第93話 制度は国家の背骨
会議室の空気は、
先ほどよりも静かだった。
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議論の段階は
変わった。
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思想ではなく。
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設計の段階に
入ったのだ。
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戦略補正局長が
口を開く。
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「では」
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「具体的に
検討しましょう」
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スクリーンに
新しい図が映る。
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現在のNCI構造。
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成果指数。
信頼補正。
加重係数。
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「議会案では」
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「余白係数を
削減する」
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レオンが
うなずく。
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「非効率を
減らすためです」
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局長は
視線を
リーネに向ける。
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「あなたの提案は」
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「余白を
制度に組み込む」
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「どう設計しますか」
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リーネは
資料を開いた。
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「三層構造にします」
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スクリーンに
新しい図。
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評価層。
安定層。
挑戦層。
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「現在の制度は」
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「評価層しかありません」
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グラフが動く。
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「成果を出せば
上がる」
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「失敗すれば
下がる」
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単純な構造。
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「ですが」
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リーネは
次の層を指す。
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「安定層」
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「これは
長期貢献の評価です」
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教育。
基礎研究。
インフラ整備。
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「成果が
すぐには出ない分野」
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「ここを
短期評価から
切り離します」
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NEAの官僚が
小さく頷く。
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「合理的です」
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だが。
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レオンは
まだ黙っている。
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リーネは
三つ目の層を指す。
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「挑戦層」
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画面に
新しい枠。
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「国家が
一定の失敗を
許容する領域」
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会議室が
再びざわつく。
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「失敗を
許容?」
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議会補佐官が言う。
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「はい」
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「ただし」
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「完全自由ではありません」
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新しい条件が
表示される。
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予算上限。
期間制限。
再評価。
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「挑戦は
管理します」
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「成功すれば
評価層へ」
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「失敗すれば
終了」
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レオンが
初めて口を開く。
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「つまり」
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「国家が
研究開発の
ベンチャーを
作るわけだ」
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「近いです」
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リーネは
静かに言う。
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「ただし」
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「制度として」
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沈黙。
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レオンは
しばらく
スクリーンを見ていた。
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そして。
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「……面白い」
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小さく言う。
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「効率を壊さない」
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「だが」
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「余白を残す」
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彼は
リーネを見る。
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「ですが」
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「問題があります」
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「何でしょう」
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「政治です」
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会議室の空気が
少しだけ
冷える。
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「議会は」
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「成果を求める」
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「挑戦層は」
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「失敗も出る」
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「その責任は
誰が取る?」
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鋭い問いだった。
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制度が
動くとき。
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必ず
誰かが
責任を問われる。
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リーネは
少しだけ
考えた。
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そして。
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「制度です」
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静かに答える。
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レオンが
眉を上げる。
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「制度?」
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「個人ではなく」
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「制度が責任を持つ」
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リーネは
ゆっくり言う。
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「挑戦枠は」
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「国家政策として
認可する」
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「失敗は」
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「制度の一部」
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会議室の
官僚たちが
互いに顔を見合わせる。
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それは。
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これまでにない
発想だった。
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レオンは
しばらく黙っていた。
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そして。
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小さく笑う。
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「なるほど」
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「制度が
責任を持つ」
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「それなら」
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「政治は
攻撃しにくい」
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彼は
机に指を置く。
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「よく考えています」
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「ですが」
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視線が
鋭くなる。
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「制度は」
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「国家の背骨です」
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「一度入れれば」
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「簡単には
抜けない」
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静かな言葉。
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「あなたは」
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「国家の背骨を
変えようとしている」
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リーネは
うなずいた。
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「はい」
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短い返事。
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会議室の空気が
張り詰める。
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そして。
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レオンは
静かに言った。
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「なら」
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「証明してください」
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「それが」
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「国家を
強くする設計だと」
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制度改定会議は。
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まだ
始まったばかりだった。
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