第6話 戦闘
先生を呼びに行こう、そう思ったけど今はそれよりもここに留まって飛鳥を援護する方がいい気がする。
湊はぎゅっと唇を噛む。
ここから先生たちのいる宿舎まで走っても数分。
足場も悪いし、出来る事少ないかもしれないけどそれでも、出来ることをしよう。
「飛鳥くん、後ろは任せて!」
後ろを任せてってこんなに頼りなければ任せたくないだろうが。
「……っ、危険だよ」
「それは同じでしょ。危険を一緒になくそう!」
湊は全力で言う。
その気合いが伝わったのかもしれない。
飛鳥が苦笑を浮かべて頷いた。
「朝になれば、俺らがいないことに誰か気づくはず。そこまで耐えれば大丈夫だ」
そんなことないかもしれない。
命を賭けた大きな賭けだ。
賭けた後の保険はこれっぽっちもない。
「飛鳥くん、頑張ろ!」
「うん」
2人は背を向け合い、お互い出来る魔術を放つ。
夜でも昼間の魔術が全く無意味になるわけではない。
速度、威力が落ちるだけだ。
それをカバーする!
「燃えろ!」
手のひらから炎が走る。
「湊!炎が気に燃え移ったらこっちにも被害が来る。気をつけて使うか使わない方がいい!」
いつの間にか呼び捨てとはなかなか嬉しい。
くん付けの余裕もないのはこちらも同じだ。
「分かった!」
ならば…
「水ならいいだろ!」
水圧で潰す。
結構言ってることがヤバいかもしれない。
まず、陸で水圧というのは変な気がするし、そんな水に溢れた状況じゃ湊も飛鳥も戦えない。
「調整してよね」
飛鳥が横目で言う。
「もちろん」
「超局地的な水圧攻撃」
湊は指をピンッと弾く。
すると、指の先から水の紐のようなものが出てくる。
その紐がぐるぐると円の形を描いて筒のような形を作った。
その中に魔獣たちが収まっており水により上から封された。
「水圧攻撃だ!」
その水の中に入った魔獣たちは水圧に押し潰されるが如く圧死した。
「どう!?飛鳥??…飛鳥?」
そこで飛鳥の声が聞こえないことに気がついた。
不審に思って飛鳥がいる方を見てみると、そこにはとても大きな熊がいて飛鳥はその熊に抱えられていた。
「熊っ!?」
しかも普通の熊ではない眼がギラギラと光って頭からは魂の一片のようなものが出ている。
湊はほとんど無意識のうちにその熊から目を逸らした。合わせたら何か起きる気がする、そんな予感があったのだ。
「飛鳥!聞こえるか!?」
ピクンッと飛鳥の体が動いたがそれ以外反応はない。
完全に脱力し切っていては魔力も込められないだろうし、意識も朦朧として今は対抗することも出来ないようだ。
どうするか…。
湊は唇を噛んだ。
咲奈はさっきの叫び声の後から何も反応がないので今、無事かも分からない。
そして湊自身、今使える魔法というより習得している魔法が少ない。
冷たい汗が滲む。
熊と間合いを取りながら後ろへと後退していく。
今有効な作戦は…。
「魔術は意識を元に…」
魔書に書かれていた言葉だ。
意識で魔術を使える。
ならば新しい魔術の公式を作ればいけるかもしれない。
型に囚われない、意識。
『目の前の生物の意識を…捨てさせる』
その瞬間、ギラギラと光っていた熊の眼は光を失い熊は大きな音を立てて倒れた。
砂埃が当たりを埋め尽くした。
えっと…。
「意識…できた?」
やり方を知らない魔術を使うことが出来た。
もしかしたら元からあった魔術なのかもしれないが、もしも“意識”だけで魔術を作れるのならそれはとんでもなく怖いことかもしれない。
「はっ、飛鳥!」
湊は急いで飛鳥のもとに駆け寄った。
熊と共に倒れた飛鳥は頭と口から血が流れていた。
前に飛鳥から教わった回復魔法を即座にかける。
傷口は治ったようだが、意識が戻らない。
湊は倒れている熊にとどめを刺すように水を雫状にしたもので熊の顔を覆った。
これで呼吸はできずに窒息死するだろう。
飛鳥を背負い、咲奈の叫び声が聞こえたあたりまで走った。
ゆっくりと開いていく目に入ってきた光はとても痛く感じ目を細めた。
飛鳥は重い体を動かそうと力を入れたが少ししか動かすことが出来なかった。
ここは自分たちの部屋…。
咲奈の叫び声の後、魔獣がたくさん来て…湊くんと戦ったっけ…。
けどその後熊に…。
頭が回らない。
「飛鳥…」
ふわりと優しさで飽和された声が聞こえてきた。
「湊…」
「目が覚めてくれて嬉しいよ。今日は俺も飛鳥も風邪で欠席にしといたよ。それと咲奈さんは無事だったよ。気を失ってたから帰りは2人とも浮かせて帰ったんだ」
「湊、魔術使いこなせるようになったんだね」
「あ…うん、なんかね。意識したら出来たよ」
意識だけで新しく魔術は作り出せるのか聞きたいが今じゃない気がする…。
「意識か…。けど意識だけでそんなにポンポンできるのかな?」湊が思っていた疑問を飛鳥が口にする。
「やっぱり、難しいのかな?」
「僕が習ってきた魔術はもとからあってそれを再現しようと意識して発動させてたから真っ白な紙からじゃなくて塗り絵のようにもとからあるものに自分の個性を足していくようなものなんだ」
なるほど…。
「てことは?」
「てことは…前例がないね。少なくとも魔術の最初を生み出した神と呼ばれる人以外」
その人物は今からかなり昔に存在し、魔法の根幹となる基礎を生み出し、その派生の魔術まで全てを1人で生み出した人物だという。
「でも、もとからある魔法ならたまたま出来た可能性もあるからその人みたいな才能を持って生まれた可能性はないと思うよ」
飛鳥は真面目な口調で言った。
「それに、もしいたとしたら世界総出で潰すと思うよ。そのひとを」
飛鳥の怪しげな声が湊の耳に大きく響いた。




