第90話 数値の裏側
会議は、
一度中断された。
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「休憩を挟みましょう」
戦略補正局長が
静かに言う。
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官僚たちは
席を立ち、
資料を持って
会議室を出ていく。
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リーネも
立ち上がろうとした。
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「少し」
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背後から
声がする。
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エレナ・カストール。
戦略補正局次長。
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「こちらへ」
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案内されたのは、
会議室の奥にある
小さな部屋だった。
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窓はない。
壁一面に
画面が並んでいる。
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中央には
一つの端末。
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「ここは?」
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「補正室です」
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エレナは
端末に触れる。
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画面に
計算式が現れる。
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NCI算出式。
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リーネは
それを見て
眉をひそめた。
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「……公開されている式と
違いますね」
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「ええ」
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エレナは
淡々と言う。
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「公開されているのは
骨格だけです」
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画面に
新しい項目が現れる。
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**加重係数**
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その下に
数十の変数。
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政策優先度。
国家安全指数。
外交圧力。
資源備蓄。
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リーネは
ゆっくり息を吐く。
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「国家戦略ですね」
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「そうです」
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「そして」
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エレナは
もう一つの項目を
表示する。
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**緊急補正**
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「これは
公開されていません」
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係数が
大きく変わる。
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都市のNCIが
一瞬で
上下する。
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「災害」
「戦争」
「経済危機」
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「国家は
瞬時に優先順位を
変えます」
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リーネは
画面を見つめる。
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「つまり」
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「NCIは
完全な数値ではない」
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「ええ」
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エレナは
静かに言う。
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「数値は
国家の意思です」
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リーネは
小さく笑った。
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「レオン議員は
知っていますか」
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「もちろん」
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「彼は
加重係数の強化を
求めています」
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「政治が
直接数値を動かす」
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「そうです」
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沈黙。
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リーネは
画面を見つめる。
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数値。
グラフ。
補正。
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これが。
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国家の評価。
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「……理解しました」
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エレナは
少しだけ
眉を上げる。
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「何を?」
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「レオン議員が
なぜ余白を
嫌うのか」
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「なぜです?」
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「余白は
計算できない」
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リーネは
端末を閉じる。
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「数値が
国家の意思なら」
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「余白は
国家の不確実性です」
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エレナは
しばらく
黙っていた。
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そして。
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「……だから
あなたを呼んだ」
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静かに言う。
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「NEAは
制度を守りたい」
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「だが」
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「政治は
制度を使いたい」
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リーネは
理解した。
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この場所は
単なる役所ではない。
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国家の
設計室だ。
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そして。
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そこに
政治が入ってきている。
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エレナは
端末を再起動する。
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画面に
新しい文書。
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タイトル。
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**NCI改定案 議会提出版**
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リーネは
目を細めた。
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そこに書かれていたのは。
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**余白係数の削減。**
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そして。
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**短期成果補正の強化。**
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レオンの
提案だった。
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エレナは
ゆっくり言う。
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「これが通れば」
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「国家は
さらに効率的になります」
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一拍。
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「そして」
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「余白は
制度から消える」
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リーネは
資料を閉じる。
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静かに言った。
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「なら」
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「設計し直しましょう」
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「余白が
消えない制度を」
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会議再開の
ベルが鳴る。
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リーネは
席へ戻る。
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政治。
数値。
制度。
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すべてが
絡み合っている。
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そして。
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その中心に
自分がいる。
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レオンが
こちらを見る。
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微笑んでいる。
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まるで
次の一手を
楽しんでいるように。
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国家制度改定。
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それは。
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ただの会議では
なかった。
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