↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
趣味人のVRMMO  作者: et al.
PR
115/126

ep.113

 

「どうなった?ルーは?」


 守護者の首根っこを掴んで水中にぶち込んだ。必死だったので、水中の出来事も景色も覚えてはいない。おそらく、成功したはずだが、気がついたら泉の横に打ち上げられていた。状況が掴めない。ルーは?俺はどうなったんだ?守護者は?あれから、どれくらい経った?


「ここは?」


 ルーは傍にいたのか、立ち上がった俺の背中に登ってくる。急に泉に飛び込んで悪かったな。現場判断は難しかったろう。無事で何よりだ。とりあえず、一安心。余裕が生まれ、周りに目をやると、目に見える景色が変わっている。泉の色は妖しく濁っており、沼のよう。先ほどまでいたフィールドは空は暗く重かったが、朗らかな、すごく牧歌的な草花が見られた。対して、今いる場所は生命力を感じさせない殺伐とした大地に、夏の日を思わせる青空。元いた場所と全てが反対になっている。泉の中?裏?のチャンネルということか?


 周りの景色が変わっていることに気を取られていると、濁った泉から急に気泡がゴボゴボと。水質も粘度が高そうだな。気泡が止むと、水面が盛り上がってくる。出てきたのは、色白で痩身、ブロンド長髪のイケメン。上裸、白い装飾のついたズボンに、金属製の脛当てのようなもをつけてる。筋肉がついてないわけではないが、肋も浮き出ており、不健康そうな見た目。そんな体にはそぐわない、黒い靄でできた大斧を両手に持っている。


「あ、それ、落としてないです。」


 しまった。目の前のアレな光景に、思考停止して思わず本当のことを言ってしまった。俺が本当のことを言ったからか、そのままそいつは泉の前に降り立つ。これがこの世界での守護者ということなのだろう。というか、元の姿があれなのかもしれない。下半身だけ見ると、確実に聖騎士然とした見た目だし、聖域の守護者にピッタリだ。守護者が地に降り立つと同時に、楕円状っぽいフィールドの周りに4本の、これまた黒い靄でできたタコの足のような触手が。何をしてくるかわからないが、どうせ碌なことじゃないだろう。


「ここからが、本番ってことかよ。」


 これ以上があるとは思えないが、もしこれ以上が用意されているなら、そんときゃお手上げだ。最初から全力で行きたいが、どんな攻撃が来るのか。基本の攻撃モーションに追撃がつくのは常套だし、新たなモーションも追加されていることだろう。今までのように、避けられるかもわからん。ラッキーで一回避けるしかないか。


「何してるんだ、っサンドウォール!」


 目の前で守護者が斧を頭上まで振り上げる。少し溜めて、振り下ろし、そのまま地面に突き刺した。まずい予感がして、咄嗟に砂の壁を目の前に張る。その直後、砂の壁が崩され、そのまま衝撃が貫通してくる。死んではないが、HPは残り3割。さきほど生えてきた触手の下へ吹き飛ばされた。足元には触手の形をした赤い線が。横のまま転がると直後、赤い線の範囲に触手が振り下ろされる。


「全方位か。死ななかったってことは割合かな。」


 起き上がり、HP回復薬を飲む。守護者を中心とした、おそらく防御不可の全方位割合攻撃だったんだろう。普通の攻撃だと死んでいた。サンドウォールで威力が削がれた可能性もある。これもラッキーだと捉える。その後だが、触手も攻撃してきた。触手の下に入ると、自動迎撃といったところか。随分余裕がなさそうじゃないか、なりふり構ってられないのか?痩身なのは、命を削ってるんじゃない?息、上がってるぞ?


 守護者が少し屈んだと思うと、こちらに向かって直線に跳躍してきた。体が実体になったからか、瞬間移動は使えなくなったのか?それでも十分に速い。目の前にきて、出してきたのは、振り下ろし。追加モーションを恐れ、余裕を持って大きく避ける。短期決戦だ。やるなら、今しかない。


「ウォーターボール。【破壊】」


 HPもMPも全て投げ打ち、通常よりも大きい、【破壊】の力で赤黒い水の玉が出来上がる。いいぞ。あの沼のような泉にも負けていない凶悪さだ。そのまま守護者の方に放つ。頼むから、クリティカルにダメージを与えてくれ。


 守護者は咄嗟に左腕を構え、ウォーターボールを防御する。左腕に当たった直後、ウォーターボールは霧散、しかし、相手の左腕も吹き飛ばしている。俺が全てを使っても、腕一本持っていくのがやっとか。全く、やってられないな。しかし、肩口が黒く侵食されていく。蜘蛛と戦った時にも見たな。極悪な能力。あとは、あの侵食が進行するのを耐えるゲームか?どうせ存在するタイムリミットと、どちらが速いかな?攻撃を全て避ける前提、だが。


 守護者は片腕を失ったことがわかっているのか、左腕の方を見つめる。理性というか、そういうのはわかるんだな。未だ物言わぬ守護者の咎とは、一体なんだったのか。これが初めて見せた、プログラムされていない、人間っぽい反応だ。


 左手に持っていた、実態のない黒い靄の斧を拾い、右手には2本の斧。守護者は攻撃してきた俺の方を睨み、吼える。すると、拾い上げた斧が両刃斧に変形し、黒い靄が晴れ、実体を持つ。


「それがお前のプライドか。」


 腕がなくなった状態での戦闘も視野に入れて作られているのか?肩口からの侵食も厭わず、両刃斧を力任せに叩きつけてくる。威力が上がったのか、それとも捨て身の力か、叩きつけた後には衝撃波が乗り、軽く避けた程度じゃ当たってしまう。


「正直、手詰まりだな。」


 周りに生えてきた触手も気にする必要がある。ボスだからか、【破壊】の力の侵食も遅い。もう少しで最後の回復薬のクールが上がるものの、それを使ったとて、という気もしないでもない。やれることは十分やったかな?


「   」


「ルー?」


「   」


「ああ、そうだよな。ただで負けてやるわけにはいかない。」


 今、明確にルーとコミュニケーションをとれた気がする。折れかけていた気持ちを、再度奮い立たせ、守護者に立ち向かう。だが、MPはもうない。杖をナイフに持ち替えて、刺し違える覚悟で特攻するしかないか。それでも、ただ負けるよりはずっといい。


「   」


 背中にいたルーが頭に上がってくる。これは、魔法を使う、合図だろうか。でも、お前、これまででも結構MP使ってるだろ?ルーセントフルシファーのMPがどんなもんかわからんけど、いつものような魔法使えるのか?


「   」


「そうか、じゃあ信じるしかないな。少し待ってくれたら、HPが回復できる。」


 守護者の攻撃を避けつつ、回復薬を使える時を待つ。斧が1本になってからは、力任せの攻撃になっている。威力、範囲ともに上がっている気配ではあるが、2本の時よりも単調だと言わざるを得ない。【破壊】の力のせいか、元々の生命力の限界か、動きのキレも落ちてきている。


「上がった。」


 ルーが魔法を準備しているのがわかる。いつもの大規模爆発とは何か雰囲気が違い、矢や槍のような細長い形状のものが浮かぶ。だが、今は、ルーを信じるほかない。回復薬のクールが上がり、急いで回復薬を飲む。HPは全快とまではいかないが、ないよりマシだ。ルーの魔法に【破壊】の力を乗せる。透明で青空の色を湛えていた魔法を、一気に赤黒く染め上げる。


 守護者も最後を感じたんだろう、力任せに斧を振り回すことをやめ、こちらに正対し、斧を構える。低く屈み、足に力を溜め、一気に開放し今までよりも速く向かってくる。直線的ではあるものの、今、この瞬間は瞬間移動を超え、眩い光に包まれる。


 決戦は奇しくも泉の直上で。ルーの放った魔法と守護者の光を纏った突進がぶつかり、せめぎ合う。幾許かの後、斧を弾いた勢いそのままに守護者の体を魔法の槍が撃ち抜いた。


 衝突の余波は立っていられないほどの衝撃で、頭にいるルー諸共吹き飛ばされてしまう。一方、守護者は堕ち、その体を濁った泉が飲み込んでいく。残ったのは、静寂。


 [聖域ノ守護者を討伐しました。]

 [プレイヤー:GAKUに称号【聖域ノ管理者】とスキルポイントを付与します。【聖域ノ管理者】に付随して{聖域:泉}を獲得します。]


 視界が晴れると、元にいた場所。満点の星空と、泉のほとりにある小屋が戦いが終わったことを知らせる。


「俺、コーヒー飲みたかっただけなのに。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うおー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。