勇者の喪失
「卒業おめでとう!」
レンは19歳で高校を卒業した。
入学するのが1年遅れだったから仕方ないね。
私も無事にゲーム会社に就職できたし、新人ながら、提案したゲームの開発が進んでいる。
兄も、今日は海外から帰ってきて、家にいる。
「レンにいっぱい世界の話をしてあげる事ができるぞ」
単身赴任の父も、一時帰宅していて、ニコニコしている。
母ももっと近くの会社に転職ができ、毎日機嫌がよい。
「それもこれも、レンのおかげのような気がするね」
私達はしみじみと言い合った。
レンはもう私達の家族で、私達兄妹の自慢の弟で、父母にとってはかわいい末っ子だ。
「さぁレン。いっぱい食べて」
「ありがとう、父さん母さん、兄さん姉さん。」
礼儀正しく、しかしとても嬉しそうにレンは言った。
「これで大学が受かっていたら万々歳だね」
「レンなら受かるさ」
「俺、もっとこの世界の事を知る事が出来るんですね」
レンは心底幸せそうな笑顔を浮かべた。
つられて私達も微笑む。
本当にいい日で、わたし達は幸せだ。
「さぁ、レン、レンが大好きなスィーツだよ」
私がサプライズに用意していたケーキの箱を取り出した時、
白くて輝くような魔法陣が、レンを包み込んだ。
「レン!レン!」
「なんだよこれ!こんなの聞いてないぞ!」
慌てふためく私達を尻目にレンの身体が透けていく。
「ありがとう」
レンはそう言っていた。
「なんで今頃、むこうに帰るんだよ!」
兄が両手を床について泣きながら怒っていた。
泣いたらだめ泣いたらただでさえ透けて消えてくレンの姿が見えなくなくなってしまうから。
そう思うのに私の両目からは涙がとめどもなくあふれていく。
「大好きだよ」
レンの目からも涙が流れて一筋落ちて――そうしてレンは消えてしまった。
おそらくは来たときと同じように忽然と。
「あっ、レン!剣!」
レンの剣は兄の部屋に保管されていた。
だがいつの間にかその剣も消えていたことがわかる。
「レン……」
私達は茫然としているより他なかった。
ふと手元を見る。ケーキがひとつなくなっていた。レンが一番好きだったチーズケーキ。
「レン、ケーキ食べれたかな?」
「あっちに一緒に行ってるといいな…」
父が慰めるように言ってくれた。
それから2週間後、レンの元に合格通知が届いた。
本人がいないのに。
それはたしかにレンが私達と共にいたという証拠だった。
別れはつらいですよね
気分転換での怒涛のUPにお付き合いいただきありがとうございます。
これで完結とさせていただきたく思います。




