第76話 速さの理由
止められた。
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カイルは、
資料を閉じたあとも、
その言葉を
反芻していた。
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――再検討。
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間違っていたとは、
言われていない。
否定も、
されていない。
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ただ。
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止められた。
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「……安全域が薄い」
リーネの言葉を
思い出す。
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数字は
正しかった。
計算も
余裕を持たせていた。
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それでも。
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“薄い”と
言われた。
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夜。
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カイルは
机に向かい、
改めて
資料を開く。
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想定。
予測。
リスク計算。
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どこに
問題があったのか。
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「……ない」
少なくとも、
理論上は。
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速さは、
武器だ。
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判断を
早く下せば、
機会は逃さない。
主導権も
握れる。
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迷う時間は、
損失だ。
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そう
教えられてきた。
そう
結果を出してきた。
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「……でも」
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今日。
止められた。
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あの時の
リーネの声は、
強くはなかった。
怒りもなかった。
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ただ。
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“決めていた”。
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「……戻れる幅」
その言葉が、
引っかかる。
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戻る?
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最適解を
出せば、
戻る必要はない。
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はずだ。
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だが。
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最適解が
崩れた時は?
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カイルは、
その問いに
明確な答えを
持っていなかった。
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翌朝。
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「昨日の件、
どう思う?」
同僚が
軽く聞く。
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「……正しかったと
思います」
即答する。
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「でも、
止められた」
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「うん」
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カイルは、
一瞬だけ
黙る。
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「……リーネさんは、
どうして
ああ言えたんでしょう」
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「経験じゃないか?」
簡単な答え。
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だが。
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カイルは、
それだけでは
ないと感じていた。
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経験だけでは、
あの静かな強さは
出ない。
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迷いが
あったはずだ。
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それでも、
決めた。
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「……速いだけじゃ、
足りない?」
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初めて、
疑問が
生まれる。
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速さは、
自分の誇りだ。
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でも。
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余白を
持てる人の方が、
強いのかもしれない。
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カイルは、
初めて
考え始めた。
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**強さとは、
何なのか。**
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