第75話 止める、という決断
追加条件は、
想定より
広がっていた。
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「影響範囲、
想定の三倍です」
報告は、
冷静だった。
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「問題ありません」
カイルは
即答する。
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「修正で
吸収できます」
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速い。
迷いがない。
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会議は、
そのまま
進みかける。
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リーネは、
資料を
見つめる。
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数字は
正しい。
計算も
整っている。
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だが。
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負荷は、
人に
乗る。
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「……待って」
気づけば、
声が出ていた。
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空気が、
止まる。
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「一度、
止めよう」
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カイルが
こちらを見る。
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「止める?」
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「今の修正、
可能かもしれない」
「でも」
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一呼吸。
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「全体を
見直したい」
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「時間が
かかります」
カイルは
即座に言う。
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「期限には
間に合います」
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正しい。
論理も
正しい。
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だが。
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「間に合うかどうかじゃない」
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自分の声が、
思ったより
はっきりしている。
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「余裕が
なくなる」
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「余裕は
必要ですか?」
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まっすぐな問い。
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「……必要」
迷わず、
言えた。
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「何かあった時に、
戻れる幅が欲しい」
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沈黙。
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上司は、
何も言わない。
ただ、
見ている。
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カイルは、
少しだけ
考える。
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「……最適解は
今です」
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「かもしれない」
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「でも、
最適解を
守れなかった時の
準備も
必要」
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リーネは、
深く息を吸う。
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「今回は、
再検討を
提案します」
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会議室が、
静まり返る。
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これは、
補助の言葉ではない。
判断だ。
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上司が
ゆっくりと
口を開く。
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「……理由は、
明確か?」
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「はい」
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自分でも、
驚くほど
はっきりと
答えられた。
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「安全域が
薄いからです」
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短い沈黙のあと。
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「……分かった」
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上司は、
うなずいた。
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「再検討に入ろう」
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空気が
動き直す。
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カイルは、
資料を閉じる。
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「……分かりました」
声は、
平坦だ。
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責めてはいない。
だが、
納得も
していない。
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会議後。
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「どうして、
止めたんですか」
カイルが
尋ねる。
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「……怖かった?」
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リーネは、
少しだけ
考える。
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「違う」
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「守りたかった」
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「何を?」
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「戻れる幅を」
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カイルは、
答えを
持たない顔をする。
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夜。
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「……止めた」
独り言。
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逃げではない。
保身でもない。
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決めた。
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速さではなく、
余白を選んだ。
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リーネ・アルヴェインは、
静かに
理解した。
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**止めることも、
決断だ。**
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そして。
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決断は、
任されるものではない。
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**自分で
引き取るものだった。**
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