第拾壱話
力は必ず単一です。
その人にしか使えないものであって、他の人が使おうとしても、その人みたいに上手くはいきません。ある程度真似は出来てもね。
「……そこですね」
僕の分身体に、白狐さんや黒狐さん。そしてお父さんとお母さんにソルさん。皆でひたすら空亡を攻撃させてから10分。やっと力の分け目を見つけました。
無理やりのり付けてしていて、自分の中に留めていただけですね。太陽の核は取り込んでいるけれど、リョウメンスクナの力の方は引き剥がせそうです。
そうすれば、ソルさんが太陽の核の方はなんとかすると、そう目で語っています。
「さて……と」
だから僕は、僕のやるべきことをやります。
「神通力最大……」
たとえ僕が僕じゃなくなっても、あの星を救えるなら。
「白金の火焔尾槍!!」
皆を救えるなら。僕は全力で向かいます!
「なぬっ!! そっちか!」
「もう遅いです!」
後ろを振り向いてその大きな腕を展開しても、もう遅いですよ。既に僕の攻撃には、尋常じゃないほどの力を込めています。
「がっ!! ぐあっ! 腕が……ぁぁあっ!」
「先ずは、その厄介な力を引き剥がします!」
「ぁぁああああっ!!」
相手の腕を貫いて、槍の形になった僕の尻尾は、そのまま相手の腰の辺りに突き刺さります。そこが、リョウメンスクナの力のつなぎ目でしたからね。
「はぁぁぁあ!」
「かっ……! おのれ、おのれ! 呪術が……せっかく得た新たな力がぁあ!」
「力を求め過ぎましたね。自分の本来の力までブレちゃって、思うように戦えていないんでしょう! リョウメンスクナの力を手にする前の方が、強かったんじゃないんですか?!」
「お、おのれ……おのれ……おのれおのれおのれ!! 貴様等が、早く来すぎたのじゃぁあ!」
アクトゥリアンさんのおかげでしたか。空亡にとって、僕達がこんなに早く来たのがまず想定外だったみたいですね。
そこで、まだ力が安定していないのに、焦って太陽の核を取り込もうとした。
「どっちにしても、僕達には関係ありません。あなたを倒すために来たんですから! てやぁああ!!」
「ぬぁぁああっ!!」
そして、僕は思いきり力を込め、空亡の体から真っ黒なタールのようなものを引き剥がします。
これがリョウメンスクナの力そのもの。そんなのはこうですけどね。
「白金の焔浄化!」
「なぁっ!!」
僕の神術の混ざった妖術で燃やし、リョウメンスクナの力を掻き消しました。これでもう、リョウメンスクナに怯える必要はなくなりました。
「くっ……ほほ……ほほふふ。まだじゃ。妾にはまだ太陽の核が……それに、確かに余計な力が剥がれたせいか、体が軽いわい」
空亡は元の姿に戻り、それでもまだ太陽の核のエネルギーを放出し、僕達を睨みつけます。
「そうですね。ただその主導権は、まだあなたじゃないんですよね?」
「なぬ? ぐがっ!」
「は~い空亡。ちょっとおふざけが過ぎたわね~」
僕がリョウメンスクナの力を掻き消した事に驚いたのか、空亡の頭から、完全に太陽神の存在が抜けていたみたいですね。
ソルさんが背後から腕を突き刺していました。腕って……ソルさん、それしか方法がなかったのですか?
「がっ……あっ、まだじゃ。まだじゃぁあああ!!」
「あっ、ちょっと……暴れ……ごめん椿ちゃん! こいつ、最後の力を振り絞って攻撃を……!」
分かっています。空亡が叫んだあと、もの凄い力の奔流が体を巡っていて、太陽の核から得たエネルギーと、自身の妖気を混ぜ合わせていっています。
どうせ抜かれるからって、最後の最後にそれを利用しようって事ですね。
「良いですよ、空亡。初めて会った時とは違います。僕も全力全開でいきますよ」
「ほほふふふ! ここにいるやつら、皆黒い太陽の燃えカスになるんじゃ!!」
そう叫んだ空亡の両手から、黒い大きな太陽の塊が出て来ます。全妖気を込めてますね。
それなら僕も……と、御剱を構えて空亡を見据えます。そしてその剣に、ほぼ全ての神通力と妖気を流していきます。
「禍キ黒陽ノ贄」
「神代ノ剱、白金武神斬!!」
相手の放った黒い太陽の塊に、御剱から飛び出した白金に輝く真空の刃がぶつかって、激しい衝撃とともにあたり一面が眩しくなっていきます。
もの凄い力と力の衝突で、空間自体もおかしくなっている。崩壊する前に、押し込まないと!
「うぐぐぐ……!!」
「ほほふふ……!! 程々には楽しめたかえ。そうじゃな、今回はここまでにしておいてやろう」
「えっ……?」
すると、空亡がなにかそんな事を言った瞬間、その体が弾け飛びました。
「なっ……!!」
呆気ないですよ……空亡を倒したの?
『…………』
そのあまりの呆気なさに、皆呆然としちゃっています。
違う。倒した感触が……ない。どういう事でしょう。
「……やれやれ~今回もなんとかなったわね」
「ソルさん、今のはいったい……」
「ん? あぁ、2体目だか3体目だかの空亡が消えただけでしょ」
太陽の核を取り戻し、太陽神本来の力を取り戻したソルさんがそう言ってきます。
あんまり近付かないで欲しいです。熱いってば……灼熱だってば。
「ソルとやら、なにか知っているのか?」
「ん~それよりも、太陽が本来の姿に戻るわ。あなた達を地上に戻さないと、このままだと一瞬で燃え散るわよ」
「えっ? わぁ!!」
すると、黒い空間やお城のような形が徐々に崩れていき、あたりに高熱が広がり、更には目が潰れそうな程の光りに包まれていきます。
しまった……このままだと太陽に飲み込まれちゃう! 脱出は、ってアクトゥリアンさん?! あの人どこに行ったの!
「つ、椿よ! 神通力でなんとか!」
「無理よ白狐、椿はさっきので相当な力を使ってるわ! 神通力はしばらく使えないわよ!」
その通りですね。なんとか自我は保てたけれど、ちょっとしばらく妖術を使えそうにないです。
すると、慌てる僕達の周りに、突然大きな炎の球体が出現して、僕達を包み込みました。
「大丈夫よ~私がちゃんと地上に返すから。それより、またちゃんと受け継いでいってね~流石に今回のは危なかったからさ。次の空亡で本当に負けちゃうかもしれないよ~」
『次の空亡?!?!』
その言葉に、皆一斉に口を揃えて叫んじゃいました。
いったいどういう事? 空亡って次から次へと生まれるんですか?! そうだとしたら、今回僕がやったことは無意味なの? いや、無意味ではないけれど、完全に倒してはいないって事じゃないですか!
でも、その答えを聞こうとするよりも早く、ソルさんが手を振ってきました。
「ちょっと待って、どういう意味?! ちゃんと教えて――」
「大丈夫、答えは身近にあるから。ちゃんと次の空亡の対策してね~バイバイ~」
「ソルさん、ちょ――」
だけど僕の叫びも虚しく、次の瞬間には眩い光に包まれ、僕達の体はどこかに引っ張られるようにして、太陽から飛び出してしまいました。
更にその視線の先には、見たこともない大きな宇宙船と、それを囲むようにして飛ぶ沢山の宇宙船が見えました。
アクトゥリアンさん達と、あれが惑星ニビルからの凶悪な宇宙人の宇宙船? 本当に外で戦ってたんだ。
というより、アクトゥリアンさん達の船が、敵の船を引きつけているような飛び方をしていますね。
だけど、太陽が元に戻ったからか、大量の宇宙船の方が一斉にその場から消えていきます。
更に、僕達の姿を確認したのか、窓からアクトゥリアンさんの姿が一瞬だけ見えました。少しだけ微笑んでいるような、そんな笑顔です。
そのまま、アクトゥリアンさん達の船まで遥か遠くの方へと飛んで行ってしまいました。
ちょっと戻ってきて欲しかったんですけどね。文句があったから……。
だけど僕達は、太陽の炎の球体に包まれていたから、ただひたすら真っ直ぐに光速で、地球へと向かって飛んでいくしかありませんでした。




