囁く天使(あくま)は堕ちて
仏の顔ほど、恐ろしいものはない。
内に隠された本性が、とても知れたものではないからである。
恐ろしいモノはだいたい、表向きは優しいものです。
そんな当たり前のようなことを改めて文体で見る今回。
数十分の後。
ハルトを連れて、《ムスビ》の一行は船の中。
《アスガルド》を遠く離れ、帰路の軌道に乗っていた。
産女は黒仮面の内でカタカタと笑いながら、ハルトに語りかけていた。
「大丈夫ですよ。私たちは貴方だけにしか関心がごさいません。他のモノなどどうだっていいのです。無論、彼女たちに危害を加えるなどという愚行はしませんのでご安心くださいませ」
「・・・」
ハルトは黙ったまま産女を睨み、確固たる反抗の意志を示した。
「おや」
と、産女は声を発した。
「お気に召しませんでしたか?これは心外。
ご無礼をお許し下さい」
と、その直後、彼の部下の一人が叫んだ。
「司教様!!敵襲でごさいます!!」
「落ち着くのです、みなさん」
突如として声色を変え、為政者(やる気)スイッチを入れた産女に少し驚く。
「忘れたのですか、我々の誓った言葉を。『敵などというモノは、この世界に生きるモノにすべて、これを認めるべからず」。』
その言葉に、船内にいた全員が嘆いた。
「うわあぁぁぁぁぁあ!!」
「ワタクシめの浅はかで高慢で堕落した海馬をお赦し下さいぃぃぃい!!!」
「贄として葬って下されぇぇぇぇえええ!!!!」
開いた口が塞がらない。
目の前の異様な景色に、ハルトはその言葉のままの反応しか出来なかった。
何なんだ、これ・・・。
怖い、なんて通り越して最早気持ち悪ささえも感じる。
狂っている。目を見開いて天を仰いでいるアイツも、絶叫した挙げ句ヨダレを垂らして痙攣しているソイツも、ドイツもコイツも狂っている。
「みなさん、彼らに最大の慈悲を与えなさい」
「ヴォォアァォォォオアァアァアアアアア!!」
産女の命令に、船員は既に人ならざるモノの声で応えた。
「・・・・・・邪魔者は去ね」
そう産女が呟いた刹那。
巨大な爆発音と共に、空気がドォンと震えた。
空中で砕け散る船の、壊れる音が響く。
「ハルト様。私は貴方さえいれば他はどうだっていいのです」
ハルトの耳元で、いつの間にかそこに近づいた産女が囁く。
船が堕ちていく。
不時着の寸前に産女が再び囁いた言葉は、ハルトの耳に後々になってもこびりついたままになるのだった。
「・・・たとえ、それが命でも」
どうも、あーもんどツリーです。
毎度ありがとうございます。
いきなりですが、
「何にも執着心がない、というのは何にでも執着することより怖い」
と、作者は思います。
スポーツなんかを例に取るとですね、運動に執着しない、怪我をする、しかし健康に執着しない、すると怪我が悪化する・・・。
というと分かるでしょうか。
なぜ、この話をしたのか。
なぜなら次回出てくる新キャラがそういう、執着心が皆無の、変なヤツだからです(メタァ)
というわけで、話が徐々に深く?なっていきます。果たして終わりが来るのか否か。
次回もよろしくお願いします。
それではまた。




