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Karte.2-2「剣にも盾にもなるのはゴメンだが」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエを見守る青年騎士。18歳。


【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにレベル99のアイテムをクラフトできる白魔法師。16歳。


【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

「それにつけても、レベル1の白魔法師ちゃんのう……」

「つけるなつけるな、まだ話は終わってないぞ。どうするんだよこれ」

「じゃけぇ、これがベストって言ったでしょー? 七番隊のメイドさんとしてベストは尽くしたわ」

「ドワーフの名はどこいったんだ」

「あっ、それこそ《ウィッチクラフト》ってスキルでどうにかならんかしら?」

「何が出るかわからないからこうなったんだろ……!」

「もー、リヒトったら……じゃなかったハルトったら。挑戦にリスクはつきもんじゃあよ?」

「なんで俺がイジられる流れになってるんだ?」

「わしもハルトって呼ぶわね! ふふっ、なんじゃあカ~ワイイ~♪」

「どうせ呼びにくい本名だよッ! ったく、そういえばあいつは!? イエ、どこいったー!?」

「ありゃありゃふふふ」

 見上げてくるニマニマ笑いに背を向け。ハルトはアトリイエへ踏み込んだのだが……。

「あら、綺麗にお掃除したわねえ。まだちぃと薬品臭いけど」

「いない……?」

 散乱していた物品はとりあえず片付けられていたが、工房内にあの乙女はいなくて。

 七番館と通じてしまった裏口を押し開ける。

 するとそこは、七番館のロビーだ。

 冒険者ギルドのそれのように、来訪者用のスペースと事務所とを受付カウンターで仕切っている。

 ……ただし事務所のほうは名ばかりで。ソファやローテーブルやキッチンまで設けられ、リビングのような生活感に溢れていた。

「おつかれさまです。ちょうどいまハトムギ茶ができました」

 いた。

「……ハトムギ茶」

「はい。ティンティンに冷やしておきました」

「キンキンな」

 ーークルッボェェ

 稲穂に生えた鳩から麦粉を吐かせながら。氷樹の薪が歯車仕掛けに補充されていく機工式かまどの前で、イエはケトルの番をしていたのだった。

「ベルアーデはどこでも機械がたくさんですね。炎薪ほのおまき氷薪こおりまきの入れ換えもスイッチ一つなんて、こちらに引っ越してきてからビックリしました」

「俺はおまえの勝手知ったる他人の家ぶりにビックリだよ……。あと機械じゃなくて正確には機工な」

「どう違うのですか?」

「説明するわねっ! 機械っちゅうんは機工技術と魔導技術の両方に使われちょるメカニズムの総称じゃけん、特に……」

「はいストップ。……いいからこいつに一杯淹れてやってくれ、大仕事の後でまだ熱くなってる」

「かしこまりました。はいどうぞ、マリーさん」

「わぁ~、あんがとおねえ。いただきま~す」

 食器棚まですでに開けられていて。普段使いの木のコップへハトムギ茶が並々と注がれ、マリーへ手渡された。

 そして、ハルトへも。

「ハルトさんもぜひどうぞ。お詫びにもならないですが幸運値の上がる『デカダンスの角』を配合しました」

「……そんな隠しステータスなんてアテにしてなかったが、これからは気にするよ」

 ーー 幸運 1 アップ! ーー

 運。創造神か聖女しか実証できないだろうステータスなんて、この乙女に会うまでは気にも留めなかった。

「ねえイエちゃん。こうなったらどーなろーに(しかたないし)、ここでアトリエ開かない?」

「ぶぅっっ!?」「いいのですか?」

 ハルトは幸運のお茶を早々に噴いてしまった……。

 一方、マリーは笑顔で湯呑みを掲げるのだ。 

「うん、むしろわしらからお願いしたいくらいなの。うちの隊って今はヒーラーさんがおらんくてのう、面倒見てくれない?」

「ヒーラーがいない……? それはいけません、ヒーラー無しのパーティは死亡率が31%も上がると修道会で教わりました」

「げにぃ(ホントにねえ)、もういっつも生傷が絶えないの。素人のアイテム頼みじゃ限界があるし」

「お、おいっちょっと待てよ!? そんな急に……!」

 ハルトはおもわず、マリーをぬいぐるみのように持ち上げてしまった。

「ほんじゃあどうすんならあ? 明日からキラキラの新生活が始まるはずだった女の子を、寒空の下に放り出しちゃう?」

「いや、それはこいつがやらかしたからで…………くそ、そういう言い方はズルいぞ」

「あはっ。ごめんごめん、もう4月なんに寒空は無いよーのう。まあ春は出会いの季節、空から女の子が降ってきて大助かりってことで」

 副隊長を下ろしてやると、彼女は改めてイエに向き合うのである。

「もちろん顧問白魔法師として報酬は支払うわ。ただし、せっかく一つ屋根もとい二つ屋根の下でお付き合いするなら……家族みたいに遠慮は無しってことで。どうじゃろか?」

「はい、喜んで」

 即答で握手を交わし、イエの無表情にもどこか弾むものがあるようだった。

「白魔法師イエ、遠慮無しで頑張ります。ヒーラーとしてパーティ参加も承っていますので、こちらこそ皆さんをお手伝いさせてください」

「やったぁ~っ。よろしゅうね!」

 そして白魔法師の乙女は、ハルトへお辞儀をした。

「改めて、不束者ですがよろしくお願いいたします。ハルトさん」

「……ああ……まあ……」

「そうねえ、当面は二人で組んでもらおうかしら。先輩としてよろしくね、ハルト」

「お目付け役の間違いじゃないのか?」

 と、青年は肩をすくめてみせるのだが……。

「……やれやれ。覚悟決めるか!」

 礼には礼を。これが極東でいうところの『縁』というものならば、腹をくくるしかないだろう。

「ニフの礼儀はよく知らないから、こっちの流儀でやらせてもらうが……よろしく」

「ぁぅ……?」

 片膝を付いて。彼女の、真白の袖に秘められた細指を取った。

「おまえなあ、何から何まで危なっかしすぎるんだよ。剣にも盾にもなるのはゴメンだが、転ばないように俺が杖ぐらいにはなってやる。だから頑張れよな」

「……は……はい……」

 ポンッ。……もじもじ。

 ハルトが立ち上がると、なぜかイエは所在無さそうに袖口を擦り合わせているのだった。

「うんうん。こいつと出会わなかったら今以上の大惨事を起こしてたかもしれないし、これも世のため人のためだよな。そう思うことにしよう……」

「マリーさん、マリーさん……」

「そうねえ、彼ってああいうとこあるんよ。大丈夫、やれやれ系気取ってるけど紳士よ」

「なにか言ったか?」

「べつに~? イエちゃんのことよろしくね」

 首振り人形のようにコロコロ笑ったマリーに対して、ハルトは肩をすくめるほかなかった。

 ーーチリリン!

 そんな時、呼び鈴がロビーに鳴った。

「ん? どこから鳴ったんだ、今のベル」

「ああ、あんねえ……」 

 正面玄関は開いていないし、受付カウンターに置かれたベルは誰も鳴らしていない。しかしマリーは迷うことなく一点を指差した。

 アトリイエの裏口の上に、ニフ式のベル……大きな鈴が取り付けられていた。ワイヤーの仕掛けによって工房内と繋がっているようだった。

「アトリエにお客さんが来たらわかるようにね、さっき付けといたんじゃ」

「……! お客さん、ですか……!」

「……こいつを勧誘する前提で工事してたな、さては」

「マリーさん、ちなみにアトリエではなくてアトリイエなのです」

「なるほどお、『アトリエ』と『イエ』をかけたんね」

「マジでその名前だったのかよ」

 トテトテと駆け出したイエにつられ、ハルトとマリーもついていった。

 アトリイエのドアが開かれる、と……、

「ーーゼヒ、ゼヒ……へひぃぃぃぃ……」

 ……老人が、滝のような汗を流しながら床を這っていた。

「うひいいいいッ?」「あらららららっ……」

「大変です、大丈夫ですかお爺さん」

 ともすればホラーなその姿にハルトとマリーはビビったが、さすがイエは白魔法師(もしくは単に鈍いだけ)だ。実に手際よく老人を助け起こした。

「お、おおお白魔法師さん……そうじゃ大変なんじゃあ、どうか助けておくれい……」

「もちろんです。どこが痛みますか、持病などの心当たりはありますか」

「は……あ、いやワシじゃないんじゃよワシじゃあ……これはただ、慣れない街中を走り回って疲れただけ……げっふぅんげっふっっ」

「「「…………?」」」

 いやどう見ても辛そうなのだが、老人は決意に滾った眼差しをイエへ向けるのだった。

「こ、ここにある魔物避けと強壮剤をありったけくだされっ……ワシのタマちゃんが、可愛いタマちゃんが大変なんじゃあぁぁ……!」

「…………一応、精力剤もご用意できますが……ぁぅっ」

「いや下ネタじゃないって! ……たぶん」

 やはりこの真っ白乙女には、その脳天にツッコミを打ってやる誰かが必要のようだ……。

 ……まあ、誰かというかハルトしかいないわけだが……。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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