Karte.2-3「ハイホォォォォッッ、シュネーヴィ!」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエを見守る青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにレベル99のアイテムをクラフトできる白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
○
「《ファストトラベル》の書!」
ハルトは、インスタント魔法書の表紙に貼り付けられていた小袋を叩き割った。
封じられていた液化エーテルが魔法書に満ち、湯戻し。
自動詠唱とともにページが捲られていった。
頭上から開いたゲートが一同をくぐらせる……、
するともう、そこはアトリイエではなかった。
足元から突き上げられるような感覚に合わせてジャンプすれば、地面に出現していたゲートから飛び出せた。
「すみませんなあ騎士さん、魔法書まで使わせてしまって」
「気にしないでくれ、経費で落ちるからな……、っと」
「あぅ……」
「ナイスキャッチ~」
ハルトの手から魔法書が消えていった代わりに、エーテル酔いしたらしいイエをキャッチ。
「で。この『一つ目の原』で、ペットのタマちゃんが助けを待ってるっていうんだな?」
「そうなんですじゃぁぁぁぁもう二日も行方不明で孤立無援で絶体絶命でおよよよよ!」
「わかったわかった!」
転移してきたここは帝都ベルロンドを彼方に見る郊外……、地平線をも見通せる雄大な平原だった。
「ワシはここで目玉焼きを養殖しておる者ですじゃ。飼っとる魔物ならいざ知らず、野生の魔物を相手にするなんてとてもとても……」
「なるほど、それでアトリイエにいらっしゃったのですね」
ーーメベャー
ーーアイゥー
ーーガンガガガ……
振り向けば養殖場があった。築何十年も経っているのだろう畜舎の中で魔物たちがくつろいでいる。
サイクロプスや、キヌガサオバケ、ギリメカテなど……。どれも単眼の種だ。
「第七隊に任しときっ、お爺ちゃん! タマちゃんは第七隊の誇りにかけて救出するわ、わしら第七隊が!」
「マリー、そういうのは営業じゃなくて売名っていうんだぞ」
「おおお……何とぞお願いしますじゃあ」
というわけで。帝国騎士団第七隊は、クエスト『迷子のタマちゃん探し』を解決すべくやって来たのだった。
「イエちゃん、このクエストで第七隊のことを知ってくれたら嬉しいわ。ネコ探しからチート処理まで、公序良俗に反しないものならなんでも引き受けるんがうちのモットーなんじゃあ」
「素晴らしいモットーです。なんでも屋さんですね」
「そう言われれば聞こえは良いけどな……。爺さん、タマちゃんの居場所に心当たりは?」
「魔物を避けて奥の大木に隠れておるやも……。そうじゃっ、あの子は焼きたての目玉焼きに目が無くてのうっ少しお待ちくだされ!」
すわ、老人は驚くべき健脚で畜舎の柵を乗り越えていって、
「セイヤッ!」
「メ、メギャァァァァッ」
ーー 暗殺拳 レベル1(職人級) ーー
《モツ抜き》。高速の手刀で以てサイクロプスから目玉を抜き、その傷口めがけて再生ポーションをぶっかけた。
……煙じみたエーテルの輝きが、ぐったりしてしまった彼の者から立ち上りはじめた。魔物はもともと高い再生力を有しているので、そのうちまた目玉は復活するだろう。
「セイヤッ、セイヤッ!」
ーー 料理 レベル0(凡人級) ーー
そうして店頭販売用の屋台で、吹き荒れた炎と塩コショウ……、
「どうぞ! きっと匂いにつられて出てきてくれるはずですじゃ!」
「あ、ああ……わかった……」
「ハルトさんハルトさん、私がお持ちします」
「落とすなよ?」
「命に代えても落としません」
「それはやりすぎ」
釣竿と組み合わされた目玉焼きを、イエは受け取ったのだった。
と、その途端、
ーーメベャァァァァ
ーーアイゥゥゥゥー
ーーガンガガガ、ガ、ガ、ガ……
「ん?」「……っ?」「あ、ら?」
原に広がる草むらから、いくつもの影が姿を現した。
……血眼で唸る、一つ目の魔物たちだった。
「言い忘れとりました。原にはうちから逃げた魔物が繁殖してまして、目玉焼きを嗅ぎつけると怒り狂うのでお気をつけくだされ」
「ちょっ」
ピシャリ。
老人は、鉄板で完全防備された管理小屋へ滑り込んでいった。
「そういうことは先に言えぇぇぇぇ!」
「あわわわわわわわわ」
「そっ、その目玉焼きを捨て……てももう手遅れじゃあねえ!」
ーーメメメンガァァ!
ーージュウジュンンンンキヌガサアイアイサァァ!
ーーテテテテギリメカラァァァァ!
包囲網が閉じるその前に、ハルトたちは『一つ目の原』奥地へ突っ切るのだった。
「ひぃ、ひぃ、っ、ふくらはぎがピクピクしてきました……っっ」
「まだ100メートルも走ってないぞ!? ああくそっ、頼んだマリー!」
「オッケ~! ハイホォォォォッッ、シュネーヴィ!」
ーー 《イークイップ》 ーー
ーー レベル26 妖精機シュネーヴィ ーー
『ーープシュルー!』
マリーのコールとともに、上空に次元の狭間が出現。シュネーヴィが飛び出してきた。
なお、召喚はフェアリーに念じるだけでいいので肉声でコールする必要はまったく無い。完全にマリーのシュミである。
「アプフェルビッシェン(林檎僚機)! 射出!」
『ガガッ』
着地したシュネーヴィはホバリングでマリーに追従し、魔物たちへと向き直った。開かれたどてっ腹から、あの林檎型シールドビットが発進する。
それらはマリーの周囲に配置され、彼女に付き従う障壁となった。
「ザーグシルト(棺の盾)! 展開!」
『プッシュー!』
そしてシュネーヴィの両腕に、カノジョのメイン武装が展開された。
ーー アーム(武装) ザーグシルト ーー
棺のごときタワーシールドだ。
「《パリィ》!!」
『パリィィン!』
ーーメギャッ!?
ーーアィダッ!?
ーーメメェッッ!?
殴りかかってきた、撃ってかかってきた、飛びかかってきた、それら全ての魔物の攻撃を……パリィ(いなし)。
攻撃が命中するコンマ一秒前の刹那、大盾の裏拳で弾き返したのだ。
ーー パリィ レベル2(達人級) ーー
それは相手の勢い全てをハイリスクハイリターンに弾き返す、れっきとした戦闘技能だ。
「で、パーン!!」
『プシュルァン!』
ーーギャッ
ーーァィッ
ーーメメッ
痺れ、震え、怯み。己が力の逆流に芯まで毒された魔物たちへ、追撃パンチ、追い打ちパンチ、とりあえずパンチ。
肘から噴かしたエーテルバーニアの勢いを乗せ、それは鉄腕である以上にパイルバンカー(杭打ち機)の一撃かのようだった。
「ギフトシュラーグン(毒正拳)、異常無し! どんどんいっちゃりんさぁ~い!」
ーー レベル17 魔導技師 マリー・ベル ーー
『ガガガガ!』
ラララと歌うミニマムレディにヘイトが集まるが、彼女の分身たるカノジョがいなしていく。
それに空飛ぶ林檎小盾たちが、奇襲でも流れ弾でも捌いていく。
「マリーさんはディフェンダー(守り手)さんなのですか……!」
「ふふ~っ、良いリアクションねえイエちゃん! ここはわしに任して先に行きんさい!」
「不吉なセリフで遊ぶな!」
レディとしてメイドとして、先手に出しゃばるのは二流三流。
後手に応じて先手に立つ、これこそが貞淑の道。
彼女こそは……カウンター型ディフェンダーだった。
「じゃあ後ろは任せたからな! イエ、俺から離れるなよ!」
「はい……! マリーさんお使いください、っ、《インベントリ》!」
「あんがとお!」
イエは手元に開いた次元の狭間から……収納魔法から薬箱を引き抜き、マリーへ投げ渡した。『ディフェンダーさんにここは任せて先に行く用』とラベルされたそこには、持続治癒ポーションやスタミナカンフル剤が詰まっていた。
ーー レベルアップ! ーー
ーー レベル2 イエ ーー
「あ。レベルアップ、です」
「嫌な予感がするなあ……!」
前方からの魔物はハルトの双剣銃パラレラムで『風』の魔弾を見舞い、二人は走った……。
ーーヒィィィィィィン……!
「……! ハルトさん、今の鳴き声……!」
「ああ、大木ってアレか!?」
そして草地を突き抜けた先に、手がかり……いや終着点を見つけたのだ。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




