ep.67
「ギルドマスターに呼ばれるような覚えはないが?」
そちらにはあるかもしれないが。あくまでもスマートに。出口方向に目をやり、現在地から、出口までの道筋を確認する。サリアちゃんが出張ってきてくれたおかげで、ファンボーイどもはそれに釘付け。逃げる際の、不確定要素が減ってこちらとしては好都合。最初に声をかけてきた職員さんを躱すことができれば、こっちのもんだ。残念ながら、衆人環視の状況で【気配希釈】はかけられないが、俺ならば、行ける。
「行きましょうか。」
「へ?」
目の前には俺の手を持ったサリアちゃん。ニコニコといい笑顔を湛えている。さっきまでカウンターの前辺りにいなかったか?瞬間移動?ってか、この状況で俺に触れるなよ。貴様、わかってやっているだろう。俺が何したってんだ。手を振り払おうとしてもびくともしない。こういう時のために、STRにも振っておかないといけなかったか。流石にそこまでは読みきれなかったな。まだまだ、俺も修行が足りん。あらゆる可能性を考えておかねば。
サリアちゃんに手を掴まれたまま、グイグイと引っ張っていかれる。おい、ファンボーイ共、止める気概のあるやつはおらんのか?だからお前たちはダメなんだ。見ようによっては、手を繋いでるんだぞ。サリアちゃんと、何処の馬の骨とも知らん男が。それを許していいのか?だからお前たちはダメなんだ。
俺の願いも虚しく、サリアちゃんの暴挙を止める者は現れなかった。皆が道を譲り、あっという間に2階、そして、3階に連れて来られる。道中ブルーがいたように見えたが、助けてはくれんかった。3階に来たのは初めてだ。部屋がいくつかあるようだが、何用の部屋かはわからない。通された一室は、応接室だろうか、ローテーブルにソファが向かい合って置いてある。中には誰もいない。
「ギルドマスターを呼んできます。」
座って待っていてくださいと、恭しく頭を下げ部屋を後にするサリアちゃん。残された俺は、とりあえずソファに座ってみるが落ち着かない。背中にルーがいるから背凭れに凭れられないが、前傾姿勢だと違和感があるだろうか。だが、腹に回ってこられるのも危ないし。大人しく背筋を伸ばしておこう。偉い人との面会で緊張している青年のロールプレイだ。
「お待たせしました。」
そう言ってドアを開けて入ってきたのは、物腰穏やかな線の細い壮年の男性。冒険者ギルドのマスターだっていうから、筋骨隆々の毛だるまを想像していたんだが、思ってたんと違うな。この周りは強い魔物もいないようだし、プレイヤーが初めて降り立つ地だから、事務方がトップに座ったんだろうか。
「用があると伺いましたが。」
「ああ、そんな緊張なさらず。ぜひ、リラックスしてください。」
緊張しているように見えたか。俺の演技も捨てたもんじゃないな。再び扉が開き、サリアちゃんが茶を持って入ってくる。俺の前と、ギルドマスターの前にそれぞれ茶をおき、ギルドマスターの後ろに控える。同席するのかよ。もしかして、帰りも一緒?ギルド出た後、闇討ちにでも合いそうだな。早々に姿をくらませなければなるまい。やっぱり、ギルドにはこない方が良いな。
茶菓子がないということは、そこまで長い話にはなるまい、と高を括る。ティーカップの中には紅茶。流石に茶器のセンスも、茶の香りもミアのところの方が良いのだが、ここの紅茶も悪くはない。
「それで、話とは。」
一口紅茶を啜り、再度投げかける。俺はガチャのポイントを貯めなきゃいけないんだよ。用があるなら、手短に頼むよ。ギルドマスターも茶で口を湿らし、話し始める。
「いやね、GAKUさんがローハの群生地を再生してくれたと、職員から聞きまして。」
「それで、どのような方なのかと。」
「はあ。」
「回復薬、ひいてはローハはこの街の特産の一つでして。このギルドの収入源の一つでもあるんですよ。」
「火事で群生地が焼けたと聞いた時には焦りました。」
全く焦っていなさそうな声色で、淡々と話を続けるギルドマスター。仕事、できるんだろうな。こういう人間は何させてもそつなくこなすタイプだ。事務方だと思っていたが、戦闘も汗ひとつかかずに終わらせている気がする。旅人とかいう不特定多数の暴徒が最初に降り立つ街に、下手なトップなんて置くはずないか。
だからこそ、俺みたいな人間とは真逆の存在と言える。第一印象から、なんとなく合わないと感じていたが、その辺が漏れ出ているんだろう。じっとこちらを見ているのもあり、おそらく俺の素性も知れているんだろうな。付け焼き刃の【隠蔽】なんてあまり意味がなかったか。
「俺は戦闘が得意でなくて。ローハの採取が収入源だったんだ。」
「群生地がなくなったら俺も困るから、なんとかならんかと思って植えただけだよ。」
豊穣神から加護も頂いたし、と最低限の情報を出し、それ以上の詮索を防ぐ。意味ないだろうが。否定しようかとも思ったが、いたずらに長引かせるのも得策ではない。この場は穏便に済ませて、早めにずらかろう。
「そこで、ギルドとしては、何か謝礼をと。」
「不要だ。」
「体面もあるんですよ。旅人の方たちを頼りにしているんです。」
「では、下の酒場で謝礼の分旅人に酒を飲ませてやれ。」
「彼女がウェイトレスでもすればもっといい。」
そう言ってサリアちゃんを指差す。彼女がウェイトレスをすればファンボーイどもがそちらに流れる。俺への闇討ちの危険が減るのだ。無事にここを離れられさえすれば、【気配希釈】で逃げ切れる。ギルドマスターはやはり、海千山千といったところか。多くのプレイヤーが報酬系だということを理解している。街の益になる行いをしたものには褒賞を与えるといえば、プレイヤーの多くを動かせるだろう。そのテストケースに俺を据えようとしているのだろう。役不足だ。
「あ。ガチャポイントはもらえる?」
凭れる(もた-れる)
こう書くんですね。




