夢の前の静けさ
夢から帰ってきて少したち、雅は落ち着いた。
「大体の夢の内容は見ていたけど、家に留まらずによく川野さんを助けてくれた。おかげで、とりあえず目的は達成できた」
野田の台詞を聞いて、雅は一応の安堵を覚える。しかし、まだ奏海が救われた訳ではない。
「まだやる事がある、雅君。後は彼を止めなきゃいけない」
野田は表情を崩さず言う。本来ならこういう所でも冗談の一つや二つを言う男であるが、全くその気配がない事が、事態が好転した訳ではない事を示していた。
「彼は川野さんの夢を操り、その内容を見ているはずだ。当然、彼の予定にはなかった雅君の乱入も見ている。今、何で夢が計画通りに行かなかったのか調べているだろう。今のうちに何かしらの手を打たないといけない」
「どうすればいいんですか?病院の設備などの扱いは分かりませんが」
「それは呼んでいるもう一人に任せる。君は、彼を説得してみてほしい。君にしかできない事だ」
なぜ自分にしかできないのかは分からなかったが、それ以上に気になる事を雅は尋ねる。
「その人の器具を扱うのは野田さんじゃダメなんですか?」
わざわざまだ間に合ってもいない人に任せるという野田の話に雅は違和感を覚えた。
すると、野田は自分自身を嘲るように少し笑った。
「さっきも言ったかもしれないが、僕に彼を説得させるのは無理なんだ。情けない話だけどね」
少し前に病院で二人で会った時のような暗い表情で野田は言った。
「彼はこの2階真上の部屋にいるよ。雅君一人で行かせるのは本意じゃないけど、少しでも早く行った方がいい。もう一人もなるべく早く合流させよう。君なら、彼を説得する事ができるかもしれない。頼んだよ」
病院に呼ばれ、夢の世界に飛ばされ、今度は大人の説得に向かわせられる。全ての事が唐突すぎたが、奏海の事を一刻も早く救いたい気持ちの方が強かった雅は、全てを承諾した。
「分かりました。何ができるかは分かりませんが、できる限りやってきます」
そう言って、雅は部屋を出た。
数分後、野田が物思いに耽っていた部屋の扉が開いた。
「──来たね。中村賢悟君」
部屋の入り口に立つ賢悟の目からは、雅以上に惑いや迷いが消えていた。
「お久しぶりです、野田先生」




