ep.55
「ここは荒らされていないな。」
というわけでやってきました群生地。ここの薬草は相変わらず元気一杯に見える。小火で焼けた範囲にも生命の息吹が。芝生のような、草原を構成する雑草が生え初めていた。やっぱり、雑草の生命力の強さには驚嘆する。もちろん生命活動としての個々のタームは短いのだろうが、それでも、焼けてすぐ新しい代に命を繋げられる様は、見ていて非常に面白い。
念の為に【気配希釈】をかけてきたのだが、ギルド職員らしき人は見当たらない。胸をひと撫でし、川の方に向かう。
「少し水位が上がっているかな。」
先日の雨の影響だろうか、前に見た時も水量は多かった記憶があるが今日はその時よりも多い気がする。そして若干濁っているだろうか。水源の方に行ってみて、濁っていそうなら今日採水するのはよしておこう。どうせなら素で飲めるくらいの綺麗な水がいいからな。
「結構釣り人はいるんだな。」
さすが【DW】だ。結構な人がこのゲームに釣られたんだろう。現実と近い感覚で、好きな時に釣りができるゲームと聞けば、釣り好きが釣られるのも無理はない。この人たちも趣味に生きているのだろう。いい顔をしている。海が見つかったぞ、君たち。さすがに、最初に兵太夫に教えてやりたいから、ここでは言わんが。あれ?でもあいつ、俺のこと売ったよな?教えてやる義理あるか?
「ああ、釣り道具と交換するんだった。」
つい、怒りが込み上げてきたが、俺にも益はあると思い出し落ち着く。危ない、危ない。もう少しでぶちまけるところだった。俺が口走る前に、早く釣竿引っ提げてこい。
上流に行くにつれて大きな岩で足場は悪くなり、釣り人も見かけなくなってくる。俺ももう少ししたら、引き返そうかな。水はだいぶ綺麗になってきたが、直接飲めるかと聞かれると、怪しいところ。煮沸すればいけそうだが、せっかくだから綺麗な水を入手したい。
「あ、ミアに頼むか。」
綺麗な水ということで思い出したのが、豪邸の噴水。坂道の頂上にある領主の邸宅だ。ミア曰く、あそこには精霊だか、妖精だかがいるとのこと。飲めるかどうかはわからないが、綺麗だったのは事実。あそこの水なら、薬草たちも喜んでくれるんじゃなかろうか。水魔石がどうのとかも言っていた気がするし、俺の知る中で一番綺麗なのはあそこかもしれない。庭の草木も生き生きしていたしな。せっかくここまできたが、行き先変更だ。一旦寝て、明日でもいいな。本来なら家長に断りを入れる案件だろうが、そこまでしなければならないのなら、やめておこう。最悪執事に取引を持ち掛ければ、【再生】使ってやった恩を返してくれるだろう。外の世界の話は大して増えていないが、畑の話とか、ダンジョンの話とか、少しくらいの脚色は許されるはずだ。
「問題はどのくらいのキャパがあるか、だよなー。」
街へ戻りながら、水袋がどのくらい入るのかということを考える。噴水が循環型だったら、そんなに多くは貰えないよな。無制限に湧き出ているのならば、時折貰いにいってもいいかもしれないが。一度水を入れたら、その水質のものが無限に湧き出る仕様だったらいいのに。そんなもん存在したら、あれか。それを巡った戦争も巻き起こるか。この世界にも渇水の地域があるだろうし。あっちもこっちも、水資源というのは貴重だ。
登ってきた道を戻りながら、いい感じの枝を集めていく。今後の落とし穴に使うかもということで、祠の分も合わせて、ナイフを使いながら大小様々なものを取り合わせていく。群生地付近に着く頃には、結構な量が集まった。簡易的なものでいいなら、あとは糸か紐か。結び合わせるものがあれば、祠は作れるだろう。街の道具屋にいけば釘なんかは簡単に手に入るだろうが、祠ならば木組が似合う。さすがにそんな知識も技術もないので、それは追い追い。こっちの技術者に聞くか、現実で動画を見て見よう見真似でトライするか。
「果たして、ここまで信仰心のあるプレイヤーがいるのか。」
こちらの世界に来て、なんだかんだ神に祈っている気がする。信仰値というものが設定されているなら、俺は結構上位帯なんじゃなかろうか。神に対して、信仰値がどうの言っている時点で、お笑いものか。まあ、一般日本人なんてそんなもんだ。最近顔出してないが、もしかしたら神殿に宗教家プレイしているプレイヤーが出たかもしれない。危険な思想の持ち主でなければいいのだがな。新興宗教でも立ち上げるなら大したもんだが。
あれこれ考えていたら、もうすぐ畑に着くところだった。神が見てたからか、畑は荒らされていなかった。もしかしたら、夜行性なだけかもしれんが。今日もあちこち動いてスタミナがだいぶ減っている。少し暗くなってきたところであるが、もう今日はログアウトしてしまおう。暗い時に、水くれと訪問するのもいただけないし。そのかわり、明日少し早く起きて、祠の木の選定や落とし穴の場所決めなどしようかな。
「お前、畑荒らす奴がいたら見といてくれよ。」
「危なくないように離れた位置でな。」
「 」
人間にバレるのは致し方無し、と今回は畑に近い場所を陣取りキャンプキットを使用する。いくつかまとめて買ったキャンプキットも残りわずか。また買いに行かなければな。ダンジョンでいくつかドロップ品も出たことだし、資産としてはまあまあ持っているんじゃなかろうか。一番は畑が栄えてくれればいいのだがな。
そんことを考えながら、カメレオンに声をかけログアウトする。




