霧の街にて
大変だ。
俺たちは次期校長の丹生を見つけるべく一旦街に降りて人に聞いてみたのだが、その足跡を知る者は遂にいなかった。
《霧の街・雨浦》。
この街はその名の通り一年を通して温暖多湿な気候。日中は毎日と言っても過言でないくらい霧がかかっており、苔の類が育つのには最適である。
ひとまず皆で丹生宅に戻り、雨宿りならぬ霧宿りをさせてもらうことにした。
「次期校長は霧の中に消えた・・・」
などと絵茉がふざける。が、正直俺はふざけている事態でない気がしてきた。
「なぁ、その、さ。丹生さん?は本当にどっか行っちゃったのかも」
「なにゆえに?」と璃瑠が問うてくる。
「だってさ、・・・ほら、コレ」
俺が手に取ったのは、一冊の厚い本。
ワインレッドの革に表紙を飾られた、結構値の張りそうなものである。
「コレが、どうかしたのか?」
「問題はコレの中。見てみてくれ」
わかった、と璃瑠は革本を手に取り、中を見始める。
「あ」
璃瑠は声を上げて、何かに気付いたようだった。
「見つけたか?」
「おう。だが、コレって・・・」
『私の家に、もう主としての私はいない。
奴らが来てしまった。最期に、このほんだけはまもらなけ』
そこで筆跡は切れていた。
「もう、丹生さんは事切れている。誰かに、殺されてしまった」
「そんな・・・」
数秒の静寂を打ち破り、俺は声を発した。
「奴らが誰なのか、突き止めるぞ。もしかしたら、学校を襲撃した何かにも関係あるかも知れないし」
「手掛かり、これしかないのに?」
絵茉が怯えて、恐る恐る訊いてくる。
「ああ。探す。皆には迷惑掛けるが、俺はどうも、気になると居ても立ってもいられない質でね」
「そこまで言うのなら、協力しましょう」
家を飛び出し、俺たちは犯人捜しをすることとなった。
犯人を捜しましょう。