第89話 戦略補正局
会議室の扉が閉まる。
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外のフロアとは違い、
ここは完全な静寂だった。
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円形の机。
その周囲に座るのは、
NEAの幹部たち。
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そして。
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議会代表として
レオン・ヴァルディア。
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リーネは、
席に座りながら
静かに周囲を見渡した。
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ここが。
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**加重係数を決める場所。**
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国家貢献指数――NCI。
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その計算式は
公開されている。
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成果指数。
信頼補正値。
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だが。
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**加重係数だけは公開されていない。**
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国家が
何を優先するのか。
どこに資源を
集中させるのか。
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それを決める場所が、
この戦略補正局だった。
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「では始めましょう」
局長が
資料を開く。
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「国家貢献指数
第一次改定案」
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壁のスクリーンに
グラフが映る。
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経済効率。
政策成功率。
都市生産性。
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どれも
上昇している。
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「制度導入から五年」
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「国家効率は
平均十八パーセント改善」
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誰も異論はない。
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NCIは
成功している。
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だが。
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局長は
次のグラフを出す。
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新規事業数。
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下降している。
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「挑戦が減っています」
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「リスクを避ける傾向が
明確です」
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会議室が
静まる。
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レオンが
ゆっくりと
口を開く。
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「当然でしょう」
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「失敗すれば
指数は下がる」
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「国家の資源を
浪費する」
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理屈は
通っている。
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「成功するものに
集中すべきです」
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彼は
スクリーンを指す。
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「結果は出ている」
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「効率は
改善している」
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確かに。
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だが。
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「短期的には」
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リーネの声が
静かに入る。
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視線が
一斉に集まる。
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「短期?」
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レオンが
眉を上げる。
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「ええ」
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リーネは
資料をめくる。
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「新規事業が
減っている」
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「これは
五年後の成長率に
影響します」
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スクリーンに
新しいグラフ。
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研究投資。
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下降。
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「挑戦が減れば」
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「未来の成功も
減る」
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レオンは
腕を組む。
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「未来は
不確実です」
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「国家は
確実な成果を
優先すべきだ」
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強い声ではない。
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だが。
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信念がある。
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リーネは
静かに言う。
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「確実な成果は
過去の延長です」
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「未来は
そこからは
生まれません」
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沈黙。
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NEAの官僚たちは
互いに
視線を交わす。
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レオンは
小さく笑う。
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「なるほど」
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「あなたが
余白の設計者ですか」
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「そう呼ばれています」
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「では聞きましょう」
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レオンは
椅子に背を預ける。
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「余白とは
何ですか?」
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短い問い。
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だが。
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国家制度の
核心だった。
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リーネは
一瞬だけ
考える。
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そして。
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静かに答えた。
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「未来のための
余地です」
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レオンの
目が細くなる。
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「国家は
未来に賭けるべきだと?」
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「いいえ」
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リーネは
首を振る。
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「賭ける必要は
ありません」
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「ただ」
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「賭けられる
余地を残す」
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会議室が
静まり返る。
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レオンは
しばらく黙っていた。
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そして。
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「面白い」
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静かに言う。
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「ですが」
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「国家は
実験場ではない」
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その言葉に、
リーネは
わずかに
微笑んだ。
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「ええ」
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「だからこそ」
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「設計が必要です」
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会議室の空気が
変わった。
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これは。
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単なる制度改定ではない。
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思想の衝突だった。
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効率か。
余白か。
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そして。
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国家は
どちらを
選ぶのか。
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