旅立ち
あのいろいろあった日からもう2週間もたっている。
あの日意識を失っていた自分は丸1日眠っていたようだ。
あの日自分はとある決断をし、それに向けてこの2週間を費やしてきた。
リハビリ、そして体力づくり、そして生活に必要な様々な知識を教わってきた。
体力づくりをして初めて知ったのだが自分が滞在したこの家は森に囲まれている村にあり村民は約40名ほど、そして最も森に近い場所に位置していた。
「命を救っていただきありがとうございました。」
と礼を言ってアイラさんに頭を下げる。
「気を付けていくんだよ。」
と心配そうな顔でアイラさんは言った。
結局あの日の件以来エマとはあまり顔を合わせないまま時がたってしまった。
月に一度村から近くの町まで貨物を運ぶ馬車が出る。
どうやらその馬車の御者はアイラさんの知り合いのようで雇い主にばれないように自分も運んでくれるようであった。
特に名産品があるわけでもないこの村からの馬車には自分が乗るスペースがあるようで安心した。
乗り心地がいいとは言えないが贅沢は言えない。
アイラさんにお別れを告げ、エマによろしくと伝えてもらう。
馬車が遠ざかって行っても手を振っているアイラさんを見ながら彼女のことについて考えていた。
彼女と話したあの日の翌日、彼女はあの家を出ていた。
自分が知らぬ間にアイラさんにだけ挨拶をしていたようだった。
はたして彼女とはまた会えるのだろうか。
町では生きていくすべが必要になる。
アイラさんによるとこの世界にはギルドというものが存在しており、そこを介して仕事を受けることが可能なようだ。
町なら掃除や、雑用などをこなせば生きていけるだろうと勝手に思っている。
しかしこの世界のギルドはただの仕事の斡旋所のようなもので依頼主と自分のようなものの間に立ち、互いに余計な干渉をすることを妨げることが目的である。
いざこざや契約違反があればギルドのお抱えの傭兵が解決に力を貸してくれるそうだ。
馬車はガタガタと揺れながら進んでいく。
広く、青い空には前の世界にはいないとても大きな鳥が飛んでいる。
最初から自分が持っていた血で汚れてしまった服と、数日分の食料を革袋に入れステンレス製のナイフをアイラさんにもらった新しいズボンのポケットに入れる。
御者の人は無口な大柄の男性と少しうるさい細身の男性、細身の人は自分や大柄の男性によく質問を投げかけているが大柄の男性は相槌をうつだけで反応を返すことはめったにない。
不思議な距離感の二人組と一緒に、少しのわくわくと、未知のものへの恐怖心を抱いて馬車に揺られていく。




