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第10話 大事な話

「飲む?」湊は飛鳥に外の自動販売機で買ってきたお茶を渡した。


「ありがとう…」

憔悴しきっていて痛々しい笑みを浮かべ感謝を口にする飛鳥になんと声をかければいいか分からなくなってしまう。


湊は飛鳥が座るベッドに腰掛けてただ背中をさすってあげる。


どう切り出すべきか分からない…。

静まり返った部屋の中では飛鳥の荒い息遣いが大きく響いていた。


「湊…少しだけ考える時間をくれないかな?それから全部話すよ」


「うん」

飛鳥はベッドから立ち上がると玄関を出た。




「ふぅ」

飛鳥は廊下に出ると息を吐いた。

ドアに背中を預けてずるずるとしゃがんでいった。


「全部話すって言ってもなぁ…」


どこまで話そうか…。全て話すのはきっと彼のためにならないから。




「どうしたんですか?飛鳥くん?」


座り込む飛鳥のことを不審に思ってか声をかけた人がいた。

誰かと思い顔を上げると、そこには心配そうな顔をしたリキがいた。



「リキさん…」





「湊くんと何かありましたか?」

場所を変え、人気のない校舎裏にある小さな庭園に来ていた。


「湊とは仲直りをしたんですけど…ほかに問題ができて…」


「それ、僕に話せることですか?」

リキが何かを察してか尋ねてくれる。


「リキさんは、口が堅いでしょう?上に話がいかないと約束するなら…話せます」


飛鳥は上層部にこのことがバレるのを危惧している。

けど、リキなら信用できると思っていた。



「人を簡単に信用してはいけませんよ」


「でも、リキさんなら。というかリキさんを頼らせてください」


リキは柔らかい笑みを浮かべているような困っているような顔をした。



「ついてきてください」

少し迷った後にリキは手招きをしながら言った。





学園内の応接間などがある棟の一部屋に連れて来られた飛鳥は少し緊張していた。


ここの棟は正直あまり生徒が入っていい場所ではない。

魔術の基礎を教育する数少ない世界魔術教育学園には世界からの来客や国の重鎮、それらに関係する人達がやってくる。


その際に使うため、普段ここの棟の周りにはあまり近寄らないようにと言われていた。



「好きなところに座ってください」


向かい合っている革製のソファの一つに腰を下ろすと、その感触が柔らかくて驚いた。



「ここは、僕専用の部屋なのでくつろいでもらって構いませんよ。他には誰も入って来られないので」



「すいません、わざわざ」


「防音されている部屋の方がいいでしょうし、結界を張っているので侵入される心配もないでしょう」


お茶と茶菓子を出して飛鳥に向かい合うように座った。



「それでは、話してもらえますか?多分、国に知られたらまずい事なんですよね?」


「はい…僕には3歳下に妹がいて菜留っていうんですけど、その菜留がある日人質に取られたんです」





その日はやけに魔術が使いづらかった。

魔術は天気が悪かったり体調がすぐれないと魔術を操りづらくなる。


1年前、こっちの世界に妹と2人で越してきて暮らしていた。


もとは魔術のない世界に暮らしていた。

だが、妹がある日謎の光に包まれて気がついたらここにいたというなんともファンタジーな展開が起こってしまったのだ。



ここに来た異世界人は魔術教育学園で基礎教育を受けるが、その存在など知る由もなくしばらくは普通にいつも通り過ごしていた。



だけど、そんなある日妹が突然姿を消した。


そして、残されたの例のアイツのメッセージ。



“妹を無事に返して欲しければ願いを聞け”というありがちな脅し文句だ。


だが、やはり人間は大事なものを使って脅されると従ってしまうのだ。


「妹の菜留も魔法は使えて、魔法で書き残したメッセージがありました。ただ、その時期魔術が使いづらくてそれに気づくまで3週間以上はかかりました」




そのせいで、妹のおおよその所在が分からず何もできずにいた。


そして、妹の居場所が分かり行ってみたところが…

世界魔術教育学園(ここ)だったんです」



それから、ここの存在を知り通い始めた。

「ここの森に大きな魔樹がありますよね?危険指定されている」


「あぁ。ありますね。最近はあそこら辺に近づく人も少ないようですが…」



「その魔樹の結界が破られていることにお気づきですか?」


「…っ!?結界がですか…?」

リキはそんなまさかという顔をした。



「はい、その結界が破られて森では夜魔獣が大量発生してます…それを討伐しながら魔樹の結界というリミッターを外したあの木の存在を教師や国の人間にバレないようにするという願いを叶えるために動いて来ました…」



「バレないようにして魔樹は何をするつもりなのですか?」


「分かりません…が、ろくなことではないでしょうね」



リキは考えを整理するためにお茶を口に一口含むと難しそうな顔をして飲み込んだ。


それから何か話そうと口を開きかけるが閉じ、また開きかけるが閉じた。

だが、意を決したような目で飛鳥を見た。



「飛鳥くん。良ければ僕もその討伐する仲間に加えてはいただけませんか?」




「え、リキさんを…?」


「足手纏いになるかもですが…一応僕の方が飛鳥くんと湊くんよりも先輩ですから心配なんです」


「足手纏いになるはずないじゃないですか!リキさんがいてくれたら僕たちも心強いです」



そうして、明日の早朝早速行くことになったのだった。


「そろそろ帰ります。湊くんにこの話をしないとなので…」

飛鳥は柔らかいソファに名残惜しさを感じながら立ち上がった。


「ありがとうございます。話してくれて」



「いえ、逆にすいません。わざわざ部屋に入れてもらって」

飛鳥は一礼して部屋を後にした。




湊くんに…話さないとな。



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