1.プロポーズ
「酒井君、あたしと付き合ってください」
去年の秋、俺は人生で初めての告白をされた。
相手の名前は同級生の白石立夏。
高校入学後、半年程度にも関わらず校内では知らない人がいない程の有名人だ。
彼女が校内で有名になれた理由は、育ちの良さそうな気品ある態度に加えて、何より他者の目を引くようなその美貌にあった。
そんな美少女に告白され、真っ先に思ったこと。
「……なんのドッキリだ?」
人様の告白を茶化すこと程、無粋なことはないことは承知していたが……明るい性格をしている彼女とは対照的に、俺の性格は暗かった。
その場の空気を読まず自由気ままな発言をしてトラブルを起こした回数は数知れず。
最近では他者とのコミュニケーションも積極的に取ることさえ億劫になっていた。
そんな日陰者な俺に、この学校限定で言えば最早太陽のような存在の彼女が告白するだなんて……到底、すぐには信じることが出来るはずもなかった。
「ドッキリでも、勘違いでもないです」
そういう白石の瞳は潤んでいた。
「……到底信じられない」
「本当です」
「なら、一体俺なんかのどこを好きになったんだ」
「……カッコいいところです」
思わず鼻で笑いそうになったが、そこは堪えて……。
その後も俺達は議論を重ねた。
白石の告白は事実だったのか。
白石の告白はドッキリでも勘違いでもなかったのか。
俺はカッコいいのか。
議論に議論を重ねて、検討に検討を重ねて……結局、彼女の説に俺は納得出来ず。
「……どうしても付き合ってくれませんか?」
普通であれば、告白に対して事実証明をしろと迫られた段階で興醒めしそうなものだが、彼女は類まれなる美貌と気品があるだけでなく、辛抱強くもあったらしい。
「……まあ、まずは友達からどうだ?」
「いいんですかっ!?」
よく知りもしない人と交際するなんてリスクが伴う選択を出来ない俺の妥協案は……彼女の眩い笑みを生んだ。
……思えばこの時、彼女の笑みに見惚れた瞬間から、その後の運命は決まっていたのかもしれない。
友達になった俺達は、友達という間柄の割には、学校生活を送る間、長い時間を共にした。
「白石、その……俺と付き合ってくれないか」
「はい。勿論です」
そんな俺達の関係が、白石の願い通りのものになるのに、思ったよりも時間はかからなかった。
「……痛くなかったか?」
恋人になって数週間後、俺達は行為に及んだ。
場所は俺の家。その日はたまたま両親が残業で帰りが遅く……ご飯を振舞っている内に、そういう雰囲気になってしまった。
行為の後、俺達は狭いシングルベッドに座っていた。
「……白石?」
いつもならもう少し彼女に無遠慮な態度を決め込む俺だったが、何分初行為だったこともあり、彼女の些細な反応さえ見逃さないよう、目配せを送っていた。
彼女は俺に背を向けていた。
「……だ、大丈夫でした」
白石は声を震わせながら、ワイシャツを羽織ってボタンを下から閉じていた。
その日を境に俺達の関係は一気に進んだ気がした。
お互いの初めてを捧げ合ったためか……相手に対する気持ちだけでなく、信頼感もより強固なものになった気がしたのだ。
それから約六ヶ月。
……俺は彼女に対して、違和感を覚えるようになった。
「……」
「……」
ここ数日、彼女は元気がないように見えた。
彼女と登下校を共にするようになって数か月。
毎日毎日、つまらない世間話をしながら学校に通う行為を、以前の彼女は何故だかとても楽しそうに送っていたのに、最近の彼女は俺の言葉にも耳を傾けている様子がない。
俺の言葉よりも……何やら別のことで頭がいっぱい。そんな風に見えた。
「……白石、具合でも悪いのか?」
「え?」
「……勘違いするな。その、恋人としてだな。彼女の体調管理を怠ることなんて許されないだろう」
「……あはは。そうですかね」
「そうだ」
本当にそうなのか?
半信半疑だったが、言った手前引くに引けず、俺は強気に頷いた。
ともあれ、ここ数日の白石の目に余る不調は放っておくことは出来なかった。
「……」
しかし、どうやら白石は不調の原因を教えてくれるつもりはないようだ。
以前であれば、どんなにしょうもないことでさえ逐一報告してきたというのに、一体どうしたのだろうか。
……彼女の不調の原因は一体?
それを探るため、気付けば俺は彼女の体を……つま先から頭のてっぺんまで、まじまじと眺めていた。
……そういえば。
最近、白石……少し太っただろうか?
いや、彼女は元々痩せすぎていたし、今も太った……というより、肉付きが良くなった、という表現の方が正しいかもしれない。
それくらい些細な体格の変化だった。
それくらい些細な体格の変化に気付く俺、きも……。
そうじゃない。そうじゃない……!
……そうじゃないが、なるほど。そういうことか。
白石の奴、体重が増えたことにショックを受けて凹んでいるんだな?
まったく。
そういえば以前も同じことがあった。
確かあれは、今年の春先のことだった。
その日は確か、学校の健康診断があって……白石の奴、去年よりも二キロ体重が増えただなんだと下校道で泣き喚いて鬱陶しかったんだ。
『二キロも太ったようには見えないぞ?』
『に、二キロも太ったとか女の子に言っちゃ駄目です!』
しかも、こっちが折角フォローしたにも関わらず、逆に怒り出す始末だったし……。
……体重関連の話となると、フォローも大変だな。
「なあ、白石」
ともあれ、このまま彼女の不調を放っておくことも出来ない。
「……あんまり一人で抱え込むなよ」
……これでも一応、俺は白石の恋人だから。
「失敗したこととか、間違ったこととか、誰かに話したくない気持ちはわかる。でも、一人で抱え込んだって時間だけ過ぎて余計どうしようもなくなるだけだ」
彼女の不調を取っ払うのも、恋人の役目だろう?
「だから……俺に相談してくれよ」
「……」
「俺を頼ってくれ。そのための恋人だろう?」
……夕日が沈みゆく中、熱に浮かされたような気分で言葉を発した後、少しだけ照れ臭い気持ちが襲ってきた。
ここまで俺に言わせたのだ。
白石も、さっさと覚悟を決めてほしいものだ。
「……」
しかし、白石は逡巡しているのか、俯いたまま口を開かない。
「白石」
「……」
「……白石?」
「……酒井君」
ゆっくりと、白石は顔をあげた。
「あたし……妊娠したみたいです」
彼女の発した言葉は、あまりにもわかりやすく、単純なものだった。
しかし、彼女の言葉の意味を理解するのに、少しばかり時間を要した。
「……子供が出来たってことか?」
俺は生唾を飲み込み、当たり前のことを尋ねた。
そりゃあ、妊娠したってことは、子供が出来たということに他ならない。
言わずともわかることだ。
しかし、気が動転していた。だからこそ無意味なことを尋ねてしまったのだ。
「……」
白石はまた俯いて、黙った。
「…………はい」
しばらくして、弱弱しく頷いた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……そうか」
いつもの下校道。
いつもの歩調。
しかし、いつもと違い、俺達が纏う空気は、重い。
「最近、体の調子が悪くて……。梅雨も明けたばかりだし、もしかしたら低気圧のせい? とか思ってたんですが。……その、この前、夜に家で吐いてしまって」
「……そうか」
「突然、気分が悪くなるんです。……ネットで調べて、つわりって出てきて。そんなわけない。そんなわけないって思って。……でも、症状は好転するどころか日に日に悪化して」
「……」
「それで……妊娠検査薬を買って。調べたら。……陽性って、出て」
「……」
「……酒井君。ごめんなさい」
重い空気の中、彼女の謝罪の言葉を聞き……俺は少し冷静になった気がした。
「それは何に対する謝罪だ?」
「え?」
白石はピタッと足を止めて、不安げに俺の顔を見上げていた。
「……」
彼女に倣い、俺も足を止めた。
「……」
「……」
しばしの沈黙の後。
「白石、産婦人科に行こう」
「……え」
「受信料は俺が出す。だから行こう」
「……そ、その」
「マイナカードは持っているか? それか保険証」
「……さ、酒井君?」
「白石。妊娠検査薬が正しい結果を必ず出すとは限らない。ちゃんとした専門機関に検査してもらおう」
「……でも」
「俺も一緒に行く。だから行こう」
「……でも。あたし達、高校生ですよ?」
「……それが?」
「……本当に妊娠していたら、怒られるかもしれません」
「怒られたくないか?」
「……」
「……」
白石は、黙って頷いた。
「そうか」
「……」
「じゃあ、もし怒られそうになったら、お前は嫌がってるのに、俺が断りづらい雰囲気にさせて、やらざるを得なくなった、ということにしよう」
「な……!」
「そうすれば、お前は怒られない」
「さ、酒井君……っ!」
白石は目を見開き、わかりやすく怒っていた。
彼女にしては珍しい反応だ。
「……駄目です。そんなの」
「白石。もう一度言うが、妊娠検査薬の結果が間違いだって可能性もある」
俺は白石の肩を掴み、熱がこもった声で続けた。
「それだけじゃない。……もし妊娠していたとして、その後をどうするか。それを決めるのは、俺達だけじゃ無理だ」
「……」
「だから、キチンとお医者さんに見てもらって、今後の相談をしよう」
……普段の白石は気品あるお淑やかな人である。
不公平を嫌い、間違っていることを嫌い……不正を見かければ、それとなく注意をする、そんな人だった。
その人が……俺の申し出に対して、躊躇の姿勢を見せた。
……それくらい、事の重大さを認識しているということなのだろう。
「……俺がいるから。頼む」
躊躇している様子の白石だったが、どうやらこの言葉がダメ押しとなったようだった。
「……わかり、ました」
「ありがとう」
「……でも、さっき言ったみたいな話はなしです」
「……」
「酒井君は……あたしを無理やり襲ったわけではありません」
「……さあ、どうだったかな」
「もう……っ。絶対、お医者様の前でそんなこと、言い出さないでくださいよ」
「時と場合による」
「……本当に、止めてください」
白石は俺の制服の裾をちょこんと掴み、俯いて囁いた。
……現状、俺達の置かれた状況は深刻なものだ。
それこそ、俺達の人生そのものを左右するくらい、深刻なものだ。
「……うぐ」
しかし、白石のこういういじらしい態度を前にすると、どうにも照れてしまうのだから、始末に負えない。
そんな一幕を経て、少しだけ空気が和んだことを肌で感じつつ、俺達は産婦人科へ向かった。
今、俺達がいる場所は学校周辺。
冷静に考えれば学校の関係者がどこで目を光らせているかわからない中、学校周辺の産婦人科を受診することは避けるべきだったかもしれなかったが……診療時間のことを考えると、今日、病院を受診するのに遠方まで出向く時間はなかった。
少しだけ元気が出た様子の白石と雑談をしながら、そんなことを頭の中であーだこーだ考えている内に、病院に到着した。
産婦人科の受付は、制服姿の俺達の受診にもそこまで驚いた様子はなかった。
病院の受診一つでも相応の覚悟を持って望んだ身としては少し拍子抜けしてしまう結果だったが……冷静に考えれば、その方が都合は良かった。
初診ということもあり、問診票を記入し、受付に票を手渡しした後も、相手からの反応は軽薄だった。
「……あんまり何も言ってきませんでしたね」
問診票の受診理由には妊娠検査のためであることは明記したが、それでも尚、反応は軽薄。
緊張の糸が少し緩んだためか、白石からも似たような感想が聞こえてきた。
「……思えば、今は多様性の時代だからな。もしかしたら、年齢だとか身体的特徴だとか、そういうことで偏見の目を受診者に向けないよう、教育とかもされているのかも」
……もしくは、ここは国内でも有数の大都市、東京。
俺達と似たようなケース、問題を抱えて産婦人科を受診する人間は、意外と少なくないのかもしれない。
『白石さん。白石立夏さん』
色々考えている内に、彼女の順番が回ってきた。
「失礼します」
「こんにちはー。……若いですね」
受付とは違い、白石を診てくれる医師は少しだけ苦笑を見せた。
「……ごめんなさい」
「ああ、違う違う。別に謝る必要なんてないわ」
医師の目が俺へと向けられた。
「そちらは彼氏さん?」
「……はい」
「そう。……悪いけど、内診室への同伴者の入室、ウチは駄目なのよ」
「そうでしたか」
「えぇ。病院によっては恋人の同伴自体禁止の病院もあるから気を付けてね」
「……失礼しました」
「いいえ。……まあ、これからは受診の前に一言連絡を頂けると助かります」
「ごめんなさい……」
「うふふ。若いわねぇ。とりあえず、一旦待合スペースで待っていてもらえるかしら?」
「わかりました。……白石、それじゃあ、また後で」
「……はい」
内診室を出る手前、白石の瞳が不安げに揺れたことがわかった。
その様子に少しだけ良心の呵責が揺らいだが……病院のルールとして禁じられている以上、ここで喚いて無用なトラブルを生むほうがリスクか。
……ともあれ産婦人科も色々とルールが厳格化されているんだな。
まあ……女性のナイーブな部分を見る場所でもあるし、そういう部分が厳しくなる理由も頷けると言えば頷ける。
ただ、真っ先に飛び込みで受診した産婦人科が事前連絡なしでの同伴者可だったことは不幸中の幸いか。
もし、同伴者不可の病院だったら、彼女の決意も揺らいでいたかもしれないし……。
そんなことを色々と考えている内に、時間は過ぎた。
おおよそ一時間後……。
「ありがとうございました……」
「白石」
内心室から白石が出てきた。
「どうだった」
「……酒井君」
白石の顔は、わかりやすく暗い。
「……」
「白石さん。白石立夏さん」
白石が口を開こうとしたタイミングで、受付から名を呼ばれた。
受診料の請求のためだ。
お金は……まあまあしたが、俺の財布から出した。事前の約束だし致し方ない。
お金を払った後、後ろにいた白石に結果を聞こうとしたが……俯き覇気のない白石から結果を聞くのは、少し骨が折れそうだ。
「一旦出よう」
この場に居続けるのもリスク。……な上、そもそも病院側の邪魔になりそうだ。
俺は彼女の手を優しく引いて、病院を後にした。
失意の白石の手を引き、向かった先は……俺達がよくデートに利用する駅近くの公園。
初めてこの公園でデートした時、公園でのデートなんてガキみたいだ、と内心で思ったものだが……俺達はまだガキだし、公園で遊ぶだけならお金もかからないし、白石とはただ世間話をしているだけで楽しいし、イメージだけで公園デートを嘲笑したかつての自分を恥じた。
……ただ、今日ばかりはいつも通り、公園デートを楽しめる気はしない。
「ほら」
自動販売機で買ってきたお茶を彼女に渡して、彼女の座るベンチの隣に、腰を下ろした。
「……で、どうだった?」
……正直、今の白石の様子を見ていれば、最早聞くまでもなく結果はわかりきっている。
が、なあなあなままで進むべき事柄ではない。
「……デキてました」
ベンチに座り、ずっと俯く彼女の口から漏れた弱々しい声。
時折、すすり泣きが交じるその声を聞き……尋ねたにも関わらず、俺は返事をすることが出来なかった。
「……ごめんなさい」
ショックだった。
……と、言うわけではない。
「何を謝る必要がある」
「……本音を言えば、もう少し前からわかっていたんです。妊娠しているんじゃないかって」
確かに、先程彼女は予兆があったことを仄めかすようなことを言っていた気もする。
「でも……そんなはずはないって思いたかったんです。あたし達の行為はたった一度だった。それに……避妊だってちゃんとした。だから出来るはずがない。少しだけ具合が悪いけど、それもただの体調不良なだけだろう。そう思いたかったんです」
端を発したかのように、白石の独白は続いた。
「体型も少し変わったけど、食欲も少し増えたし、酒井君と食べ歩くことも度々あったから、それが原因だろう。ちょっと太っただけだろうって見て見ぬふりをしたんです」
「……」
「でも……ついにお腹が出てきて、もう言い訳出来なくなって。どうしようって……悩んで」
「……白石」
「……お医者様に検査してもらって、エコーもしてもらって、子供の姿も見せてもらって。そうして、言われました」
……一体、何を?
「……妊娠二十三週。もう、お腹の子は……おろせないみたいです」
一層、白石の声は弱弱しくなった。
「法律で決まっているみたいです。人工中絶手術は、妊娠二十一週以降は禁じられているみたいです」
「そうだったのか」
「……あたしが見て見ぬふりをした結果、とんでもないことになってしまったんです」
白石の声は、今にも消え入りそうだった。
「ごめんなさい。……本当にごめんなさい」
彼女の謝罪を聞いた俺は……返事をすることが出来なかった。
彼女の気持ち。
彼女の後悔。
彼女の懺悔。
それら一つ一つが響かなかった。
そういうわけではない。
俺が白石を身籠らせたという結果や、未成年で子持ちになってしまうことへの恐怖に、打ちひしがれた。
そういうわけでもない。
……彼女に向けて、どうしても言いたいことがあった。
しかし……どのように今の俺の気持ちを言語化するべきか。
自分の中の感情も絡まった糸のように複雑で、それがわからなかった。
「……白石、俺は怒っている」
この言い振りが正しいか正しくないかはわからない。
ただ、等身大で自分の苦悩や後悔を語ってくれた彼女のためにも、俺も思いの丈を打ち明けようと思った。
「ごめんなさい」
「違う。お前は今、誤解をしている」
多分……俺の気持ちを全て、つつがなく彼女に伝えることは出来ないだろう。
「どうして子供が出来たことを犯罪を犯したかの如く謝るんだ……っ!」
それでも、俺が今、何を思い、何を思っているか。
それら全てを彼女に伝えたかった。
「人間が自らの種を残すのは生存本能の一種みたいなものだろう。確かに俺達はまだ学生だ。普通であれば子供を育てることより勉学に励み、ある程度自立をしてから子育てをするべきだ。しかしだ。本来、子供が生まれたことは喜ぶべきことのはずじゃあないか」
「……」
「そりゃあまあ確かに。何度も言うが、俺達はまだ学生の身。妊娠のことをこれから報告する周囲には色々なことを言われるだろう。きっと酷いことも言われるだろう。だがな、これだけはハッキリさせておく」
「…………」
「俺は、お前と子供を作れて嬉しかった……っ!」
俺は高ぶる感情のまま、白石の肩を掴み、彼女の両目を見て、ハッキリと言い切った。
「お前はどうだ、白石」
「……あたしは」
「……」
「あたしも、嬉しかったです」
白石の両目から大き目の涙がこぼれた。
「ずっと酒井君のことが好きだった。この学校に入学して、新入生挨拶をしたあの日、壇上から見かけたあなたに一目惚れをした」
「え、そうだったの?」
「それから……ずっとあなたばかりを見ていた。気持ちのままに告白して、その場では恋は成就しなかったけど、あなたはあたしの気持ちに応えてくれて。結ばれて。一つになれて……っ」
白石は俺の胸に飛び込んだ。
「……本当はこんなことを言うべきじゃないと思っていた。でも、本当は……」
白石は俺の胸にグリグリと顔を押し付けてくる。
「……あなたとの間に授かったこの子が、もう愛おしくてたまらないんです」
白石の声は先程の謝罪した時のそれとは違い、熱がこもっていた。
「そうか……」
「……はい」
「白石」
「はい?」
「愛しているぞ」
「ほえっ!?」
顔を上げた白石の顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「さ、酒井君? いつもつっけんどんな酒井君? あなたが……まさか、そんな」
「なんだよ。愛している人に愛していると言って、何が悪い?」
「ま、また愛しているって。また愛しているって!? いつも……好きすら中々、言ってくれないのに」
「……それはすまん」
自分の気持ちを口にするのは、中々恥ずかしい。
「……白石。明日お前の両親と会えるか?」
「え? ……は、はい。多分、会えると思います」
「なら、明日、お前の家に行かせてくれ」
「こ、今度は何をする気ですか?」
「妊娠したことを伝える。そうして、許してもらう」
「……そ、そんないきなりですか」
「善は急げと言うだろう。……まあ、もう遅いかもしれないがな。それでもちゃんと、俺もいた場所で報告させてくれ。お前一人に重荷は背負わせるわけにはいかない」
「……さ、酒井君?」
……ただ、この言葉くらいは、一切の躊躇なく言い切ってみせるべきだろう。
「白石、結婚しよう」
学生妊娠って昔なら百パーセント人生お先真っ暗状態な話だけど、多様性にうるさい現代、かつ寛容な家庭ならワンチャン・・・?という思考で書き始めました。




