それはTVと言って箱の中に人が閉じ込められているわけではありません
「いやぁテンプレ。テンプレ」
急いで帰宅すると兄が頭をかきながら 玄関まで出てきてくれた。
帰宅して来て、部屋に引きこもっていない状態の兄を見るのは、本当ひさしぶり。
兄も、私に話たいことがいっぱいあって待っていられなかったようだ。
「テレビ見て『魔法の箱か?』って騒ぐし、時代劇を見てて剣持って飛びかかろうとするし…トイレやお風呂の使い方覚えるだけで大騒ぎでさあ?」
参った参ったと言いながらも兄は楽しそうだ。こんな様子の兄を見るのも久しぶりだ。
「で、アレ買ってきてくれた?」
アレとはレンの服である。
量販店でどこでも手に入りそうな特徴のないものを選んで、しかも店員さん以外に見られないように買ってきた。
スポンサーは兄である。
引きこもりついでにデイトレとかFXとかで、小銭を稼いでいるのだ。
「レンは今なにしてるの?」
「医療ドラマ見てる」
たしかに、TVは情報の宝庫だ。
視覚と聴覚にダイレクトに飛んでくるものがあるだろう。
「でも、味覚と嗅覚はどうかな~?」
私は帰りにスイーツを買ってきていた。 早くレンの驚く顔が見てみたい。
「兄貴の分もあるからね?」
できる妹だろ。と胸をはる。
「サンキュな。」
兄貴は笑顔を見せると買ってきた服をレンにもっていった。
私はウキウキと紅茶を用意した。
こんな風に兄貴と笑顔で会話できるだなんて、本当にいつぶりだろう?
レンの存在が私達、兄妹の関係を変えてくれているようだった。