ep.102
「失礼する。ウチのフルシファーはこちらに来ているだろうか。」
魔道具屋に到着する。普段入る時は無言、もしくは軽い挨拶程度だが、本日は事情が事情なため、声を張って入店する。マダムは定位置。蛇も定位置だったんだが、林檎の匂いを感じ取ったのか、すぐにこちらに擦り寄ってくる。インベントリから林檎を取り出し蛇のいる方に放る。蛇は林檎に飛びつき丸呑みに。それで満足したのか、自分の定位置に戻っていく。
もはや恒例となったやりとりをしていると、珍しく姿を見せながらよじ登ってくるルーが。
「ルー。無事だったか。」
ルーが無事でよかったが、俺自身が無事でよかったの意味も込められている。背中にあるいつもの存在感に、ようやく一息つけた気持ちだ。なぜいつものように透明になっていないか考えると、昨日最後に魔法を使ったことに思い当たる。確か前回の魔法使用時も明滅していた記憶が。ルーの持っている【透明化】はMP使用しているのかもしれないな。
「悪かったな。」
そう言ってMP回復薬をかけようとするが、ひらりと身を翻し、回復薬は俺の腕にかかる。まあ俺も詰所で寝たんでは回復できていなかったし、MP回復薬が無駄にはならないんだが、どうした?
「すまない。一晩預かってもらって助かった。少し緊急で野暮用があって。」
ルーの事は一旦置いておいて、預かってくれたマダムに礼を。本来なら、最初に礼を言うのが筋だろうが、蛇に林檎をやったんだ。許してくれ。預けた言い訳を伝えるが、マダムの事だ。すでに把握していたとしてもなんら不思議でない。
「これきりだよ。」
あれ以降毎回と言ってもいいくらい林檎をくれてやってるのに。度量の狭いやつめ。では、次はミアに頼むしかないな。一度どこかのタイミングで打診しておこう。次がないのが一番良いんだが、俺の意向でどうにかなるもんでもない。下手したら神に裁かれていたところだ。今回の事に関しては、完全に俺に非があるので強くでれないのもある。小火に関しては、未だに俺が犯人かも怪しいところ。称号をもらった?そんなん知らん。
とりあえず、いつもの量の薬草をカウンターに乗せ、回復薬とリルを貰う。回復薬を受け取ったところでルーは、再度掌に乗ってくる。
「何、お前?好き嫌いすんの?」
ルーはそんなのいいから。早くかけろと言わんばかりに、回復薬を要求してくる。コイツ。ギルド産の回復薬には目もくれなかったじゃないか。魔道具屋の回復薬は素直に受け入れるんだな。最近ローナを食っている様子もない。舌が肥えてしまったか?教育を間違えたな。
マダムには俺の力もバレているので、この場で回復薬をかけてやる。とりあえず、昨日使った【破壊】の分のHPをギルド産の回復薬で回復する。効果の弱いものなのでクールもそれほど重くない。寝ても回復しないのは不経済だな。無料で宿泊できるのは素晴らしいが。少しの寄進で泊めてくれる神殿が、よっぽど素晴らしい施設に思えてくる。
その後魔道具屋の回復薬を掌に乗って待ち構えているルーにかけてやる。いつものように【再生】も使って。回復薬浴びるだけなのに、何か違いでもあるんだろうか?選り好みするってことは、違いが分かるやつには分かるんだろう。元野生育ちのくせに、生意気だ。そんな様子を無言ながらも、何やら意味ありげな表情で観察するマダム。
「進言通り、毎日やっているんだが、よくなってるのか?」
せっかくの機会なので、ルー宛てともマダム宛てともよらず、疑問を投げかけてみる。どうせルーからは帰ってこないから、マダムが返してくれることを期待しているんだが。
「悪くはなっていないんだろ?」
「いや、まあ。悪くはなっていないんだが。」
「じゃあ良いじゃないか。」
実際悪くはなっていない。足の付け根の脱皮不良のような箇所は広がりもせず、治りもせず。見た目は完全に現状維持といったところ。ただ、目に見えない内側にダメージがいってないかは、見た目ではわからない。鑑定で出た【呪い*】も合わせて目下心配の種である。前線組の活躍により、第3エリアまで開放されたわけだが、王都という言葉は聞かれなかった。少なくとも昨日クエストに参加していたプレイヤーに聞く限りでは、だが。
再度礼を言って店を出る。俺がいない間、ルーは何して過ごしていたんだろう。マダムが生物に甘いことは知っているから、ルーに何かしらの知恵でも授けてくれていたら戦力増強になって良いんだが。燃費のいいスマートな魔法とか。
「なあ、ルー。何してたんだ?」
「 」
回復薬浴びてご機嫌のようだ。さあ、本日はどうしようか。とりあえず、タコスの食材を買って、仕込みの続きからかな。その前に、畑に薬草を戻しに行かねばならんか。結局最後の方は見れなかったが、無事を祈るのみ。イベントも後半戦に差し掛かったところ。昨日の緊急クエストでの臨時収入はありがたかった。屋台の場所も畑の場所もバレてしまっているから、大人しくしておかなければ。




