、とした真っ白な空間は自分がどこにいるのか、本当にこのまま歩いて良いのか、不安にさせるにはじゅうぶんすぎる。エルフリートは心細さと戦いながら、後少しだから、と自分に言い聞かせる。

 自分が踏みしめる雪の鳴き声だけの世界に、鳥の羽ばたく音が聞こえた。顔を上げれば、黒い鳥が突然現れる。


「もしかして、屋敷に着いた?」

「クィルル」


 アーノルドの鳥が再び現れた。今度は何も足に着けていない。つまり、これは単純にお出迎え、ということだ。


「屋敷の扉まで、案内してくれるかい?」

「クィ」


 エルフリートの視界から消えないように気を付けながら魔獣が案内を始めた。慣れた案内に、エルフリートは遭難後の事を思い出した。

 そういえば、この子か分からないけど、同じように魔獣が道案内してくれたんだっけ。あの時は時々置いていかれてしまったんだよね。

 ずいぶんと懐かしい思い出に、当時の魔獣が今案内している個体だと良いな、と思う。


「フリーデ! 無事で良かった」

「お父様……」


 視界がないのは恐ろしい。唐突に現れた大きな壁に抱きしめられる。エルフリートの父親、アーノルドであった。防寒具に身を包み、正面玄関の外で待っていてくれたのだ。


「さあ、入りなさい。ロープはそのままで。たわまないように、それは私が預かろう」


 アーノルドの指示で、腹部に固定していたロープをほどく。それを彼に渡せば、穏やかな笑みで頷かれた。


「奥のホールでゆっくりしていなさい。残りの騎士たちもそちらに案内させる」


 唐突に戻ってきた視界に慣れず、瞬きを繰り返す。


「ありがとうございます。ですが、私の責任ですから、最後までここにいます」

「……そうか。お前がそう言うなら」


 エルフリートは再び真っ白な世界に顔を向ければ、レオンハルトが追いついていた。


「辺境伯、感謝いたします」

「気にするな。さあ、ロープを」

「はい」


 レオンハルトの顔を見て、ようやくエルフリートの緊張が薄れた。ああ、大丈夫だった。

 表情をゆるませるエルフリートに向け、レオンハルトがすまなそうに声をかける。


「フリーデ」

「うん?」

「ごめん。ちょっと、強化魔法かけ直して……もう、動けない」


 へなへなと座り込んだレオンハルトは、はあ、と重い息を吐いた。そうしている内に、レオンハルトの後ろを歩いていたアイザックが現れる。

 アイザックはレオンハルトの姿を見て笑うどころか、同じように座り込んでしまった。エルフリートは慌てて二人に強化魔法の代わりに軽度の精神魔法をかける。


「ちょっと! ここは駄目だから奥のホールで休んで……っ」


 肉体の疲労感もあるだろうが、それをどうにかしたところで歩いてくれる気がしなかったエルフリートの苦肉の策であった。


「まあ、そうなるだろうな」


 アーノルドは苦笑し、次のメンバーを確保する。騎士と技師を交互に配置したおかげか、問題なく次々と屋敷に帰還していく。

 それぞれの顔を確認してほっとしつつ、エルフリートは全員に可能な限り労いの言葉をかけて奥のホールへと案内するのだった。

2025.12.12 一部加筆修正

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