ep.18
結局あの後もう一杯飲んでしまった。ギルドの酒場から出る時、足に力が入らなかった。確認すると、酩酊の状態異常。何がビール4杯で酩酊だ。九州男児なめるんじゃあないよ。金があればあそこの樽からにしてやるところだったのに、命拾いしたな。
残金も残りわずか。本日も神殿のお世話になろうと思い、千鳥足で向かう。神殿は昨日より出入りが激しい。みんな夜間の戦闘もできるようになってきているんだろうな。そういえば、獲得スキル欄に、【暗視】なるものも追加になっていた。一度スキルも確認しないと。でも今はだめだ。俺はもう寝るんだ。
「旅人様、ですよね?今は宿屋がお安くなっていますよ。そちらを利用されたらいかがでしょうか。」
コイツめ。前回と同じセリフ吐きやがる。いつ休んでんだよ。門の衛兵でも交代制だったぞ。貴女も休んだらどうだ。一日くらい羽を休めても神は許してくれるぞ。俺も許可する。
「その宿屋に教えてもらってきた。こちらなら金がないものも受け入れてくれると。」
こちらも意趣返し。お、眉がピクッとなった。
「なんだ、意外と可愛いところあるじゃない。もっと表情豊かにしたらどうだ。」
あははと笑い、声に出してしまう。酔っているからか、気が尊大になっている。普段なら、頭の中で考えるだけだが、思わず口をついて出てしまった。この俺がこんなもんで酔うわけないのに。これも問い合わせだ!
「その割には随分とお楽しみだったようで。お金があるなら宿屋へ。」
冷たく突き返される。どうやら気に障ったみたい。怒った顔も悪くないな。美人というものは徳だ。飲んできたこともバレている。なんでだ。だが、ここが使えなくなったら、宿屋まで戻らんといけないのか。無理だな。もうそんな距離歩けん。お金、お金。そうだ、全部ギルドカードに入れちゃったんだ。俺の全財産160円。
「ギルドカードでの寄進もお受けしています。」
俺が腰の周りをゴソゴソしていたら、意図が伝わったんだろう。現金だけなら良かったんだがな。神への祈りはそれで通ずるのだろうか。まあ、神が金を強く要求するとは思えん。本日も寝床を提供してくれる神様に感謝し、送金する。何やら女神像が光ったような気もするが、ぼやけていてよくわからん。タリアは今回、案内すらしてくれなかった。場所は分かるだろうと言った感じで、道だけ空ける。今日も誰もいなかった。最高じゃないか。寝床につくのに合わせてログアウトをする。少し休憩して、仕切り直しだ。
--------------------------------------------------------------------------------
「課長、開幕どうだったんですか?」
とあるビルの一室。このビルはこの部屋だけ、煌々とあかりがついている。サービス開始後のイレギュラーに備え、普段より多くの人が会社に残っている。会社の一大プロジェクトとして多額の開発費をかけたVRMMOのお披露目の日である。
「ああ、開始後の大きな混乱もなし。今のところ順調やな。」
課長と呼ばれた男は、コーヒー片手にプレイヤーの様子を見守る。社長自ら、このタイトルのために腕のいいエンジニアやデバッカーをスカウトしてきただけのことはある。ゲーム全体に影響を及ぼすようなバグの報告は今のところなかった。色々な企業スポンサーも出資してくれており、失敗するわけには行かなかった。第一陣だけでは到底回収できそうもない。この成功を皮切りに第二陣、第三陣と広げていく必要がある。不安な面持ちで確認してきた部下も安堵の表情を浮かべる。
「あー、そろそろですかね。ワールドアナウンス。」
今回、【DW】の世界で偉業を成し遂げたものには、称号という形でプレイヤーを讃えるシステムをとっている。中には個人に対してのみ掲示するものも含まれているが。それを求めて、様々な行動をとってもらう算段だ。そもそも、皆が望んだ世界をテーマに掲げ、事前アンケートでもさまざまな望みが見られた。人の欲望は止まらない。そんな吐口にもなれるよう、年齢制限をかけ、自由度を上げている。こちらが動かなくても好き勝手やってくれるだろうとも思っている。起爆剤になってくれれば、それでいい。
「もう【闘争】は出てるよ。すぐ取れそうなのはあと2つ。」
「本当だ。あ、【欲望】の方は競争になりそうですかね。」
この世界で初めて戦闘に勝利した者に送られる称号はすでにでた。我先にと、初期装備の剣を携えて、フィールドに繰り出した男だった。そのワールドアナウンスを聞いて一歩出遅れたプレイヤーは悔しそうに、次こそはと魔物に向かっていく。次は【欲望】が先か、【血肉】が先か。最初に取得が想定されている称号はこの3種。デメリットを含むが有益なものである。できれば、面白そうなやつにとって欲しいが。
「あれ?こんなとこに店なんてあったか?」
すでに食堂に入って、料理を待つプレイヤーと、どうやらコーヒーを飲みたいらしい、誰がデザインしたかわからない建物に入っていくプレイヤー。
「お!こっちのプレイヤーが捲りましたね。」
「そうだな。名前はGAKU。加護は【豊穣神】か。」
サービス開始から少し時間が経ち、部屋の張り詰めた空気も少し緩んできた。コーヒーを入れ直し。プレイヤーの行く末を見守る。
喫茶店でももしかしたら【欲望の僕】が発動してたかもしれませんね。




