工作
上の階に上がりティアさんと合流する。
ティアさんは部屋の片隅にあった小さな椅子に座っていた。
自分たちを見て駆け寄ってきて耳元でささやく。
「何か変なこと言われなかった?」
ただ微笑み返して何も言わずに男性にお礼を言う。
自分は紙袋いっぱいに入った鉱石を抱えて濡れながら、ティアさんと少し距離を開けて歩く。
家に帰ると、少し濡れているマリヤと彼女が机を挟んで気まずそうに座っていた。
机の上にはマリヤに頼んでおいたものが置かれていた。
「一応、もらえるだけもらってきたけど、何に使うの?」
そう質問するマリヤに秘密とだけ伝える。
「ティアさん、この家って地下室とかある?
明日つかいたいから見してほしいんだけど。」
ティアさんは少しいやそうな顔をしながら答え、自分を案内する。
薄暗い地下室に入ることのできないティアさんは上の階に待機してもらい、マリヤと一緒に下の階へ移る。
長い間使っていなかった様子の地下室は埃だらけでとても汚かった。
そこでマリヤに掃除を頼む。
愚痴りながらも作業をしてくれるマリヤを眺めなている。
マリヤは様々な魔法を使いながら掃除をしていた。
時には水の魔法を使い、時には風の魔法を使って地下室を素早く掃除をしていた
地下室は見違えるほどきれいになり、自分はマリヤに声をかける。
「マリヤ、ありがと、もういいよ」
そう言うとマリヤは手を止めこっちを向いた。
こっちを向いたマリヤの両肩をつかんで目を見つめる。
「マリヤ。明日、ここで行う作業を手伝ってほしい。
とても危険なことだけど、マリヤにしか頼めないんだ。」
それを聞いたマリヤは目を開けて少し不満そうな顔でうなずく。
少し汚れていたマリヤは上の階に歩いていき、水浴びをするようだった。
自分は上の階に行ってティアさんに話しかける。
「明日、自分とマリヤが地下で作業をするから、午前中はあの娘と一緒に昼頃まで出掛けててほしい。」
ティアさんはうなずいて何かを言おうとしたが、マリヤに呼ばれて行ってしまう
自分は彼女のほうへ行き。
「明日は、ティアさんのことをよろしくお願いします。」
と頭を下げる、彼女は何も言わずにうなずき、そのあとも自分に何かを言うことはなくその場に立っていた。
翌日、朝早く、ティアさんはまだ彼女とベッドで寝ているような時間にマリヤがやってきた。
先ほどまで寝ていた自分は目をこすりながら扉を開けた。
昨日の雨が嘘のような雲一つない空をみて、マリヤはとても気持ちよさそうに欠伸をした。
「こんな日は、デートとか行きたいよねー!」
と一人寂しく言っているマリヤに憐みの目を向けて肩に手を置く。
そんなくだらないやり取りをしていると寝室の扉が開いて、ティアさんが出てくる。
少し体調の悪そうなティアさんをみて、明るい声を保ったまま声をかけるマリヤ。
「おはよ!」
マリヤの明るい顔を見て、作り笑いを浮かべ挨拶したティアさんはすぐに寝室に入っていった。
ティアさんたちが出かけるまでには少し時間がかかりそうなので、マリヤと2人で食べるものを買いに出かけることに。
上機嫌で歩く自分。
今、どうしようもないほどに肉が食べたい。
濃い味付けのものを食べたくて、ギルドまでやってくる。
2人で二階に遣ってくると、昨日見た女性が今日もいて、自分が会釈する。
その女性はマリヤといる自分を見て驚いて怒った顔でこちらにやってくる。
マリヤは嬉しそうにどこかに歩いていき、その女性につかまった自分は目立たないところに連れていかれる。
そこで少し事情聴取を受けていると、自分を探しに来たマリヤに助けられる。
2人で席に着き、マリヤが持ってきてくれた料理を2人で食べている間、その女性は自分をちらちらとみていた。
ギルドを後にして家へと向かう。
雲一つない空から降り注ぐ太陽の光はマリヤの少し伸びた短髪をより美しく見せて、嬉しそうに歩くその横顔はまるで少女のように見え、最初に出会ったころよりも女性らしくなっている様だった。
「マリヤは最近綺麗になったよね。」
横顔に見惚れていた自分がぼそりとつぶやくと、うれしそうな顔をしたマリヤが。
「やっとあたしの魅力に気付いたかー!」
と言って、こちらを見ずに少し歩くペースを速める。
手で顔を扇ぎながら歩くマリヤと自分が家に着くとティアさんと彼女に出くわす。
ティアさんは体を隠すように緩めの服を着ていた。
彼女は昨日と同じ格好だった。
2人にあいさつをして家に入る。
ため息をついているマリヤを連れて、地下室へ向かう。
まず、自分が買ってきた炭を粉状になるまでマリヤにすりつぶしてもらう。
そして、男性にもらった鉱石を自分ですりつぶす。
その2つと隠し味の佐藤をマリヤが自分からとっていた袋に入れる。
そこで、マリヤが泣き出すが、今度代わりのものをあげるということで泣き止んでもらう。
そして、マリヤがもらってきてくれた石を丁寧にすりつぶす。
すりつぶしたものを袋に入れて、水を加える。
そのあと、均等に混ざるように気を付けながらすりつぶす。
そして中のものを布に包んで、用意した2枚の板で挟み、マリヤにつぶしてもらう。
そして、つぶれて固くなったものを、ある程度の大きさに砕いていく。
この後は乾かすために、マリヤの魔法で暖かい風でその塊を乾燥させる。
できた。
今回の作戦に必要不可欠なもの。
肩の力を抜き、その黒い、小さな塊を丁寧に机に置く。
いまだに不機嫌なマリヤを連れて上の階に行く。
そして、計画について話す。
「マリヤには本当に申し訳ないが、マリヤも俺たちと一緒にあの男のところまで来てもらう。」




