第拾弐話
眩しい光りに包まれた状態で、僕達は体が引っ張られる感覚に囚われ続けていました。
でも気が付くと、地面に降りたような感覚が襲ってきました。
「……あれ?」
どこかに付いたのかなと目を開けると、そこは京北にある、鞍馬天狗のおじいちゃんの家の、すぐ目の前でした。
「椿ちゃん!!」
「椿……! 帰ってきた……!」
すると、僕達の姿を見た里子ちゃんと雪ちゃんが、家の中から飛び出してきて、僕に飛び付いてきます。
「むぐっ……! ちょっと、2人とも!」
「全く……なんて帰り方よ」
「まぁまぁ、心配していただろうに、妲己」
「誰が……!」
当然そこには、他の妖怪の皆全員が揃っていました。他の妖怪さん達は皆、生き残りの人の救助とか、妖魔退治とかをやっていたけれど、どうなったんでしょう。
「うむ。よくぞ無事で帰ってきた。というより、少し早かったの」
「なんというか、我々の想定外の事ばかり起きてな……だが、空亡は一応倒した……のか? 椿よ」
「僕に聞かれても……」
その前に、僕に引っ付いている2人を何とかして欲しいですね。歩きにくいですよ。
―― ―― ――
僕達が絶対に帰ってくるという確信があったのか、他の皆も、僕達が帰って来て歓迎してくれたけれど、そこまで感極まった感じではなかったですね。
こっちはこっちで大変そうだったから、仕方ないですけど。
「ついさっき、世界中にいた妖魔達が一斉に消えてな。世界中から集まってきた妖怪達は、一旦自国の状況を確認するために、ついさっき帰って行ったわ」
「そうですか……」
おじいちゃんにそう言われ、僕はちょっと残念な気分になりました。せめてもう少し言葉を交えたかったけれど、そりゃ自分の国の事の方が心配ですよね。
僕は里子ちゃんの入れてくれたお茶を飲みながら、おじいちゃんの話を聞きます。
「椿に感謝を伝えてくれと、あいつら言っておったぞ」
そう言っていたのなら、それだけで十分だよ。
状況が状況です。このあとからが1番大変かもしれない。直ぐにでも復興作業を始めないと、世界から取り残されてしまう。そう考えちゃうしね。
僕達も、できたら直ぐに人間達のお手伝いをしたいんだけど、皆でこれまでにあったことを話し、情報を集めないといけません。
僕は1つ……空亡が最後に言った言葉に、ソルさんが言い残した言葉に、1つの推測を立てました。ただ、それには証拠がいります。
「おじいちゃん。時間が出来たら、近いうちに天狐様のところに行きましょう」
「うぬ? 天狐様か? なぜ……」
「空亡が言っていた、今回はここまでという言葉。太陽神が言っていた、今回の空亡という言葉。何もかもが引っかかります。そしてこんな事態にも関わらず、天狐様が一切動いていないことに、僕は違和感を感じてしょうがないのです」
「まさか……天狐様が?」
「考えたくはないですけどね」
僕のその言葉に、おじいちゃんが驚嘆の声を出しました。その横で聞いていた飛君も不安そうな顔をし、僕のお父さんとお母さんは難しそうな顔をしていました。
ただ、お父さんとお母さんは何か知ってそうな顔ですね。
「お父さん、お母さん。なにか知ってるんですか?」
そこで僕は、後ろにいるお父さんとお母さんに話しかけます。知っているなら教えて欲しいですからね。
「……う~む。俺達も詳しくは知らないが、天狐と空亡は日本誕生の際に、1度だけ接触をした事があると、そう聞いた事がある。そこで何があったかは分からんが、そこから空亡は1000年に一度、妖怪を滅ぼそうとし、太陽すら乗っ取ろうとしてくるようになったらしい」
それが、あの例の凶悪な宇宙人と戦うためと言っていたけれど、その話を聞く限り、それだけじゃなさそうですね。
いったい何があったんでしょう。ちゃんと天狐様から聞かないとね。
「そんな事よりも椿ちゃん! 今晩祝勝会やるよ!」
「復興は?」
その後に、里子ちゃんが嬉しそうにしながらそう言ってきたけれど、僕はもう一つ確認しないといけないことがあったんです。
それは、壊滅した人間社会の復興の様子です。
「うむ、それは儂から説明しよう。人間達は、既に復興を始めている。国のお偉いさんが何人か生き残っていたから、そいつらを中心に復興しておるわ」
やっぱり人間は強いですね。普通はショック状態になり、しばらく生きる為に必死になるしかないと思ったけれど、国として機能するようにと、今必死で頑張っているんだね。
「ただ、文明は大いに後退したがの。インターネットのネットワーク技術とやらが維持出来ず、完全に崩壊してしまっている。昔はそれでも生活は出来ていたから、その時代の生活をよぎなくされておる」
「不便でしょうね……」
僕達の方も、妖怪専用スマートフォンが機能していません。あれは一応、人間達のインターネットの電波を使わせてもらっていたからね。
「儂等は妖術があるから、インターネット技術とやらがなくても問題はないが……」
「人々が以前のような社会文明を取り戻すには、この先何十年とかかるんでしょうね」
「うむ、住む場所もかなり減っているから、しばらくしたら争いも出るじゃろう」
おじいちゃんと僕の言葉の後に、玉藻さんが続けて言ってきました。
そう考えると、これからこの世界は大きく変わるのかもしれません。
だけど、僕達妖怪は変わらず存在し続けるでしょう。人間達が忘れなければね。
「さて……と。それじゃあ、僕はちょっと出かけてくるよ」
「うん? どこに行くんじゃ、椿よ」
「1人、迎えに行かないといけない妖怪さんがいるからね。ついでに、ちょっとした決着もね」
いつものリビングにある大きな長テーブルから立ち上がると、白狐さんが不思議そうな顔をして僕を見てきます。
まだ終わっていないんですよ。このままうやむやにして、姿を消そうとしているかもしれないから、その前に捕まえないといけないんです。
「……酒呑童子か」
流石におじいちゃんは分かっていたようです。だから、僕は静かに頷きました。
「なっ! それなら我等も……!」
「白狐さん黒狐さん、大丈夫です。僕1人でいきます。ううん、そうしないといけない気がするんです」
2人とも慌てて立ち上がったけれど、僕はそれを制しました。
「椿ちゃん。晩ご飯、1人分増やしておく?」
「お願いします、里子ちゃん。それと白狐さん黒狐さん、伏見稲荷の方にある、僕達の家の確認をお願いしますね。ヤコちゃんとコンちゃんが守ってくれているとは思うけれど、こんな状態だから心配なんだ。2人の無事も確認しないと」
「そうだな」
「分かったわ。それじゃ、それは私と黒狐で行くわ」
「何でだ?!」
妲己さんが嬉しそうな顔をして、黒狐さんの尻尾を掴んで行ってしました。動きが早いです。多分、向こうでイチャラブしたいんでしょうね。仕方ないなぁ。
「それじゃお願いしますね。行ってきます」
そして一通り皆にお願いを頼んだ後、僕は玄関からおじいちゃんの家を出て、そのまま宙に浮くと、ある場所へと向かって飛びます。
ついでに街の方や辺りを確認してみたけれど、世界崩壊という言葉がピッタリと合うほどに、もの凄く酷い状況になっていました。
山はあちこちで土砂崩れが起き、建物は殆どが崩れてしまっています。津波も来ていたとしたら、沿岸部は壊滅的でしょうね。
ここから復興するのは、至難の業ですよ。僕達も頑張らないとね。
それよりも、あの妖怪さんはこの事態すらも予想していたんでしょうか。今の僕には、あなたがどこに居るかなんてすぐに分かるよ。
「向こうですね……鷹峯の方? 京見峠のあたりかな……」
あそこは京都市内を一望出来る、絶景のスポットがあったはず。そこで酒呑童子さんは一部始終を見ていたのかな。その場所も、土砂崩れとか起きて大惨事になってるはずだけど。
だけど、もしもこの全てが計画に含まれているとしたらなら、いったい酒呑童子さんは何手分の策略を考えていたんでしょう。
「僕が来ることも、計算済みかな?」
でも、そんな事関係ないです。酒呑童子さんがやったことに、なんのお咎めも無しは都合が良すぎますからね。
僕はそんな事を考えながら、酒呑童子さんの下へと向かいます。




