第63話 才能があると言われた日
その日、
リーネ・アルヴェインは
自分が
少しだけ
浮いていることに
気づいた。
---
「……あれ?」
視線が、
集まる。
悪い意味では
ない。
むしろ――
柔らかい。
---
「リーネ」
名前を呼ばれる。
上司の声。
---
「少し、
こちらへ」
「はい」
理由は
告げられない。
だが、
断る空気でも
なかった。
---
小さな会議室。
席は、
三つ。
---
「座って」
「はい」
リーネは、
背筋を伸ばす。
---
「……緊張しなくて
いい」
そう言われると、
逆に
緊張する。
---
「君の最近の
成果だが」
資料が
机に置かれる。
---
「安定している」
「正確だ」
「判断も
丁寧だ」
褒め言葉。
だが、
どれも
突出ではない。
---
「……ありがとうございます」
それしか
言えない。
---
「そこでだ」
上司は、
一拍
置いてから
続けた。
---
「君には、
将来性がある」
その言葉は、
軽かった。
だが――
重かった。
---
「……期待している」
リーネは、
一瞬
返事を
忘れた。
---
「はい……?」
間抜けな
声。
---
「失敗しても
いい」
「多少、
無理を
してもいい」
「君なら
伸びる」
---
否定の
余地が
ない。
---
「……ありがとうございます」
また、
同じ言葉。
---
「詳しい話は、
追って」
「今日は、
それだけだ」
---
会議室を
出る。
---
「……期待?」
廊下で、
小さく
呟く。
---
席に戻ると、
同僚が
声をかけてくる。
---
「……呼ばれてたな」
「何か
あった?」
「……いえ」
正確には、
分からない。
---
「でも、
いい話でしょ」
笑顔。
---
「期待されるのは
悪いことじゃ
ない」
その言葉に、
うなずく。
---
「……はい」
疑う理由が、
ない。
---
午後。
仕事は、
いつも通り。
だが。
---
「この件、
リーネに
任せよう」
名前が、
呼ばれる。
---
「……私ですか」
「ああ」
「君なら
できる」
---
理由は、
それだけ。
---
「……分かりました」
断る理由も、
ない。
---
机に戻り、
資料を
開く。
---
「……頑張らないと」
自然に
出た言葉。
---
胸の奥が、
少しだけ
温かい。
---
認められた。
そう
思った。
---
だが。
---
その日の
帰り道。
---
「……期待、か」
足を
止める。
---
期待されるのは、
嬉しい。
悪いことじゃ
ない。
---
でも。
---
「……いつから?」
自分は、
何を
選んだのだろう。
---
答えは、
出ない。
---
遠くで、
人の流れが
続いている。
---
誰かが
決め、
誰かが
期待し、
誰かが
進んでいく。
---
リーネ・アルヴェインは、
その流れの中で、
まだ
何も
選んでいなかった。
---
ただ。
---
**選ばれてしまった
だけだった。**
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




