9話
9
浩二が真由と付き合い始めて、ほぼ2か月が過ぎようとしている。
結構順調に仲睦まじく過ぎている。週末は時々デートするが、殆どは真由の家で過ごす事が多い。真由の父親が、家に連れて来いと言われるので、浩二は良く行くようになった。
それでも、時々浩二の部屋で二人の時間を過ごすが、智美との思い出が詰まった部屋で、長時間過ごすのが浩二には罪悪感が沸いてきて、少しつらい気持ちになる。
週末の今日は、その浩二の部屋に来ていた。
「相変わらず奇麗にしてるわね、浩さん」
「ま、物が少ないからな。最低限の物しか置かにようにしている」
「お昼は何にする?外に食べに行く?大した物は出来ないけど、ご飯があれば、オムライスくらいはパッと出来るから」
もう11時過ぎになる、外のに行くなら、そろそろ出ないといけない、そんな事もあって、浩二に聞く。
「卵がそろそろ賞味期限がきてしまうし、冷ご飯が冷蔵庫に入ってるから、材料はあるかな。 あ!玉ねぎの半切りがベジタブルボックスにあったかな?あとハムで良かったら一パックの使い残しが....」
「おっけぃ。じゃぁ少し早いけど、作るわね」
「手伝うよ」
「あは!邪魔よ!、待ってて....。ね」
「は..、参ったな」
(仕草がホントに似てるんだよな....)
少ない調理器具で、パパっと出来上がった。
「早いな」
「ね!卵割ってみて....」
「ああ」
スプーンでライスの上の卵を割る、すると、トロォ~っと美味しそうに卵が流れる。
「おお、美味しそう」
「でしょでしょ!」
一口食べてみる。
「真由、最高だ。お美味しいよ」
「エッヘン!まいったか」
「ま、まいった。俺だったら残った材料が生ごみになっていたかもな」
「え~....、もったいない。それだったら、私何時でも作りにくるから。言ってね」
「さすがにそんな迷惑は掛けさせられないよ........」
「........」
「ん?..どうした?真由....」
「........」
「浩さん..。何か私に隠している事ある?」
ハッとして真由の瞳を見る浩二。
その瞳の奥から何かを言いたげな表情を読み取り、スプーンを置いて...。
「いいや、そんな事は無いが.....」
「隠さないで!!」
お互いの瞳のフォーカスがピタリと一致した。
「隠してなんか....」
更に否定する浩二だが。
「正直に言って!!....、私の事.. 本当に好き?」
「うっ....」
「ねえ....?」
浩二の態度に真由が涙目になってくる。
「そう....、じゃないんだ」
「そうじゃぁないんだ........、あぁ!もう....」
浩二は真由の決して屈折しない思いを考慮して、心に引っ掛かっている事を、この時初めて真由に打ち明けた。
「分かった。正直に言おう」
真由の手を取り、なだめるように浩二は語り始める。
「俺は真由の事が今、どんどん好きになってきている、これは本当だ。だが、俺の心の奥底には、まだ前の彼女が居座っているんだ」
この浩二から発せられた言葉に、真由は反対の手を握りしめた。
浩二は続ける。
「しかも、その彼女だった娘が、今の真由に面影と仕草が似ている事もあって、俺は、前の彼女に、真由を照らし合わせているんじゃぁないか.....、って罪悪感があるんだ」
浩二の言葉に、真由の瞳が一度ハッと大きくなる。
「じゃ、じゃあ、浩さんは、その人と私をいつも、比べているの?」
「そうじゃぁない、それは無い、ハッキリ言う。比較なんて出来ない、だって、彼女は彼女、真由は真由なんだ。 そもそも....、彼女はもう....、居ない....、んだ」
否定する浩二に真由が目に一杯の涙を溜め。
「じゃぁ何でそんなこと言うの? 私わがまま言った? 浩さんを責めた? 私そんな事で泣かない....、だって....、だって、わたしは 早川 浩二 と言う一人の男の人を好きになったんだから..」
「う!....、ま、真由」
「分かってくれた?私の気持ち。 だから、浩さんが、その罪悪感ってのが、どのくらいかは私には分からない。でも..、でも、そんなのすっ飛ばして、今ここに居る “浩さん” が、 浩二さん が大好きなの!!....、うっ....、好..、きなの....」
浩二の目に涙がにじむ、真由を抱きしめ、真由は抱きしめ返し、二人は深いキスを交わした。
△
長いキスの後、浩二は一度真由から離れ、机の引き出しから一通の手紙を手に取り、真由に向けて、それを差し出す。それを真由はどことなく理解した目で、浩二から受け取った。
「読んでみてくれ、前の彼女からの “最後” の手紙だ」
少し間を置いてから、真由が浩二を見つめて。
「私が読んでいいの?」 と聞く。
「真由だから、俺の特別な人だから読んでほしい....」
封筒をじっと見つめる真由....、暫くして開封し、便箋を広げた。
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暫く経った後、真由が。
「中川 智美さんって言うんだ..」
「そうだ」
「辛かったね、しんどかったね、泣きたかったでしょ?」
「もういい。もう十分泣いた。だから..今の俺がいる」
「浩さん」
「なに?」
少し間を置いて。
「私、この人、智美さんには一生敵わないかもしれない、足元にも及ばないかもしれない....、でも..、でもね、浩さんを思う気持ちは、智美さんには負けないと思うし、負けられないと思ってる」
「はは、そうか..、それは俺にとっては幸せな事だ」
「よぉし、私は決めた!!」
真由が意を決した。
「わたし、浩さんを絶対に離さない、離れない。それと、絶対に、ぜぇったいに....、浩さんのお嫁さんになってやる!!」
「それは心強いな」
「だから浩さん?」
「なんだ?」
瞳がぶつかる。
「黙って私について来なさい!!」
「真由、頼もしいな」
「約束よ、浩さん」
この真由の決意に、浩二は ふふふ...、と苦笑いする。
「分かった。じゃぁ、これからは真由だけを見つめる」
「よろしい! それと....、これからは、浩二さん と 智美さん、二人分を愛してあげる!」
「................」
「あれ?....、浩さん?....」
「...............」
「なに?どうしたの?....」
この時、浩二の瞳からは涙が溢れて止まらくなっていた。
「な....、何でそんな事が..、何でそんな風に言えるんだ、ま..、ゆ....」
「浩さん..、泣いて..、もっと泣いて....、私、そんな浩さんと、浩さんの心の中にいる 智美さんと、それに、わたしの3人で、幸せになりたい......。ううん、絶対 なる!!」
二人は抱きしめ合い、さらに深いキスを交わした。
△
暫く経って、真由が。
「せっかく作ったオムライス、冷めちゃったね、温めなおそっか......」
「そうだな」
今だに真由は、浩二の胸の中に包まれている。
そして。
「ね、浩さん。 私、今まで彼氏を作った事が無いの、だから私がどうのこうの言える訳じゃぁないけれど、(顔を赤らめて)初めては浩さんがいい、浩さんでなきゃダメかも....」
「そ、そんな事を今言う?」
「その時は今でなくてもいいから、浩さんに任せる。私、浩さんを信じているから...」
「分かった、真由の気持ちは十分に分かったから、その時が来たら、思い切り抱いてやる!」
「キャー....、浩さんの えっっちぃ~...」
「な、何だよ、人がせっかく....」
「うふ♡、冗談よ。だけど、その時は覚悟しておいてね。父だって黙ってないかもよ?....」
「おいおい!怖いな....、でも、責任は取らせてもらう」
「お願いします、ちゅ♡....」
「な!....」
その後、冷え切ったオムライスを温め直し、二人は仲よく食事を済ました。
(まぁ!、真昼間から....、でも、本当に良かったね、真由 (作))
△
「ねぇ、ミヤ....」
「なに?」
いつものコンビニで、二人は悩んで...、いや作戦を練っていた。内容はこうだ。
近々二人は、お互いの両親の目の前で、交際宣言をする予定だ。
そのために、その時のために、何を言おうか、どう言ったら分かってもらえるか...、そもそも、交際をミィの両親が認めてくれるかが、心配でしょうがない。
でも、もう後戻りは出来ない、もう行くしかない、とミヤは思っていた。
「何を考えても、上手くまとまらない、どうしよう...」
「何を今更...、いいじゃない、当たって砕ければ」
「うわぁ、酷いこと言う」
「何いってるの?いざとなったら、私ミヤに全面的に協力するから...」
「おお!さすがミィさん、心強い」
でも二人にとって、交際宣言よりも、もっと、もぉっ~と、酷い仕打ちが待ち受けているのであった.....。
(雅たち 君たちの成功を祈るぞ(作))
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これまでお読み下さった方々、ありがとうございます。
何の変哲もない 小説にお付き合いいただき、作者は感謝しております。
この小説も次話が最終話になります。 これまで我慢してお読み下さった方々、本当にありがとうございます。
なお、近日にも 雅と雅(Ⅾ)編の投稿をし始めたいと思っていますので、さらに忍耐力の強い方、お時間がありましたら、そちらの方も寄って頂くと、作者はとっても嬉しいです。
いつもお付き合いくださり、ありがとうございます。