第92話 余白という非効率
会議室は静まり返っていた。
---
効率か。
余白か。
---
レオンとリーネの言葉は、
どちらも理屈として成立している。
---
だからこそ、
誰もすぐには口を挟まない。
---
沈黙を破ったのは、
戦略補正局長だった。
---
「議会案を採用すれば」
---
資料をめくる。
---
「短期成果は
確実に上がります」
---
スクリーンに
予測グラフが表示される。
---
国家生産指数。
---
大きく上昇。
---
議会側の
補佐官たちが
小さくうなずく。
---
「しかし」
---
局長は
次のグラフを出す。
---
十年後予測。
---
成長率。
---
下降。
---
レオンは
それを見ても
表情を変えない。
---
「未来予測は
常に曖昧です」
---
「国家は
確実な成果を
優先すべきだ」
---
リーネは
静かに言う。
---
「確実な成果は
過去の延長です」
---
「未来は
そこからは
生まれません」
---
レオンが
机に指を置く。
---
「では」
---
「余白とは
何ですか」
---
再び
その問い。
---
今度は
会議室全体に向けられていた。
---
「資源です」
---
リーネは
迷わず答える。
---
「国家の資源?」
---
「未来の資源です」
---
スクリーンを
操作する。
---
新しいグラフ。
---
研究失敗率。
---
七割。
---
議会側の
補佐官が
眉をひそめる。
---
「失敗ばかりですね」
---
「ええ」
---
リーネは
うなずく。
---
「ですが」
---
次のグラフ。
---
新産業誕生率。
---
上昇。
---
「この成功は」
---
「すべて」
---
「失敗の中から
生まれています」
---
レオンは
腕を組む。
---
「国家は
賭博場ではない」
---
「その通りです」
---
リーネは
静かに言う。
---
「だから」
---
「賭けない」
---
レオンが
眉を上げる。
---
「賭けない?」
---
「余白を
制度に組み込む」
---
スクリーンに
新しい図。
---
評価構造。
---
通常評価。
長期評価。
余白枠。
---
「挑戦は」
---
「通常評価とは
別にする」
---
会議室が
ざわつく。
---
「つまり」
---
「失敗しても
指数を下げない?」
---
NEAの官僚が言う。
---
「一定範囲では」
---
「そうです」
---
レオンは
少し笑った。
---
「国家が
失敗を許す?」
---
「いいえ」
---
リーネは
首を振る。
---
「国家が」
---
「挑戦を管理する」
---
沈黙。
---
会議室の空気が
変わる。
---
それは。
---
単なる余白ではない。
---
**制度化された余白。**
---
レオンは
しばらく黙っていた。
---
そして。
---
「なるほど」
---
ゆっくり言う。
---
「非効率を」
---
「制度化する」
---
彼の目が
鋭くなる。
---
「だが」
---
「それは
政治的に
危険だ」
---
議会側の
補佐官たちが
うなずく。
---
「失敗は
批判される」
---
「支持率が
下がる」
---
リーネは
静かに答える。
---
「だから」
---
「制度にする」
---
「個人の判断ではなく」
---
「国家の設計にする」
---
レオンは
椅子に
深く座り直した。
---
そして。
---
小さく
笑う。
---
「面白い」
---
「ですが」
---
「それを
議会が通すと
思いますか?」
---
その問いは
挑発ではない。
---
現実だった。
---
国家制度は
理屈だけでは
動かない。
---
政治。
支持。
世論。
---
リーネは
ゆっくり言う。
---
「通します」
---
会議室が
静まり返る。
---
「どうやって?」
---
レオンが問う。
---
リーネは
答えた。
---
「効率を」
---
「壊さずに」
---
「余白を入れる」
---
レオンの目が
細くなる。
---
「それができるなら」
---
「国家制度は
一段上がる」
---
静かな声。
---
「ですが」
---
「それができなければ」
---
「余白は
消えます」
---
思想戦争は
まだ終わらない。
---
むしろ。
---
今。
---
本当の交渉が
始まったところだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




