第60話 降りないという選択
降りない。
その結論は、
突然
浮かんだものでは
なかった。
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朝。
ユリウスは、
机に向かい
書類を
一枚ずつ
確認していた。
急がない。
即答もしない。
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「……この件は、
午後に
回します」
部下が
一瞬
驚いた顔をする。
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「……今すぐ
決めなくて
いいんですか」
「いい」
短く、
はっきり
言った。
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会議。
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「責任者は?」
いつもなら
即座に
手を挙げる。
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「……共同で」
その言葉に、
場が
静まる。
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「判断は
分けます」
「最終確認は
私がしますが」
「全ては
持ちません」
誰も、
反論しなかった。
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上官が、
少しだけ
考え――
うなずく。
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「……それで
進めよう」
評価は、
下がらない。
だが、
上がりもしない。
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昼。
部下が
声をかける。
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「……無理、
しないんですね」
「している」
ユリウスは、
正直に答えた。
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「ただ、
全部は
やらない」
それだけ。
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午後。
判断が
遅れる。
だが、
間違えない。
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効率は、
少し落ちる。
事故は、
減る。
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評価表は、
変わらない。
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「……降りないんですね」
同僚が
言う。
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「降りない」
ユリウスは、
即答した。
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「評価も、
役職も」
「全部、
持ったまま?」
「はい」
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「……怖くないのか」
「怖い」
それも、
即答だった。
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「でも」
ユリウスは、
言葉を
選ぶ。
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「壊れる方が、
もっと
怖い」
同僚は、
何も
言わなかった。
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夜。
自室。
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「……降りない」
もう一度、
確認する。
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それは、
逃げではない。
意地でもない。
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今の自分に
できる、
唯一の
現実的な選択だ。
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評価の中で
生きる。
だが、
評価に
命を
預けない。
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全部は
背負わない。
即答しない。
完璧を
目指さない。
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小さな
選択の
積み重ね。
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ユリウス・フェルナーは、
その日、
初めて
思った。
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**降りないという
選択もまた、
一つの
降り方なのかもしれない。**
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答えは、
まだ
途中だ。
だが――
少なくとも、
今日、
壊れなかった。
それで、
十分だった。
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