Karte.20-3「ルンペルシュティルツヒェンじゃあああああうわああああああ!」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
◯
「……で、あの性格が完成したのが14歳だったか。反抗期らしい反抗期も無く、よくここまで大きくなってくれたもんだ」
「オトンのアホたれやのオトンのバカたれやのオトンのノーデリカシー黒歴史暴露脳筋遊びたい盛りの娘殺し中年オヤジやの……」
「小さくなって反抗期真っ盛りだけどな、現状」
ーー 活動写幻 の 再生 を 終了します! ーー
スツルクが卓上のハイフェアリーを手元へ呼び戻した頃には、仮眠ベッド上のシェリスはダンゴムシになっていた。
「……マリーさん……」
「やめてイエちゃん! ただでさえとばっちりなんじゃけん触れんといてっよしてえ!」
「えっと、まだ何も」
「なんならうち、マリちゃんのほうの『メスガキ矯正日記』もビジョン撮ってあるけど」
「おおおおば様ああああ!」
シェリスに寄り添い中のマリーまでシーツに顔面をめり込ませてしまったので、ハルトが「はいはい」と手を打った。
「つまり今のシェリスは、『最大レベル』って自信の源を失くしたからこうなってるわけだな?」
「当たり前やん……1レベルでも弱みは弱みやの、耳クソぐらい小っちゃい差ぁでも最大レベルん時より弱いんの。明日の最終戦でもそこんとこが響いてきっと負けてまうんや……どないしよどないしよどないしよ……」
「……シェリスさん、耳元にアシダカグモがおるよ」
「アシダカ軍曹!?」
瞬間、シェリスが抱き枕にしていたシャベルが寝返りざまに翻った。
……マリーが放ってよこした六本腕のアーミー人形が、一瞬にして千々に刻まれた。
「グ……グギュウウウ……」
……いつもと変わらないように見える高速シャベル剣術を放ったシェリスが、しかし、パニック丸出しでベッドからずり落ちていた。
「とまあご覧のとおり。身体的にはほとんど変わりないんだけど、弱気が祟って隙が増えるの。そがー意味じゃあ確かに普段の半分ほどの戦闘力に落ちとんねえ……」
「なるほどです。病は気から、戦いも気からですね」
「……そういえば明日の朝なんだよなあ、いちおうベルアーデの命運がかかった戦いは。いちおう」
「うううううう……」
シェリスがヨジヨジとまたベッドの上へ戻ってしまった一方、ルーデリカがスツルクへジト目を向ける。
「スーちゃんがもうちょい日程に余裕持たせてくれたらよかったんやけどな~……」
「妥当なラインだろ、先延ばしにしすぎたら棄権扱いされかねない。スァーヤ一家はバカだが、バカだからこそ一度決めたら勢いはヤバいからな」
ーー Fメール を 起動します! ーー
スツルクは目の前に現れたウィンドウを反転させ、届いて間もないらしいFメールを皆へ見せた。
ーー From スタリーチナ・トロスツュ・スァーヤ ーー
ーー 件名 『腹痛だぁぁぁぁ?』 ーー
ーー 『アレの日なら仕方ねぇのじゃ。観光でもしててやっから逃げんじゃねぇのじゃこらぁ!』 ーー
ーー 『おじさんとこの名前で領収書切りマスんでよろしく!』 ーー
ーー 『シェリザさん……お大事に……』 ーー
「ほらな。勢いのヤバいバカたちだ」
「なんか深読みされてるが愛すべきバカだなあいつら……」
添付されていた写幻には、芸術の街ミューズヘンにてバケツいっぱいの絵の具を街路へぶちまけている三姉妹の姿があった。
「タイムリミットは明朝。レベル上げさせるか、それとも要は気の問題なんだから説得でも何でもして自信つけさせるか……一日仕事でもキツそうだな、どちらにしろ」
「無理やの無理やの無理やの……シェリスちゃんぐらいのレベルになるとちょっとやそっとの経験じゃエーテルは身につかへんの……」
「後ろ向きには自信ありまくりだなおまえ」
「それにガキんちょの頃からこれでゴネてきたんやからナメやんといてほしいの……説得なんて無駄やの無駄やの無駄やの」
「後ろ向きにエラそうだなあおまえ!?」
「そそ、『シェリスちゃん』の状態も鑑みたマネージメントに苦労するのよねえ……。ハルトの言うとおり、1日でレベル49から50っちゅうんはぶちキッツいレベリングじゃ……」
オドエーテルを多く宿すことはいわば魔力の濃度が高くなることでもあり、レベル差の離れすぎた相手から薄い『経験値』を得てもほぼ意味を成さないかそもそも宿らないのだ。
「なあ。無茶を承知で言うんだが、ワビ石を買うのは? 大金貨が何万も要るけどさ、あれならどんなレベルのヤツでも1レベルだけ上げてくれるだろ」
莫大なエーテルを秘めた魔石ワールドビルドストーン。悪くないアイデアのはずだったが、ハルトの挙手は控えめだった。
「ダメだ。金の問題じゃないぞ、この問題に関してはあくまでもシェリスの努力で解決するようにと家族で決めてるんだ」
「……国の存亡が懸かってても?」
「も、もちろん!」「も、もちろんや!」
「そんな気がしてたよ……」
「あの。それなら、私に任せていただけないでしょうか」
と。青年騎士よりも全身全霊で白袖を掲げたのは、このヒーラー乙女だった。
「心のケアも白魔法師の役目です。ムウ修道会の指南にはレベリングで悩む方のための診療要項もあるのです」
イエは席を立つと、力強い足取りで仮眠ベッドのそばへ至った。
「一緒に頑張りましょうシェリスさん。私、これでも通算50以上はレベルアップしてきましたから安心の実績です」
「イエ子ちゃんはアップダウン繰り返しとるだけやないの……一瞬でも1位取ったらアホみたいにいつまでも売上1位とか書きよる健康食品と同じやり口やの……」
「ちなみにムウ修道会の指南に則り、患者と認められたシェリスさんに拒否権は無いです」
「しかも押し売りやったの……」
白魔法師はしばしば清廉な花に例えられるが、その白衣は汚濁を疾く視る苛烈さの証。イエが肩を鷲掴みにして揺さぶり続ければ、シェリスはこちら側へひっくり返りはした。
「……ええの。わかったの。妹分がここまで言うてるんやさかい、どうせ間に合わへんやろうけどやるだけやってみるの」
「はいです……! その意気なのです」
「もちろん弟分と幼馴染みもいるわよ! の、の、ハルト!」
「お、おう……」
「頼むで第七隊! ほんまは助けたいんやけど甘やかしたらあかん親心をわかってなぁ!」
「それを口に出さないのが親心なんだぞルルさん」
さて、こんな弱気王女が1日でガッツリ打ち込めるレベリングなんてあるのだろうか……。
◯
南エウル大陸の西端、ブドゥーガ共和国。
そこは港の国。新大陸ニューア大陸との玄関口として、またフェアリーの錬成に係る聖霊大陸との物資輸送中継地として重宝されている。
北エウルほどではないが北海に近いため、海岸線は少し冷たいぐらいの風が吹いているが……国全体としては隣国のハイラクス王国と同様、星中海性のカラリとして過ごしやすい温かさが満ちている。
特に聖霊大陸が間近の南部は、かの地の熱帯・亜熱帯の気候が流れてきて年中ホットだ。
「ごきげんよう~、ブドゥーガ国立カレーさめ園にようこそおいでませ! ただいま岩さめたちのお散歩中、ふれあい可能ですよ~触ってもゴツゴツしてて最悪擦りむきますけどよろしければどうぞ~」
ーーさめっ!
ーーすとんしゃーく!
ーーごろひれ!
つまり、南部にある『カレーさめ園』は国でいちばんアツいテーマパークである。
地中から湧き出すカレーの熱を利用して、南国リゾートを思わせる環境が整えられた飼育園。
ベストにボンタンという制服に背ビレ付きキャップを被った魔物使いたちが、堀を利用した展示ブースや遊歩道でさめたちを世話していた。
ーーふきゃひれ~♡
ーーかれ~♡
ーーごくごくがぶがぶっ
ちょうどお昼の給餌タイムらしく、大好物のカレーを与えられてとても幸せそうである。
「ったく、今朝の船はこんなに密航さめがいやがった。海に放り投げちゃダメなのか?」
「ダメですよぅ、生態系を守るために条例遵守でお願いします。各々でカレーの具にしてもらうのならオッケーですけど」
「バカ言え、婆ちゃんのニシン漬けのほうがまだ食える味だ」
一方。一般入場口からうんと離れた搬入口では海の男たちが並び、大小の動く木箱を引いてきていたが、それはともかく……、
「あっ、白魔法師様でございますね。いつもお世話になっております、今日はさめセラピーでございますか? あっはい、レベリングのほうでございますか~かしこまりました。請求はベルアーデ分会へですね、はいはい」
「よろしくお願いいたします」
(なんか既視感が……)
お辞儀をしたイエを筆頭に、第七隊は此度の担当を務める魔物使いに応対されていた。
「ていうか、カ、カレーさめ園? ここでレベリングなんてできるのか?」
「はい、子供向けの施設と思われがちですけど修道会オススメの穴場です」
「そうでございますわよ~お客様、ここではレベルに合わせて世界中から集まった多種多様なさめたちと戦えるのでございます。やはり宣伝不足なのでしょうか~」
と、ペンの頭でこめかみを掻いた魔物使いが示してみせた方向……、
『青さめ』とプレートが提げられた展示ブースにて、
「そこよヴォゥルヒィーズちゃん! ママのために全員倒して! キル、キル、キル、マッ、マッ、マッ……!」
「わかったよママぁ!」
「キルはダメですよお母さん。あっボク~、目を狙うのもダメですよボク~?」
ーーしゃしゃぁぁ!
ーーがちがちがち……
ーーさめんっっ
ド派手な教育ママに応援されたお子様が、革でくるまれたスポンジ鉈で青さめの群れと戦っていた。
そんな様子をブースの外周から観覧客たちが眺めていて、ショーとして成立しているようだった……。
「武器や魔法はこちらで用意したものを使っていただきますので、さめたちを怪我させないようにお願いいたしますね。適当にポコンとやっつければ自分から逃げていきますわ」
「ノーマークだったわあ。レベリングの有名どころなら調べとったんじゃが完全に盲点……げに宣伝したほうがええよおわりゃーさんら」
「まあお客様が増えすぎると忙しくなってしまいますので、どうせ時間給でございますしべつによろしいかなと」
「国立の悪いところが出ちょるねえ」
「ちなみにお客様たちが負ければさめたちはカレーを二杯、お客様たちが勝ってもさめたちはカレーを一杯食べられますわ」
「人間よりさめのほうが歩合制で頑張ってるな」
「さてとっ、参加者はどのお方でございましょうか? 適切なマッチングのためにレベルと使用武器種の申告をお願いいたしま~す」
魔物使いが書類を挟んだバインダーにペンを添えれば、ハルト、イエ、マリーは最後列で空気と化していた人影をもちろん前へ押し出した。
「ほうらっ。シェリスさん、わりゃーで言う!」
「せやけど……。……はあ……シェリスちゃんはシェリスちゃんやの……レベル49、武器はシャベル……」
「よんじゅうきゅっっ? わあお客様スゴいっ、うちにいらっしゃったお方の中で最高レベルですわ! 宣伝用に写幻撮ってもよろしいでしょうか?」
「ふ……そやろねそやろね、ええで……そんな高レベルやのにこんなネガティブ女やなんて写幻撮られて晒されても当然やの……ううう絶対お断りやの撮らんといて……」
「えっ結局どちらっ? あ、それとごめんあそばせ……シャベルはさすがに置いておりませんので剣とかでよろしいですか?」
「うううううう……そやろねそやろね、シャベルなんちゅうもんをメインウェポンにしとるエルフ女は自分の墓穴掘っとるのがお似合いやの……」
「あら、あら、あら、あらあら? お客様ぁ?」
「も~~~~シェリスさんんんんっ」
「剣でいい剣でいいっ。ったく、先行き不安だ……」
「白魔法師イエ、レベル1です。武器は使わないのでアイテム支給だけでいいです」
と。膝を抱えてしまったシェリスをハルトとマリーが介護しているうちに、彼女よりも一歩先にイエが歩み出たのである 。
「参加者は以上2名です。恐縮ですけど急いでレベルを上げないといけないので、閉園時間まで戦えるように組んでいただけないでしょうか?」
「あら、白魔法師様レベル1……? 閉園時間まで? ん~~承知いたしましたわっ、少々お時間頂きますのでお待ちくださいな」
魔物使いはフェアリーを呼び出すとともにバックヤードのほうへ駆けていった。上司らしい魔物使いへ呼びかけ、マッチングの相談をはじめたようだった……。
一方、ハルトをはじめとした三人は目を丸くしてイエを見つめていた。
「イエ……聞いてないぞ、おまえも参加するのか?」
「ていうか。イエちゃんが参加してどーなろーに?」
イエはハルトとマリーへ頷いてみせると、シェリスへ向き直った。
「シェリスさん。私と競争しましょう」
「は? な、なんやの……?」
ズイッと大きく一歩踏み込めば、その歩幅の分だけシェリスはジリジリと後ずさって。
対してイエは、フードの中から彼女を取り出すのだ。
「……すやすや……すてぁ……」
「私はレベル11を目指します。そうすればお姉さんの《カミングホーム》の力を使って、シェリスさんを人の島に連れていけます」
長すぎる闇色髪の生き人形、アリステラ。イエから経験値を捧げられない限りは眠っているが、かつては旧き『星』の意志だった守護精霊である。
「……あそこにはエルケちゃんのパンダ牧場がありますから。シェリスさんが努力しなくても、すぐにレベルアップできると思います」
「っ……? イエ子ちゃん、それは……」
「お、おいおい。たしかに一つの手だがそれでいいのか? シェリスが努力しないといけないって親父さんたちの方針にそぐわないんじゃないか?」
世界の底のアリステラの領域……『深淵』には人の島という場所があり、『墓守代行』の少女エルケがたくさんのフォールンパンダを世話している。膨大な経験値を有する彼らと戯れれば、シェリスだってレベルアップできるだろう。
「難しいとこねえ……。事が事じゃけん、メンツより実利を取るんも当然の選択ゆうたらそうなんじゃが」
「はい。レベルが戻ればシェリスさんが治るのなら、白魔法師の私にはメンツも恥も関係ありません。……シェリスさんが頑張れないとあれば問答無用です、『できる』ことで救う所存です」
「イエ子ちゃん……なんやの、シェリスちゃんを挑発しとるの……?」
落ち着きなく足踏みしていたシェリスのヒールが、石畳をほんの少しだけ引っ掻きながら止まる。
いかにも、イエはシェリスへ肉薄し……自分より長身な彼女を抉るように見上げていて。
「シェリスさん。私はシェリスさんみたいに戦いの才能はありませんけど、一分一秒も無駄にせず『できる』ことを張り続ける自信ならあります。今のシェリスさんには無いものです」
「う……なにもやらへんて言うてへんやろ……やらなあかんからここにおるの」
「そこです。あれこれ言いながらも絶対に逃げないのはシェリスさんの強さですけど、私にはそれは弱さであるとも思います。……だってそれはシェリスさんが、必要に迫られて無理をしているだけですから」
……シェリスと同じように、ハルトもハッとしていた。
ーー「そこだよシェリス。俺はおまえがな、弱虫だなんだと言いながらも絶対に逃げないところを買ってるんだ」
ーー……対する父は、帝王は、どこか辛そうに笑っていた。
あの活動写幻が思い出される。
あらゆる意味で王族のメンツなんて知らない白魔法師は、揺らがず続ける。
「いつかこの先もまたレベルダウンしてしまったら、心をすり減らしながら頑張るのでしょうか。……私、それは見過ごせません。言いましたよね、心のケアも白魔法師の役目だと」
いっそう背筋を張ったイエは、極東ニフの作法で深々と『一礼』を捧げた。
「だから競争です、シェリスさん。あなたが心から自分の意志と向き合わなければ私には勝てないので、覚悟してください」
「なッッ……」
一瞬。ほんの一瞬だけだが、八重歯の際立つあの相貌が泣きべそ王女によぎったように見えて。
「ナメんなっちゅうの……! シェリスちゃんは王女やの……おまえたちの前に立つ王女やの!」
大きな父の張り手に背を押されるのではなく。同じ目線に立つ友に頬を張り手されたかのように、シェリスはイエを覗き返した。
「ん~、え~、と、お客様……お話中失礼いたしますわ、マッチング完了したのですけれど大丈夫でございますか?」
「大丈夫です」「大丈夫やの!」
戻ってきた魔物使い。差し出されたアイテムポーチとスポンジ直剣を受け取ると、二人は案内されていくのだった。
「いってきますハルトさん。応援してください」
「マリーちゃん! どうせイエ子ちゃんは秒でへばってまうのっ、そこの売店でクッソ割高なポーションでも買うたっとき! 兄弟ちゃんのツケでの!」
「いろいろメチャクチャよおシェリスさん!?」
「……おまえら不器用だなあホントに」
「ハルトさんに言われたくありません」「兄弟ちゃんに言われたくあらへんの!」
「なんだよ!?」
長丁場を覚悟しながら、第七隊はけっきょく四人とも連れ立って歩きだすのだった。
◯
翌朝。
ベルアーデ帝国、帝都ベルロンド、アメージングベルロンドアリーナ。
「……おじ様、おば様。えっとのう……」
「わるいっ、間に合わなかったっっ……!」
「「うぐっっっっ……」」
王族用の観覧席にて、陰に隠れたハルトとマリーが肩を落とせば。アリーナ場内へ向けて手を振っていた帝王夫妻は、その笑顔もろとも膝から崩れかけた。
親善闘技最終戦が行われる今朝、アリーナはなんと満員だった。
「姫様が一敗したって?」「お腹イタのせいって話だけど……」「わんわん泣いて様子おかしかったらしいよ」「むむむ。歴史的な一戦になるかもしれん」「トトのオッズも歴史的だぜ……ゴクリ」
昨日の珍騒動がやはり市井へ広まったらしい。ここで帝国の興亡が決まるのだと本当に理解しているかはともかく、誰もが固唾を呑んでいた。
「い、いや言い方が悪かった、遅刻してるが今もレベル上げしてるんだ。さめ園が全面協力してくれてさ、徹夜でバトル回してて……」
ハルトはホルスターからフェアリーを呼び出し、数枚の写幻を表示させた。
シェリスとイエが、昼下がり、夕方、そして夜中と戦い続けている姿が写っていた。
シェリスは慣れないスポンジ直剣にも弱気を助長されているのか、猫背にへっぴり腰で泣きべそをかいて。
それでも。最初は麻痺矢を打ってくる『弓さめ』と相対し、次に毒性の桜吹雪を吹かしてくる『花さめ』とやり合い、ついには5色のクインテットで連携してくる『さめレンジャイ』たちとも戦って……。
一方のイエは、どの写幻でも最弱の『青さめ』相手にわちゃわちゃしていた。
「魔物使いたちの計算によると、たぶんもう少しで二人のどっちかは目標達成するらしいんだ。《リターン》で帰ってくるまで、あともう少しだけ時間稼ぎできれば……」
「し、信じてええんやな? ハルくん」
「ああ。俺は信じる」
「あらまハルトったらあ。こっちのフォローに回ってつかあさいてイエちゃんから言われたんに、目え離されんてギリギリまで粘っとったくせに」
「そ、それは信じる信じないとはまた別の問題だろ」
「はいはあい。とにかくここは任せて、おじ様、おば様」
「うむ……俺たちのメンツのために苦労かけるな、子供たちよ」
背を丸めた帝王に答えるまでもなく、ハルトとマリーは観覧席の手すりを乗り越えていた。
「シュネーヴィ!」
『プシュル!』
飛んできたシュネーヴィに受け止められてワンクッション、からフィールドへ降り立ったのだ。
「おいこら! シェリザのヤツはどうしたのじゃぁ!?」
そう、すでにスァーヤの三皇女が待っていたからだ。
「言っとくがよ、まだ腹痛ぇっつうのはナシじゃからな!」
「じ、実はまだ腹痛で来てないんだなこれが……」
「人の話聞いてやがったかぁ!? マジかよあいつクッソ重い体質じゃな!」
「いやお姉様も信じるんかーい。てか誰だっけあんた、絵に描いたような平民顔ね」
「……ハルト。昨日自己紹介しただろうが……一応あいつの弟分だよ」
「あーそっかそっか、シェリザちゃんの舎弟ね」
「気をつけるのじゃヴァーニィ、あんなどこにでもいそうな野郎があいつの子分……あー弟子? なんでもいいがそんなもんのはずがねぇのじゃ。きっとシェリザの情夫なのじゃ」
「気色悪いこと言うな!」
「じゃあ上姉様……あの白魔法師さんは……?」
「あいつはたぶん詐欺師じゃな。妙なセミナーとか薬壺売りつけてシェリザを洗脳してやがんのじゃ」
「こおら! それ以上ぱーぷーなこと言うとったら場外乱闘も辞さんよ!」
『ガガガ』
と、マリーがシュネーヴィとともに一歩前に出るのだ。
「とにかくそういうことだから、シェリスさんは復帰までもうちょっとかかるの! もちぃと待ちんさい!」
「ざけんな! 遅刻してんのはそっちなんじゃからこれ以上待たせんなら不戦勝じゃっ、1000数える間に呼んできやがれ!」
「意外と猶予あるう」
「1~~、10~~、11~~、100~~」
「2進法かよ!?」
慌てるマリーとハルトだったが、チーナたちがそう申し立てるのも想定内ではあった。二人で視線を交わして……、
「わ、わかったわよう! ほんじゃあシェリスさんが戻ってくるまでわしが相手になっちゃるけんっ、そがー暴れたいんならかかってきんさい! エキシビションマッチじゃあ!」
「おうおうよく言ったのじゃ! よしっ、わらわが景気づけにぶっ飛ばしてや……」
「まあもっとも!? 腹痛で半分の強さに落ちたシェリスさんを倒しよっても、大手を振ってママに報告できるかは疑問じゃがのう!?」
構えたマリーがそう張り上げれば、三皇女は首を傾げた。……どことなく不安がよぎった面持ちで。
「あーあ! その点わしなんかあの人の半分の強さだもん、わしを倒して腹痛シェリスさんも倒せばフルパワー王女一人分で帳尻が合うんだけどなあ! 潔く無意味な余興で散ろうかいのう!」
「ようし乗った! エキシビションどころか公式戦にしてやるのじゃ!」
「ちょっと!? お姉様!?」
(ようしバカだ)
ハルトとマリーはほくそ笑んだ。
「そんな計算がありますか! レベル50の王女を一人倒す代わりに、レベル1の犬コロを50匹倒したってママは納得しないでしょお!?」
「ううん? ……チビメイド! てめぇのレベルはいくつじゃ!」
「20!」
「騎士男! てめぇは!」
「20……」
「シェリザがレベル25ぐらいに弱体化してるとして……じゃあチビメイドのついでにあの騎士男も倒そうぜ、そうすりゃ合計65レベルで釣りが出るのじゃ」
「お買い得じゃん! それならきっとママもニッコリね!」
(俺たちもな)
ハルトは下がる気でいたのだが、マリーと肩をすくめ合うと二丁剣銃パラレラムへ手を添えた。
「ってなわけでてめぇら二人とも覚悟しやがれ! いくのじゃヴァーニィ!」
「実戦……はじめて……」
チーナとシャールが跳び退いていったとともに、三女ヴァーニィが前に出て。フィールド外周に結界が張られた。
「あ、あー……そうなのか、おまえも戦うんだな。……おいマリー、あんな小さい子とやり合うのは気が引けるんだが」
「そういうセリフ言ってると痛い目見るかもよ? いうてわしもあの子が戦うの見るんは初めてなんよ、今まではチーナちゃんとシャールちゃんの負けで終わっちょったけえ……」
「プラーチィコッド:B(ドレスコード:B)……ぷしゅ……」
いきなり発動は三姉妹揃って十八番らしい。シャキーンと、ヴァーニィは絵物語のスーパーヒロインがごとく魔導ドレスグローブを広げた。
実際。それはタイプキーが叩かれたことでエーテルスチームが噴き出し、その勢いで本のように開いたのだ。
金属のページには、魔法詠唱用の『X言語』の集合によってイラストが描かれていた。
ネギ……いや柱がモチーフなのだろうか、デフォルメされた二頭身キャラが描かれていた。
「《サモン》……よろしくね……」
そして。中空を差したヴァーニィの指先から、インクのようなエーテルがちょこんと開いた。
そして、一瞬のうちに超巨大化した。
「「え」」
ーー レベル8 召喚師 トロヴァーニャ・クニガ・スァーヤ ーー
ーー 召喚魔法 レベル1(職人級) ーー
ーー 装備補正 ーー
ーー 召喚魔法 レベル2(達人級) ーー
フィールドいっぱいに地響きが震えた……、
それはもうそこにいた。
ーーガ、ゴ、タ、タ、タ、ゴ、ゴ、ガ、ト……
柱の、化け物。
裂けた目と大口のついた巨大柱が合計6本連なることで全身をなした、膝立ちに這いつくばった人型だ……!
「ひいいいいいいいルンペルシュティルツヒェンじゃあああああうわああああああ!」
「なにって!?」
小刻みに震えながら恐ろしい形相で吼える怪異には違いなかったが、マリーが腰を抜かした。
「ドワーフの昔話に出てくる悪魔ああ! 契約破棄、鉱山崩落、死産、あらゆる貧乏をゆすってくるんじゃああああ!」
「解説ありがたいが構えろって! くそっ、召喚獣かよ……!」
召喚魔法。
『悪魔』や『幻獣』や『ヨメ』など、実在しない存在を魔力にて描き出す術だ。
「きゃっきゃ……可愛い……」
それを扱う『召喚師』は、想像力豊かに、自分だけの世界観を持つ者が適している。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




