ep.104
「タコス!美味しいタコスですよー。」
街には難なく入ることができた。そりゃそうか。顔が共有されただけだ。もうワンランク上がると、お尋ね者か?火だるまはやだな。門に立っていたのは、普段から何度も挨拶を交わしたことのある衛兵さんだったが、街に入る目的や滞在予定地など念入りに聞かれた。税関かよ。さいとしーいんぐ。少し関係のある街の出入りでこれか。違う街だとどうなってしまうんだ。
門付近だと人通りが多いので、タコスを売るのにもってこいのロケーションだったんだが、衛兵から睨まれた。昨日城壁で売っていた時は何も言わなかったのにな。これは、街中での販売がダメなのか、俺の危険度が高いのがダメなのか、どっちだ?
そんなこんなで、移動販売という手法を取らざるを得なくなった。人の往来の多い場所から、閑静な住宅街、寂れた路地裏まで移動してきた。街中にいる間は、なぜか衛兵が後ろをつけてきた。暇なのかな。平和で何より。次からはせめてタンクを寄越すように。そういうわけで、俺は押し出されたと言っても過言ではない。当然、この辺りでタコスを買う人なぞおらず。そもそも人を見ない。潮時を感じ、せめて最後に一花咲かせてみようと、顔見知りの奴らを頼ってみようと思い立った。
とは言っても、候補は二人。鯛の鯛とn/n。なんとなく似た名前の二人だが、職業的にも通ずるものがある。そろそろナイフを研いでもらおうとも思っていた。いい機会だから、タコスも売りつけてやろう。親分と女将さんがいたはず。それらに異国の食べ物ですよとセールスできれば、鯛の鯛は買わざるを得ないはず。n/nには鍋をもらった恩がある。ワンセットくらいならくれてやってもいいな。
「なんて名前だったかなー。」
現在鯛の鯛の修行している店を捜索中。あの時はほぼ成り行きで店舗を決めたはず。その後不在だった鯛の鯛を尋ねてもう一度伺ったはずだが、イマイチ場所を覚えていない。なんとなく店舗も増えている気がするし。これが噂に聞くアレか?組合のやつか?客入りはぼちぼち。正式な店舗があったとしても、最初から商売が軌道に乗るわけではないんだな。新規参入というものは難しいな。お互い頑張ろうではないか。
「ここか、な?」
外観が少し変わったような気がしないでもないが、ゴードン鍛治店、ここだったような気がする。装備品のランクが少し上がったのかな?プレイヤーに合わせてのことなのか、職人の腕が上がったのか。俺には重くて到底装備できそうにもない代物だが、見る分には目の保養になって良い。現実ではなかなかお目にかかれるものでもない。特にこうやって実践で使えるようなものは。ディスプレイ用で何度か見たことはあるかも。廃城とかあるのかな、彷徨ってくれないかな。ワクワクしてきた。
「失礼する。鯛の鯛はいるだろうか。」
「あら、見た顔だね。鯛の鯛あんたに客だよ。」
俺は店を忘れかけてたというのに、女将さんは俺のことを覚えていたらしい。多くの人を接客しているだろうに。尋ねる前にフレンドコールしておけばよかったと、今になって反省する。あんなに便利なツールなのに、時折すっぽり頭から抜け落ちるんだよな。頻繁に使わないからかもしれない。鯛の鯛を待つ間で、n/nには送っておこう。
「おう、GAKU!久しぶり!どうしたんだ?」
「ああ、久しぶりだ。ナイフを研いでもらいたいのと、腹減ってないかなと思って。」
「腹?まあいい。どれ、ナイフを出してみろ。」
インベントリからナイフを出す。木の加工が主だった用途だが、魔物への攻撃した時にガッツリ耐久値が減ってしまった。近いうちにと思っていたが、随分時間が経過してしまった。不精も過ぎると毒だな。鯛の鯛はナイフの調整の準備を始めた。その間、話しかけてもいいものか。気が散るとかあるのかな。出来に関わるなら黙っておくが、そうすると暇だ。
「今、話しかけてもいいか?」
「構わん。」
鯛の鯛は手慣れた手つきでナイフを研ぎ始める。工房内で鳴っている槌の音に混ざるように刃物を研ぐリズミカルな音が響く。職人の奏でる音だな。いかんいかん。雰囲気に浸っている場合ではない。少しでも元を取らねば。
「ガチャポイントを稼ぐために、タコス屋をやっているんだ。買わない?女将さんとかの分もまとめて。お安くしとくよ?」
「それで腹がどうとか言ってたのか。別に買うのは構わんが、言ってくれたら買いに行ったのに。」
TeAにした話をする。鯛の鯛も同じような反応を見せた。まあ正常な反応と言えるだろう。だが、お前が組合のことを教えてくれなかったのも一因。だからお前に断る選択肢はない。
一通りの説明をする。昨日の騒動ですっかり忘れていたが、メニューを作っておこうと考えていたんだった。あんなことがあったから城壁にかけるようになったのかな?でもあれで壊れたのは魔物避けだけだし、城壁に関しては素の硬さってことだろ?到底歯が立たない。大人しく木板でも買っておこう。
「じゃあ、俺の分のタコスは研ぎ分と相殺でいい。これ、二人分の金だ。」
そう言ってリルを寄越す鯛の鯛。いいね。職人は金払いが良くなくっちゃ。早く伴侶をとって管理して貰えばいい。ソースは3人とも一緒で良いと。サルサ2にワカモレ1。せっかくだから、作り置きのじゃなくて、出来立てのを。皿は、女将さんに持ってきてもらった。紙皿も揃えておいた方がいいかな?今回限りだし、一旦は石で代用だ。




