黒き大災害その7
特に言う事もなくなった以上は無駄な話は無しだ。
鬼達がいつまで持つかわからない以上すぐに作戦を開始する。
「じゃあ、ラオージュに連絡入れ次第作戦開始で良い?」
「ああ、それで良い」
「じゃ、じゃあ、僕は一足先に向かいますね」
「我は一足先に行かせてもらうぞ」
シェシュルとアマラは作戦を知っているので一足先に移動場所へ向かった。
アマラはすぐに見えなくなり、シェシュルはトタトタと言う擬音が
似合う走り方をしている。
やっぱり、あの杖あいつの大きさにあってないよなあ。
少し離れた場所で音が鳴り、持ち主は音を止めて鳴っていたものを耳へ運ぶ。
「なんだ、アシェル。何、作戦?………内容は………………ほう、わかった。
二人には俺が伝えるから気にするな、それより嬢ちゃんに代わってくれないか?
………もしもし、嬢ちゃん。すまんが頼んだぞ。それだけだ、じゃあな」
そう言って男は通信魔具を切る。
通信を切ったとほぼ同時に近くにいた屈強な男が口を開く。
「作戦など言っておったが、何をする気だ?」
「そいつはだな―――――」
……………
「って作戦だ」
「博打ではあるが防戦一方である以上やる価値はある……が
アーシェ王子よ、やれるのか?」
「問題ないさ、もう十分に休んだとも」
そう言うと、三人とも少し先で猛威を振るう大災害…ドラゴンへ目を向けた。
時は少し遡り………
「……よし、作戦開始よ」
「了解。アヤカ、一人にして悪いが……頼んだぞ」
「うん、ま、任せて!!」
別の世界から来た男は弓を持つ女性を背負って走り出す。
ある程度離れたのを確認して彼女は目を閉じて、大きく息を吐いて聖剣を強く握る。
「……みんな……行くよ!!!」
その言葉と同時に彼女が持つ聖剣が金色の光を放ち始める。
少女は剣を構えて、ドラゴンに向かって剣を振り下ろす。
光は斬撃となってドラゴンへ向かって一直線に飛んでいき、ドラゴンの右肩を切り裂く。
ドラゴンは突然の攻撃に怯むが、すかさず口から蒼い熱線を発射する。
熱線は攻撃が飛んできた方向へ一直線に進んでいき、聖剣を持った少女に襲い掛かる。
「………ッ!!」
逃げ出したい、泣き出したい、そんな気持ちが彼女の精神を蝕み始める。
しかし彼らへの、そして会えなくなったみんなへの想いが彼女を奮い立たせる。
そんな少女を熱線が飲み込もうとする前に光の壁が少女の前に展開され、熱線を受け止めた。
爆発音のような爆音が辺りに鳴り響き、周りの地面を吹き飛ばし、焼き溶かす。
そんな破壊力を誇る熱線は少女には届かない。
「ぐっ……うぅぅうぅぅ……ッ!!!」
しかし、全ては防ぎきれず余波が衝撃となって、熱波となって襲い掛かった。
そんな余波に襲われて苦痛の声を出しながらも歯を食いしばって少女は耐える。
自慢の熱戦を耐えられてプライドを傷つけられたのかドラゴンは
目を細めた後に口を更に開けて熱線の威力を上げ始める。
熱線の破壊音が大きくなり、衝撃は地響きとして衝撃が辺りに広がる。
「アシェル、速度はもっと上げていいか?」
「もちろん大丈夫よ、ガンガン上げちゃって」
そう言いながら、異常な速度で走る男に背負って貰いながら
弓を持った女性はドラゴンの目に狙いを定めて放つ。
矢は一直線にドラゴンの目をへ飛んでいき、ずれる事無く目に突き刺さる。
その事に驚いたのかドラゴンは目を閉じて熱線を吐くのをやめた。
唸り声を上げながら目を開けて、矢が飛んできた方向へ口を蒼く光らせながら向ける。
「さて、ここで僕の出番だね」
熱線を吐こうとした瞬間、空から直径数十メートルは有に超す氷塊がいくつも落ちてくる。
氷塊はドラゴンに当たると同時に砕け、その部分を凍結させていく。
凍結は一気に侵食していきドラゴンの全身を氷で覆いつくす。
一瞬の沈黙の後、熱線が発射され、全身を覆っていた氷はすべて焼き溶かされる。
熱線を吐き終えたドラゴンは空に向かって怒りを露にしながら咆哮する。
ギギャァァァァアアアアアアオオォォォォン!!!!
耳を塞ぎたくなるほどの長い咆哮を上げたドラゴンは報復するべく
ゆっくりと息を吸いながら口を蒼く発光させ始める。
「ここだな。小僧」
「は、はい、お願いします」
そんなドラゴンの前に地面を溶かしながら溶岩で作られた巨人が現れた。
ドラゴンは巨人を見るや否やすぐさま熱線を放ち、右上半身を吹き飛ばす。
吹き飛ばされてよろめく巨人を見て咆哮を上げるドラゴン。
「今じゃ、お主ら」
「任せておけ!!」
鬼の長達が咆哮するドラゴンに向かって突っ込む。
巨人の方に意識が向いていたために反応出来ないドラゴンへ筋肉を膨張させて一撃を放つ。
「お前達続けッッ!!」
「「「はッッッ!!」」」」
鬼達の渾身の一撃が叩きこまれる。
それに反応出来ずに後ろへよろめくドラゴンの足元が突然物凄い速度で溶け始める。
溶けて溶岩となった地面に足を取られたドラゴンの体は大きく傾くが
ドラゴンは筋力だけで踏ん張り、倒れないようにとどまる。
「い、今です。お、お願いします、ラオージュさん!!」
「ここか、任せな」
風の極術師は再び、空から巨大な竜巻をいくつも出現させてドラゴンへ突撃させる。
普段ならばビクともしないだろうが、体のバランスが崩れた今は致命的だった。
鬼達の渾身の一撃、不意打ちの地面融解、いくつもの巨大な竜巻
それらによってドラゴンは地響きを鳴らしながら倒れていく。
「よし、最後は頼んだわよ」
「任せとけって」
弓を持った女性をその場においてすぐさま別世界から来た男は駆け出す。
みんなで作ったこのチャンスを必ずものにする
彼はそう心に誓って跳び上がって駆け寄ると彼の体を冷気が包んだ。
「加護はかけた、後は頼むぞ」
「ああ、ありがとな」
巨大な狼から耐熱の加護を受けた男はすぐにドラゴンの体へ跳び乗り
喉元へ向かって駆け出す。
グルォォ……!?
ドラゴンは起き上がろうとするが
翼を竜巻が押さえつけ
尾を溶岩の巨人が押さえつけ
体を地面と接合するように凍り付け
角を鬼達が掴んで押さえつける。
「けんが剥がし終えるまで決して起き上がらせるな!!!」
「「「おおぉぉっ!!!」」」
ドラゴンが起き上がろうとするのを3人の極術師と鬼達が必死に押さえつける。
それに対してドラゴンは怒りの咆哮を上げながら起き上がろうとするべく暴れだす。
別世界の男は暴れるドラゴンの上を一気に駆けて喉元へ駆け寄る。
喉元に近づくにつれて温度は上がっていき
耐熱の加護をもってしても近寄りがたい温度になっていた。
「……っ……どれだ、逆鱗は……」
[あれです、前方1m先にあるひと際小さな鱗です]
「あれか………」
男はすぐにその鱗を引き剥がすべく手に触れる。
その瞬間にドラゴンが今まで以上の咆哮を上げて、更に暴れだす。
[急いでください、押さえてくれている皆さんが持ちませんよ]
「…ッ…わかってるって……の……!!……くッ!!」
耐熱の加護をもってしても焼けるほどの高熱を帯びており
それを掴む彼の手は煙を上げて焼け始める。
[早く剥がすか、破壊するかして下さい。このままじゃ焼け潰れますよ]
「そ、そんな事言われなくても……わかっ……るての……!!
ぐ………ッ!!か、かてえ……ぐぁ……クッ!!!!」
[も、もしかして……どちらも出来ませんか?]
「引き剥がす事は……いけるが……ぐぅぅ……ソッタレがぁ……!!」
加護を受けてもなお、軽減しきれない高熱に晒されて手から煙が上がりながらも
必死に引き剥がそうとするが逆鱗はうんかすんという程度しか剥がれない。
喉を踏み潰す勢いで足に力を入れて引き剥がそうとしても剥がれない。
そんな苦戦をしているにつれて暴れ狂うドラゴンを押さえている側も押され始める。
「けんはまだか……!!」
「長、まずいです。じょ、徐々に押され始めてます……!!」
「ここが正念場だ!!持ちこたえよ」
鬼達が角を引っ張り押さえる頭部が僅かずつだが持ち上がり始め……
「あの野郎、まだかよ……!!魔力は無尽蔵じゃねえんだぞ」
「……く………!!」
「俺は溶岩を使う事で節約出来ておるとは言え……これ程消費するとは…!!」
「み、皆さん、頑張ってください」
各部位を押さえている極術師達も息が切れ始める。
ここまでやってもなお、ドラゴンの方が優勢と言わんばかりの状況だが
それでも誰もが諦めない、ここで逃げてもいつかは熱線で焼かれるとわかっているからだ。
現に押さえに回っている彼らは消耗し、押されてはいるがやめようとはしない。
逆鱗を剥がそうとする男も手から煙が上がりながらも掴む手は放さない。
しかし、ドラゴンも絶叫のような咆哮を上げ、喉を光らせて温度を上げ始める。
「がっアッッ……!?……く……こ、この野郎ッッ!!!
だ、だが、剥がれ始めた……!!あ、ぐッ!!…あと少しィィ……ッ!!!」
[急いでください。このままじゃ逆鱗を剥がす前にケンさんが焼け死んでしまいます!!]
「そんなの…わか…って…ゲホッ……くッ…!!」
逆鱗を剥がそうとする彼の喉が焼け始め、喉についている足が焼け、逆鱗を持つ手が焼ける。
今でもこの状態であると言うのに更に喉の温度が上がり始める。
このままでは逆鱗が剥がれるよりも先に彼が焼け死ぬのも時間の問題
となった時に急に温度が下がり始める。
「熱は我に任せるがよい……ただ、我も長くはもたぬ。早く…急ぐのじゃ」
「アマラ……ああ、任せろッ!!!」
巨大な狼が男を襲いかかる喉の熱を吸収し、彼の補助をする。
それを見て、歯を食いしばって更に両手両足に力を入れる男。
ミチミチと音を上げて、徐々に剥がれ始める逆鱗。
それをさっちしてドラゴンは更に絶叫のような咆哮が轟く。
そして、ついにブチブチと音を立てて、逆鱗がドラゴンの体から分離した。




