第64話 期待は、断れない
断った覚えは、
なかった。
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だが。
気づけば、
決まっていた。
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「この件、
リーネ中心で
進める」
朝の打ち合わせ。
その言葉は、
確認の形を
取っていない。
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「……はい」
反射的に
返事をする。
異論は、
浮かばない。
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「サポートは
つける」
「でも、
判断は
任せる」
周囲は、
当然のように
うなずく。
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理由は、
言われない。
だが、
分かる。
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――期待されている。
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席に戻る。
机の上に、
新しい資料が
積まれている。
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「……増えてる」
量が、
昨日より
明らかに
多い。
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「でも、
できるよね」
同僚が
軽く
言う。
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「……はい」
笑顔を
作る。
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昼。
食事を
取りながら
資料を読む。
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「……細かい」
想像より、
ずっと。
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確認事項。
調整。
判断。
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「……でも」
不思議と、
嫌ではない。
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頼られている。
期待されている。
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それは、
誇らしい。
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午後。
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「この部分、
どうしますか」
質問が、
集中する。
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「……こちらで」
答える。
正解だと
思う。
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「了解です」
皆、
すぐに
動く。
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胸の奥が、
少し
高鳴る。
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「……役に
立ってる」
そう
感じる。
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だが。
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夕方。
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「……今日中に
まとめたい」
自然に
出た言葉。
誰も、
止めない。
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「手伝います」
「ありがとうございます」
ありがたい。
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だが、
断るという
選択肢は
もう
消えていた。
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夜。
帰宅。
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「……疲れた」
小さく
呟く。
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だが。
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「……でも、
期待されてる」
それが、
自分を
立たせる。
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椅子に
座り、
息を整える。
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「……断って
ない」
確かに。
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「……でも、
選んで
ない」
それも、
確かだ。
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期待は、
強制では
ない。
命令でも
ない。
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だからこそ。
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断れない。
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リーネ・アルヴェインは、
その夜、
初めて
思った。
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**選ばされることは、
選ぶことより
ずっと
静かだ。**
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音もなく、
抵抗もなく。
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ただ、
気づいた時には
前に
立たされている。
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その場所が、
自分の
望んだ場所か
どうかも
分からないまま。
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