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karte.5-2「それで救われる人がいるのなら」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

「第七隊だけが暇してるって話だけどな。冒険者ギルドから斡旋されたり市民から直に依頼されたり……、騎士団に届くクエストならいくらでもあるんだが俺たちまで回ってこないんだよ」

「回ってこない、です?」

 眠たい眼を擦りながら、二人とも外に出る。

「『何でも屋』の第七隊に頼むまでもなく、特化型の騎士隊が他に6つもあるわけで……」

 手作り感溢れる井戸からポンプで水を引き、顔を洗いながら。ハルトは外苑の方々を指差すのだ。

 七番館とは比較にならないほど充実した砦たちに、冒険者ギルドの職員や市民たちが足を運んでいた。

「ダンジョン攻略や()()()処理に長けた、花形の第一隊」

 このベルアーデ城の威風と比べても遜色無い、もっとも大きな砦。

 後光に煌めいてさえいるような激レア防具を纏った騎士たちが、……高レベル装備ほど単純な物理防御力ではなくエーテルで護られているとはいえ、脇や太ももが露出しまくった出で立ちで市民の目を引いている。

「物理系ジョブの猛者揃い、第二隊」

 役目を終えた物理武器を建築の一部としてあしらった、ソリッドな佇まいの砦。

 いかにも傭兵然とした騎士たちが、バトルスタイルによって装甲の程度を変えた量産性重視の制服を纏っている。

「魔法系ジョブの賢者揃い、第三隊」

 ルーンや魔方陣を彫った石材によって建築自体が術式となっている、塔に近い砦。

 ミニミニ三角帽子を記章にした騎士たちが、色とりどりのローブを纏っている。

「作成職のマイスター集団、第四隊……」

「ごめんなさいハルトさん、頭がグワングワンしまふ」

「だから早く寝ろってあれほど……まあいいや俺もめんどくさくなってきたし、あとは学者部隊の第五隊と諜報専門の第六隊な」

 ポップな砦のエプロン騎士たち第四隊、格式ばった砦のジャケット騎士たち第五隊、地下へと伸びた砦のスーツ騎士たち第六隊。

 一から十ならぬ六まで長々と語ったところで、どうせこの寝ぼけ乙女はまともに聞いていないだろう。

「とにかく、そんななかでポッと出たウチは『王女の気まぐれ部隊』ぐらいにしか思われてないらしい。公序良俗に反しない限りは他で断られたどんなクエストでも引き受ける……って理念は立派だと思うけどな、だからよっぽどの時しか依頼は来ないわけだ」

「なるほど。やっぱり第七隊は素敵な場所です」

「顔洗ったのにまだ寝ぼけてるのか?」

「いいえ。ハルトさんたちは、苦しんでいる人たちの最後の拠り所になっているということですよね?」

 ……ハルトは目を丸くした。濡れてしまった後ろ髪を背に除けたイエの、まだローブも着ていないのに真白なる姿を見ながら。

「……まあ。モノは言い様か」

「それで救われる人がいるのなら、それも第七隊に()()()ことなのです。そこにあるだけで人の救いになれるなんてとってもスゴいことです」

「お、大げさだなあ」

「誰かを救う秘訣は、大げさでも何でも自分にできることを探し続けることですから」

「白魔法師の教えってやつ?」

「少し違います。何にもできない私が、何かできるようになるためのおまじないです」

 イエはハルトへ、これまた真っ白なタオルを渡してくれた。

「……おまえなら、アリステラの力が無くても良い白魔法師だよ」

「……? どうしてそこでお姉さんが出てくるのですか?」

「え、いや、だってそれは……」

 ハルトは、額を拭ったタオルに眼差しを隠してしまって……、

 そんな時だった、

 四番砦の窓からシェリスが飛び出したのは。

「おあ!?」「あっ」

「ほーっはっはっはっはっ!」

 正確には、三階の窓から。

「といやっとぅ!」

 鷲掴みにしていた毛糸玉たちを屋根の飾り彫刻に連投。なんともカラフルな鉤縄代わりにラペリング(垂直降下)してみせた。

「固ぃこと言うんじゃねぃやぃ! タライ回しにされてるぐらいならっ、このクエストは第七隊がいただいてくのだわ!」

 シェリスの手には依頼書があった。

 それを見せびらかす彼女を、砦の窓からエプロン騎士たちが膨れっ面で見下ろした。

「もうっ姫様ったらぁ!」「これでミューズヘン観光もパーかぁ」「第三隊にも断っといてくださいよ!」

「あいよー! あいつらを助っ人に呼ばなくてもうちの総取り……もとい総動員でまるっと解決なのだわ!」

 と。……振り向いたシェリスと、ハルトとイエは目が合った。

「おーーーーい! おまえたちぃ!」

 黄金の嵐が、悪魔のように美しい笑顔とともに駆けてくる。

「……そういうわけで俺たちは、自分から依頼をもぎ取ってくるくらいじゃないと予算が下りなくて飢え死にする。現に七番館の運営費はバイトで補ってるし、大抵の食材やアイテムは店じゃなくてダンジョンから狩ってきてる」

「ハルトさん、私、食費だけじゃなくてお家賃も入れさせてもらいます」

「遠慮したいところだが正直助かる」

「兄弟! イエ子! なぁにのんびりしてやがるのだわ、冒険の時間だぜぃ!」

 あの毛糸玉たち……最高級のサウザンスレッドだって後で弁償しないといけないだろうに、王女様は実に楽しそうだった。


 ○


 ベルアーデ帝国南東部、文化都市ミューズヘン。

 ……から郊外へ外れに外れた、アウター川沿いのとある湿地帯。

 今にも雨になりそうな曇天が、ただでさえ湿気ったこのフィールドに薄黒く立ち込めていた。

「要約すると依頼内容はこうじゃのう」

 手元から散っていった《ファストトラベル》の魔法書の代わりに、歩を進めながらマリーは依頼書を広げた。

「『村に不死身の魔物が現れます。冒険者ギルドから派遣された方では歯が立たなかった……のは仕方ないとしても、先日は騎士団第二隊にお願いしたのにまともに取り合ってくれませんでした。改めて依頼を出すので、真摯な対応ができる騎士様の助けを求めます』」

「よく読めるな……こんな怪文書みたいなポエムなのに」

「しゃよう……の、かげほうしにしふくをあまんじしわれらがまくうちに、あらわれたそれはしせいさかまくとけいのように」

「いーっ、やめるのだわイエ。首の後ろがなんかこうモニョッとならぁ」

 ハルトたち四人の目前に、もう目的地はあった。

 そこはごく小さな村だった。

 ……原色バリバリの家屋やモニュメントが蕩けあった、サイケデリックな村だった。

「「「「目が……」」」」

 おもわず、四人とも瞼を揉んでしまった。

「さすが前衛芸術の村アットテルです。私にはさっぱりわかりません」

「てやんでぃ。せっかく芸術の本場ミューズヘンが目と鼻の先にあるってぇのに、こんなとこで吹き溜まりこさえてるだけお察しなのだわ」

「どうせツッパるんならあ喧嘩相手がおらんとおもろぉないんにのう……ふふふー」

「カチコミに来たんじゃないだろ、レディースども」

 見たところ、魔物の姿は無い。

 しかし屋外に人の姿も無かった。

 天窓以外にはカーテンを閉めきっている家屋がほとんどで……。

 と、一際大きな家の扉が開かれた。

「ーーシェリザベート姫ではありまァせんか! いらっしゃァいませい!」

 花のコスプレをした、花瓶入りの紳士が現れた。

「ぶっっ……ほはははひゃひゃひゃひゃ! チ、チキショウめぃっこんなのでツボ入っちまったぃはふひひひひひ……!」

「シェリスさんシェリスさん、ツボではなくて花瓶だと思います」

「そこじゃないのよイエちゃん。こほん……は、はじめましてえ、あがーでも(ひょっとして)ここの村長さん? ベルアーデ騎士団第七隊です」

「ええ、ええ、しがないまとめ役ではございますゥがねェ。あの姫様にまで私のアートを気に入っていただけるとは恐悦至極にござァい! ます!」

(ウケてるだけだって。むしろバカにされてるって)

 花瓶から上半身を出した村長は、ツルハシで地を掻きながらやって来た。それこそ自分の手足のように取り回していたので、ハルトも笑いを堪えるのに必死だった。

「良いツルハシ捌きなのだわ、おっさん」

「ふゥーふふー、姫様こそ相当なシャベルアーティストと聞き及んでおりますゾ」

「一緒にするなぃ。そりゃそうと件の魔物ってぇのはどこにいるんでぃ?」

「おおゥそうでしたなァ、きゃつらはアウター川のほうからこの村へやって来るのです。ほれ、こんな雨模様の日にはそろそォろ……」

 ーープ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワン……

 村長が取り出した懐中時計が10時ジャストを示した時。開幕を知らせるようなその異音が、村の向こうに立ち上った。

 アウター川へと続く林の奥から、空を塗り潰すほど大きな黒雲が。

「でっ……!?」

 でかい、と怯みかけたハルトだった……が、

 その黒雲は巨大だったのではなく、無数の小さな影の集合体だったのだ。

 ざっと見ても十数以上のグループに分化しながら、村まで一直線に飛んできた。

 そして、それぞれが家々の屋根に降り立ったのだ。

 ーープォロロン、プァン、ロロロロロン♪

 ーーシャンッララララララン!

 ーーピン。チャッチャ。パパパパン……

 まるで一本の柱のように群れた、手のひらサイズの羽根付きリュートたちだった。

「やっぱり! ユスリュート(USlute)じゃあね!」

 マリーが持つ依頼書には、ペンの試し書きのようなモジャモジャが音符を発する様が描かれていた……。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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