ep.126
セバスからレプルを受け取り、坂道を下っていく。幸い、交換条件はつけられなかった。美味しい紅茶も飲ませてもらったが、アヴィとの特訓のせいで、なんとなく喉が渇いている。当初の予定通りコーヒーでも飲みにいくか。
「あ〜。極楽極楽。」
なぜか今湯船でカポーンと。坂道を下っている時に、突如風呂に入りたい欲望が湧き上がって、いつもの神殿近くの大衆浴場へ。ここにくるのも久しぶりな気がする。ルーを気遣って控えていたんだが、今日はなんと、ルーも浴場まで着いてきて、頭の上に鎮座している。直接入ってはいないが、長いしっぽを湯につけたりして楽しんでいるようだ。ペット禁だったらどうしよう。透明だからいいか。気抜いて透明化解くんじゃないぞ。
風呂上がり、後ろ髪引かれながらもコーヒー牛乳の誘惑に耐え、早足で喫茶店へ向かう。こういうところまで再現せんでもいいのに。風呂上がりの嗜好品を課金制にしたって買うやついるだろ。あの番台の婆、俺と一緒に一旗あげないかな?引退する時は、一報待ってます。今巷では、サウナが流行っているようですよ。木工の技術が上がれば、川沿いでバレルサウナでも作って金取ってやろうかな。水風呂は作らんでいいし、熱源も魔法でどうにかなるだろ。掃除も魔法がある。
「開いて、無い、だと?」
ジョンの喫茶店に到着する。しかし、喫茶店は閉店している。確かに、日は陰っており、この時間に訪ねるのは初めてかもしれないが、あまりにも殺生な。ここでアイスコーヒーを飲むために、風呂上がりのコーヒー牛乳我慢したんだぞ。嫌な予感はしていたんだよな。街灯には灯りがつき始めて、家屋の窓からも暖かい光が灯っていたのに、喫茶店は暗かった。なんで灯りもつけずに、と思っていたら、まさか、営業終了していたとは。夜営業は採算取れないから、していないのか?俺がもっと、飲みにこなければならなかったのか。
「聖域、いくか。」
諦めて聖域に向かう。コーヒーは明日にしよう。聖域でもやらなければいけないことは多い。リスポーン地点として設定できるのか確認すること。祠の設置と作物の植え替えも今日中にしたい。もらったレプルもだな。
西門付近の噴水広場につき、転移先を選択する。現状、聖域しかないんだが。
「まだ、慣れないな。」
視界がホワイトアウトし、気づいたら小屋の中。モノリスの文字が怪しく光っている。転移の時間経過はどうなっているんだろう。時間が進むならまだしも、逆行するとかあり得んよな。街灯もないのに、荒屋のような小屋の隙間から漏れ出る光が。月明かりにしても明るすぎるような。
「ほう。こりゃあまた、すごいな。」
外に出ると、泉の周りに咲いていた花が薄光している。一つ一つは大した光量ではないが、これだけ集まると、なかなかの光源だ。この光が小屋の中に届いていたんだな。穏やかな風に揺らされ、水面に映った花も一緒に揺れる。喧騒もなし、生物の気配もなし。贅沢にもこの光景を独り占めしている。
辺り一体を掘り起こして、一大農業試験場として運用を考えていたんだが、これを見たら、流石にできないな。聖域がどこまでの範囲かもわからない。取り囲む木々を伐採して開墾できたりするのかな。今は花の咲いていない、端っこで細々と畑をやるしかないか。灌漑なんかも考えていたんだけどな。
「まあ、やりようはいくらでもあるか。」
場所が足りなくなれば、北の畑に戻ったっていいんだ。やりたいことも色々残っているし、そのうち畑につきっきりというわけにもいかなくなるだろうしな。まあ、近いうちにNPC雇えるようになって、収穫なんかは自動化できるだろうさ。
「場所は、ここでいいかな。」
小屋を挟んで泉の反対側、細流の隣の土を耕す。光る花とは離れていて、この辺りは薄暗いが、【夜目】を使うほどではない。土を掘り起こし、草木灰を混ぜ平す。鍬でもあれば楽なんだが、スコップで。畝を3列ほど上げ、ローハ、ローナ、果実をそれぞれ植え直していく。果樹の方はどうしようか。景観的にもここに植えるのは気が引けるが、祠も小屋の近くに置く予定だし、神像の力が、どこまで及ぶかが問題だ。とりあえず、掘り起こした端の方に植えておく。レプルの種も取り出して、植える。
水は、とりあえず、水袋に入っているのを使い切ってしまおう。ミアのところの噴水に精霊だか、妖精だかがいるのは聞いている。ここの泉にもそれがいるんだろうか。いないならば、ミアの家の噴水の水を使うことで、ここにも妖精が住んでくれることを期待しよう。
「最後に、神像は。小屋の隣か、小屋の中か。豊穣神なら、作物見たいよな。」
[聖域:泉の守護神が設定されました。聖域全体に守護神の権能が効力を及ぼします。]
[現在の守護神:豊穣神]
小屋の隣に祠を置くと、アナウンスが。こうなるのか。聖域すげー。これで、果樹をどこにおいても豊穣神が見てくれている状態になったんだな。すでに植えてしまったが、都合のいい場所に植え替えよう。雑草まで成長速度が早まってしまうのかな?その時はその時だ。
そして、何より喜ばしいのが、システムが、この神像を豊穣神と認定してくらたこと。会ったことないが、神殿の女神像はプレイヤーごとに加護を与えている神に姿を変えて見せている可能性があるな。ゲームなら十分あり得そうだ。それか、全て同じ見た目をしているか。俺が育てた木が太ったら、その木材を使って神像を彫り直してやるからな。木刀の枇杷か黒檀、バットのメイプルかトネリコ。実利をとるなら、枇杷、かな。
「祝詞あげてもらってなかった。」




