異変と逡巡
クラスメイトが、1週間続けて休む。この事自体はよくある話といえばそうである。心配ですね、ちょっと連絡を入れてみましょうかで済む話である。
奏海の1週間の欠席についても、雅は風邪をこじらせた程度のものと納得するほかなかった。しかし、雅の胸騒ぎは収まらなかった。
そこで、奏海と付き合いの深い藤沢凛花という女子に、何か事情を知っているかどうかを尋ねてみる事にした。
雅と奏海が同じ中学である事を藤沢は知っていたものの、わざわざ雅が聞いてくるのは想定外だったようで少し驚いた様子だったが、雅に対し素直に答えた。
「うーんそれがね、電話もメッセージも休み始めた日から全然繋がらないの。私も心配でさ」
藤沢はそう重い表情で答えた。つまり、「心配ですね、ちょっと連絡を入れてみましょうか」が通用しない状態になっていたのだ。
藤沢に礼を言い、雅は自分の席に戻って思考を巡らせた。藤沢の話が本当であれば、当然ながらただの風邪ではない可能性が高くなってくる。だが、だからと言って自分に何ができるだろうか、それにただの考えすぎの可能性だってあるじゃないか、と考えた結果──雅は、何の行動も起こす事ができなかった。
そしてこの判断を、雅は一生後悔する事になるのだった。
そしてこの1週間は、藤沢に確認を取りながらも、何もできずにただ心配するというだけになった。さすがに気の毒に思ったのか、遊斗と拓也も全くからかわないようになり、逆に雅の心を重くさせた。
頻繁に確認を取ったため、藤沢には奏海に対する自分の想いがおそらくバレているだろうな、と雅は自覚していたが、その藤沢本人も心配で表情が暗かったため、雅の恋愛事情にまでも話が及ぶ事は1ミリもなかった。
季節は冬に移り、雅の気持ちに今度は反し突然快晴になったその日──ついに奏海が休み始めてから2週間が経った。
雅はさすがに動かない訳にはいかなかった。しかしできる事といえば当然限られており、細かい位置までは知らない奏海の家を訪ねるのは論外であり、先生を問いただすという訳にもいかなかった。そして、雅は万が一の可能性を考え──ある行動を取る事を決める。
オタマジャクシの奇妙なストラップが付いた携帯電話が鳴る。その持ち主は画面を開き、電話の相手が「中村雅」と表示されている事を確認した。
「もしもし?」
「もしもし、雅です。野田さんですか?」
──野田行宏は携帯電話の向こうに、中村雅の焦燥混じりの声を聞いた。




